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第9話 公爵様のプレゼントは重すぎる
「……あの、ジークハルト様。これは一体?」
朝食後、広間に連れて行かれた私は、目の前の光景に絶句した。
いつもは閑散としている広々としたホールが、まるで王都の高級デパートのようになっていたのだ。
色とりどりのドレス、煌びやかな宝石、見たこともないような高級そうな靴や鞄が、所狭しと並べられている。
その周りには、揉み手をした商人たちがずらりと整列していた。
「見ての通りだ。服屋と宝石商を呼んだ」
ジークハルト様は、私の腰に手を回しながら平然と言った。
「君が持ってきた荷物を見たが……あんなボロボロの服を着せておくわけにはいかない。私の妻として恥ずかしくないよう、一通り揃える必要がある」
「それは分かりますが、いくらなんでも量が多すぎませんか? 商隊が三つくらい来てますよね?」
「北部の有力な店をすべて呼びつけたからな」
彼は商人たちに顎をしゃくった。
「さあ、エルナ。好きなものを選べ」
「ええと……」
そう言われても、選択肢が多すぎて目が回る。
シルク、ベルベット、レース……どれも実家のミリアが着ていたものより遥かに質が良い。
値段のタグは見当たらないが、おそらくドレス一着で私の前世の年収くらいするのではないだろうか。
迷っている私を見て、ジークハルト様が溜息をついた。
「……選べないのか? ならば仕方ない」
彼は商人に向かって、人差し指をスッと動かした。
「――端から端まで、すべて置いていけ」
「「「「ありがとうございますぅぅぅッ!!!」」」」
商人たちの歓喜の絶叫が広間に響き渡る。
私は慌ててジークハルト様の袖を引っ張った。
「待ってください! 正気ですか!? 体は一つしかないんですよ!?」
「日替わりで着ればいいだろう。それに、君に何が似合うか分からないからな。とりあえず全部試してみて、一番可愛い君を私に見せてくれ」
「一番可愛い君」なんてさらっと言わないでほしい。破壊力がすごい。
結局、私の抗議は虚しく、ドレスの山が購入決定となった。
「次は宝石だ」
ドレスの次は、貴金属のコーナーへ連行される。
ダイヤ、ルビー、サファイア……目がくらむような輝きだ。
「これなんかどうだ? 君の瞳の色に似ている」
彼が手に取ったのは、淡いピンクダイヤモンドのネックレスだった。
確かに可愛いけれど、中央の石が卵くらいの大きさがある。重い。物理的に重いし、お値段的な意味でも重すぎる。
「ジークハルト様、お気持ちは嬉しいですが……こんな高価なものを頂くわけには……」
「遠慮するな。私の資産は、使いきれないほど余っている」
「でも……」
「……嫌か? 私からの贈り物は」
彼がシュンと眉を下げた。
捨てられた子犬のような顔で見つめられると、断れるわけがない。
「……嫌じゃ、ないです。嬉しいです」
「そうか」
彼はパッと表情を明るくすると、そのネックレスを私の首につけてくれた。ひんやりとしたプラチナのチェーンが鎖骨に触れる。
「よく似合う。……だが、少し物足りないな」
彼は自分の懐から、別の小箱を取り出した。
中に入っていたのは、彼の瞳と同じ、深く透き通ったアイスブルーの指輪だった。市販の宝石ではない。内側から魔力が脈打っているのが分かる。
「これはアイゼンガルド家に代々伝わる『守護の指輪』だ。私の魔力を込めてある」
「えっ、そんな大事なものを!?」
「君は無防備すぎるからな。私が側にいない時、万が一危険が迫ったら、この指輪が結界を張って君を守る」
彼は私の左手を取り、薬指にその指輪をゆっくりと嵌めた。
「それに……これを着けていれば、誰が見ても『君は私のもの』だと分かるだろう?」
彼は指輪に口づけを落とし、ニヤリと独占欲を滲ませた笑みを浮かべた。
その言葉に顔がカッと熱くなる。
「虫除けという意味でも、効果は絶大だな」
ドレスの山も、高価な宝石も、すべては私を守るためであって、私を独り占めするため。
この不器用で重たい愛情が、今の私にはたまらなく心地よかった。
「……ありがとうございます。大切にします」
私が指輪を胸に抱いて微笑むと、彼は満足げに頷き、そして商人たちに向かって再び宣言した。
「よし。じゃあ宝石も、ここからここまで全部だ」
「だから買いすぎですってば!!」
私の幸せな悲鳴が北の屋敷にこだました。
朝食後、広間に連れて行かれた私は、目の前の光景に絶句した。
いつもは閑散としている広々としたホールが、まるで王都の高級デパートのようになっていたのだ。
色とりどりのドレス、煌びやかな宝石、見たこともないような高級そうな靴や鞄が、所狭しと並べられている。
その周りには、揉み手をした商人たちがずらりと整列していた。
「見ての通りだ。服屋と宝石商を呼んだ」
ジークハルト様は、私の腰に手を回しながら平然と言った。
「君が持ってきた荷物を見たが……あんなボロボロの服を着せておくわけにはいかない。私の妻として恥ずかしくないよう、一通り揃える必要がある」
「それは分かりますが、いくらなんでも量が多すぎませんか? 商隊が三つくらい来てますよね?」
「北部の有力な店をすべて呼びつけたからな」
彼は商人たちに顎をしゃくった。
「さあ、エルナ。好きなものを選べ」
「ええと……」
そう言われても、選択肢が多すぎて目が回る。
シルク、ベルベット、レース……どれも実家のミリアが着ていたものより遥かに質が良い。
値段のタグは見当たらないが、おそらくドレス一着で私の前世の年収くらいするのではないだろうか。
迷っている私を見て、ジークハルト様が溜息をついた。
「……選べないのか? ならば仕方ない」
彼は商人に向かって、人差し指をスッと動かした。
「――端から端まで、すべて置いていけ」
「「「「ありがとうございますぅぅぅッ!!!」」」」
商人たちの歓喜の絶叫が広間に響き渡る。
私は慌ててジークハルト様の袖を引っ張った。
「待ってください! 正気ですか!? 体は一つしかないんですよ!?」
「日替わりで着ればいいだろう。それに、君に何が似合うか分からないからな。とりあえず全部試してみて、一番可愛い君を私に見せてくれ」
「一番可愛い君」なんてさらっと言わないでほしい。破壊力がすごい。
結局、私の抗議は虚しく、ドレスの山が購入決定となった。
「次は宝石だ」
ドレスの次は、貴金属のコーナーへ連行される。
ダイヤ、ルビー、サファイア……目がくらむような輝きだ。
「これなんかどうだ? 君の瞳の色に似ている」
彼が手に取ったのは、淡いピンクダイヤモンドのネックレスだった。
確かに可愛いけれど、中央の石が卵くらいの大きさがある。重い。物理的に重いし、お値段的な意味でも重すぎる。
「ジークハルト様、お気持ちは嬉しいですが……こんな高価なものを頂くわけには……」
「遠慮するな。私の資産は、使いきれないほど余っている」
「でも……」
「……嫌か? 私からの贈り物は」
彼がシュンと眉を下げた。
捨てられた子犬のような顔で見つめられると、断れるわけがない。
「……嫌じゃ、ないです。嬉しいです」
「そうか」
彼はパッと表情を明るくすると、そのネックレスを私の首につけてくれた。ひんやりとしたプラチナのチェーンが鎖骨に触れる。
「よく似合う。……だが、少し物足りないな」
彼は自分の懐から、別の小箱を取り出した。
中に入っていたのは、彼の瞳と同じ、深く透き通ったアイスブルーの指輪だった。市販の宝石ではない。内側から魔力が脈打っているのが分かる。
「これはアイゼンガルド家に代々伝わる『守護の指輪』だ。私の魔力を込めてある」
「えっ、そんな大事なものを!?」
「君は無防備すぎるからな。私が側にいない時、万が一危険が迫ったら、この指輪が結界を張って君を守る」
彼は私の左手を取り、薬指にその指輪をゆっくりと嵌めた。
「それに……これを着けていれば、誰が見ても『君は私のもの』だと分かるだろう?」
彼は指輪に口づけを落とし、ニヤリと独占欲を滲ませた笑みを浮かべた。
その言葉に顔がカッと熱くなる。
「虫除けという意味でも、効果は絶大だな」
ドレスの山も、高価な宝石も、すべては私を守るためであって、私を独り占めするため。
この不器用で重たい愛情が、今の私にはたまらなく心地よかった。
「……ありがとうございます。大切にします」
私が指輪を胸に抱いて微笑むと、彼は満足げに頷き、そして商人たちに向かって再び宣言した。
「よし。じゃあ宝石も、ここからここまで全部だ」
「だから買いすぎですってば!!」
私の幸せな悲鳴が北の屋敷にこだました。
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