18 / 18
第18話 氷のチャペル
「エルナ、少し付き合ってくれ」
夕食の後、ジークハルト様に誘われて、私は屋敷の裏庭へと連れ出された。
夜の北部は冷えるけれど、彼がしっかりと肩を抱いてくれているし、特注の毛皮のコートもあるから寒くはない。むしろ澄み切った夜空に広がる満天の星空が美しくて、私はほうっと息を漏らした。
「綺麗……。まるで宝石箱をひっくり返したみたい」
「気に入ったか? だが、これだけではない」
ジークハルト様が夜空に向かってスッと手を掲げた。すると、彼の手のひらから淡い光が立ち昇り、夜空へと吸い込まれていく。
次の瞬間――
パァァァッ……!
頭上にエメラルドグリーンと紫のカーテンが揺らめいた。オーロラだ。
しかも、ただの自然現象ではない。光は生き物のように舞い踊り、やがて私たちの周囲を取り囲むように降り注いでくる。
さらに、彼の魔力が足元の雪原を走り抜けると、そこからクリスタルのような透明な薔薇が次々と咲き乱れ、あっという間に「氷の花園」が出来上がった。
「す、すごい……! これ、全部旦那様の魔法ですか?」
「ああ。攻撃以外でこんな大規模な魔法を使ったのは初めてだ」
彼は少し照れくさそうに鼻をかいた。
「エルナ。……私は、君に謝らなければならないことがある」
「謝る? 何をですか?」
彼は私の両手を包み込み、真剣な瞳で見つめてきた。
「最初に君が来た時、私は君を『道具』として見ていた。不眠を治すための薬、魔力を吸わせるためのスポンジ……そんなふうに扱っていたことを、許してほしい」
「そんな、気にしていません。私だって最初は、衣食住を目当てに来ましたから」
「それでもだ。……今の私は、君がいない世界など考えられない」
彼は一歩近づき、私の腰に手を回した。
触れ合う場所から、彼の体温と鼓動の速さが伝わってくる。
最強の公爵様が緊張しているのだ。
「魔力を吸ってくれるから好きなのではない。エルナ、君が笑ってくれると嬉しい。君が美味しそうに食べていると幸せだ。君が泣いていると、胸が張り裂けそうになる」
彼は私の左手を持ち上げ、薬指の「守護の指輪」に口づけを落とした。
「これはまだ、仮の契約だ。……エルナ、私と正式に結婚してほしい」
「え……」
「形式上の妻ではなく、心から愛し合う『唯一の妻』として。……これからの生涯、私の全てを君に捧げさせてくれないか」
プロポーズ。
実家から追い出された時は、まさかこんな日が来るなんて想像もしなかった。
「生贄」として来た場所で、こんなにも温かくて、甘い愛をもらえるなんて。
視界が滲んで、涙が溢れ出した。
悲しい涙じゃない。胸がいっぱいになって溢れ出た、幸せの雫だ。
「……はい。私でよければ、もらってください」
「本当か?」
「もちろんです。私だって……ジーク様のことが、大好きですから」
私がそう告げた瞬間、彼は私を壊れ物のように、でも力強く抱きしめた。
空にはオーロラ、足元には氷の薔薇。
幻想的な光の中で、私たちは初めて、契約も打算もない「愛の口づけ」を交わした。
唇が離れた時、彼は今まで見た中で一番優しく、蕩けるような笑顔を見せた。
「愛している、エルナ。……さあ、式を挙げよう。国中が羨むような、最高の結婚式を」
こうして、私たちの関係は「主従」から「最愛のパートナー」へと変わった。
夕食の後、ジークハルト様に誘われて、私は屋敷の裏庭へと連れ出された。
夜の北部は冷えるけれど、彼がしっかりと肩を抱いてくれているし、特注の毛皮のコートもあるから寒くはない。むしろ澄み切った夜空に広がる満天の星空が美しくて、私はほうっと息を漏らした。
「綺麗……。まるで宝石箱をひっくり返したみたい」
「気に入ったか? だが、これだけではない」
ジークハルト様が夜空に向かってスッと手を掲げた。すると、彼の手のひらから淡い光が立ち昇り、夜空へと吸い込まれていく。
次の瞬間――
パァァァッ……!
頭上にエメラルドグリーンと紫のカーテンが揺らめいた。オーロラだ。
しかも、ただの自然現象ではない。光は生き物のように舞い踊り、やがて私たちの周囲を取り囲むように降り注いでくる。
さらに、彼の魔力が足元の雪原を走り抜けると、そこからクリスタルのような透明な薔薇が次々と咲き乱れ、あっという間に「氷の花園」が出来上がった。
「す、すごい……! これ、全部旦那様の魔法ですか?」
「ああ。攻撃以外でこんな大規模な魔法を使ったのは初めてだ」
彼は少し照れくさそうに鼻をかいた。
「エルナ。……私は、君に謝らなければならないことがある」
「謝る? 何をですか?」
彼は私の両手を包み込み、真剣な瞳で見つめてきた。
「最初に君が来た時、私は君を『道具』として見ていた。不眠を治すための薬、魔力を吸わせるためのスポンジ……そんなふうに扱っていたことを、許してほしい」
「そんな、気にしていません。私だって最初は、衣食住を目当てに来ましたから」
「それでもだ。……今の私は、君がいない世界など考えられない」
彼は一歩近づき、私の腰に手を回した。
触れ合う場所から、彼の体温と鼓動の速さが伝わってくる。
最強の公爵様が緊張しているのだ。
「魔力を吸ってくれるから好きなのではない。エルナ、君が笑ってくれると嬉しい。君が美味しそうに食べていると幸せだ。君が泣いていると、胸が張り裂けそうになる」
彼は私の左手を持ち上げ、薬指の「守護の指輪」に口づけを落とした。
「これはまだ、仮の契約だ。……エルナ、私と正式に結婚してほしい」
「え……」
「形式上の妻ではなく、心から愛し合う『唯一の妻』として。……これからの生涯、私の全てを君に捧げさせてくれないか」
プロポーズ。
実家から追い出された時は、まさかこんな日が来るなんて想像もしなかった。
「生贄」として来た場所で、こんなにも温かくて、甘い愛をもらえるなんて。
視界が滲んで、涙が溢れ出した。
悲しい涙じゃない。胸がいっぱいになって溢れ出た、幸せの雫だ。
「……はい。私でよければ、もらってください」
「本当か?」
「もちろんです。私だって……ジーク様のことが、大好きですから」
私がそう告げた瞬間、彼は私を壊れ物のように、でも力強く抱きしめた。
空にはオーロラ、足元には氷の薔薇。
幻想的な光の中で、私たちは初めて、契約も打算もない「愛の口づけ」を交わした。
唇が離れた時、彼は今まで見た中で一番優しく、蕩けるような笑顔を見せた。
「愛している、エルナ。……さあ、式を挙げよう。国中が羨むような、最高の結婚式を」
こうして、私たちの関係は「主従」から「最愛のパートナー」へと変わった。
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(2件)
あなたにおすすめの小説
「仲睦まじい夫婦」であるはずのわたしの夫は、わたしの葬儀で本性をあらわした
ぽんた
恋愛
サヤ・ラドフォード侯爵夫人が死んだ。その葬儀で、マッケイン王国でも「仲睦まじい夫婦」であるはずの彼女の夫が、妻を冒涜した。その聞くに堪えない本音。そんな夫の横には、夫が従妹だというレディが寄り添っている。サヤ・ラドフォードの棺の前で、夫とその従妹はサヤを断罪する。サヤは、ほんとうに彼らがいうような悪女だったのか?
※ハッピーエンド確約。ざまぁあり。ご都合主義のゆるゆる設定はご容赦願います。
【完結】孤高の皇帝は冷酷なはずなのに、王妃には甘過ぎです。
朝日みらい
恋愛
異国からやってきた第3王女のアリシアは、帝国の冷徹な皇帝カイゼルの元に王妃として迎えられた。しかし、冷酷な皇帝と呼ばれるカイゼルは周囲に心を許さず、心を閉ざしていた。しかし、アリシアのひたむきさと笑顔が、次第にカイゼルの心を溶かしていき――。
十年間虐げられたお針子令嬢、冷徹侯爵に狂おしいほど愛される。
er
恋愛
十年前に両親を亡くしたセレスティーナは、後見人の叔父に財産を奪われ、物置部屋で使用人同然の扱いを受けていた。義妹ミレイユのために毎日ドレスを縫わされる日々——でも彼女には『星霜の記憶』という、物の過去と未来を視る特別な力があった。隠されていた舞踏会の招待状を見つけて決死の潜入を果たすと、冷徹で美しいヴィルフォール侯爵と運命の再会! 義妹のドレスが破れて大恥、叔父も悪事を暴かれて追放されるはめに。失われた伝説の刺繍技術を復活させたセレスティーナは宮廷筆頭職人に抜擢され、「ずっと君を探していた」と侯爵に溺愛される——
義兄の溺愛により悪役令嬢にはなれません!?
水江 蓮
恋愛
卒業パーティーの日私セレーナ・ルチウド公爵令嬢は第一王子に婚約破棄を突き付けられた…。
あ…やっぱり私悪役令嬢だったんだね…。
そんな気はしていたんだけど…でもね?残念でした。
私の婚約に貴方は関係ないんですよ。
…だって私の事を溺愛する義兄がいるんだから…。
義兄の溺愛により…悪役令嬢の活動なんて一つもできていないですから…。
生贄として捧げられた「忌み子」の私、あやかし皇帝の薬膳料理番になります ~呪いで拒食症の白虎陛下は、私のおかゆに胃袋を掴まれたようです~
腐ったバナナ
恋愛
実家の「一条家」で霊力なしの忌み子として虐げられてきた凛。生贄としてあやかしの国・天厳国へ捧げられた彼女を待っていたのは、呪いによって食事がすべて「泥の味」に変わる孤独な白虎皇帝・白曜だった。
死を覚悟した凛だったが、前世で培った「管理栄養士」の知識は、あやかしの国では伝説の「浄化の力」として目醒める!
最高級の出汁、完璧な栄養バランス、そして食べる者を想う真心。凛が作る一杯の「黄金の粥」が、数年間不食だった王の味覚を劇的に呼び起こした。
「美味い。……泥ではない味がする」
胃袋を掴まれた皇帝の態度は一変。冷酷な暴君から、凛を誰にも触れさせたくない「超絶過保護な独占欲の塊」へと豹変してしまい……!?
嫌がらせをする後宮の妃や、手の平を返して擦り寄る実家を「料理」と「陛下からの愛」で一掃する、美味しくて爽快な異世界中華風ファンタジー。
【完結】冷遇され続けた私、悪魔公爵と結婚して社交界の花形になりました~妹と継母の陰謀は全てお見通しです~
夢喰るか
恋愛
名門貴族フォンティーヌ家の長女エリアナは、継母と美しい義妹リリアーナに虐げられ、自分の価値を見失っていた。ある日、「悪魔公爵」と恐れられるアレクシス・ヴァルモントとの縁談が持ち込まれる。厄介者を押し付けたい家族の思惑により、エリアナは北の城へ嫁ぐことに。
灰色だった薔薇が、愛によって真紅に咲く物語。
婚約破棄された公爵令嬢を助けたら、最強の領地経営パートナーになりました~チート転生者は女神の使徒を辞めて、彼女と荒廃領地で幸せに暮らしたい~
黒野ぐらふ
恋愛
過労死した元社畜・朝倉琉生が目を覚ますと、異世界の伯爵家三男ルーク(15歳)になっていた。
しかも場所は帝城の謁見の間——婚約破棄の修羅場の真っ最中。
隣で震えていたのは、冤罪を着せられた金髪碧眼の公爵令嬢リディア。
女神にもらったチートスキル「心眼」で嘘と真実を見抜いたルークは、
理不尽な茶番劇をぶち壊すことを決意する。
「その願い、承りました!」
前世で誰も守れなかった男が、
この世界でたった一人の少女を守り抜く。
婚約破棄のざまぁ劇から、荒廃した領地の復興へ。
チート転生者×誇り高き公爵令嬢の、異世界ラブ&領地経営ファンタジー。
『壁の花』の地味令嬢、『耳が良すぎる』王子殿下に求婚されています〜《本業》に差し支えるのでご遠慮願えますか?〜
水都 ミナト
恋愛
マリリン・モントワール伯爵令嬢。
実家が運営するモントワール商会は王国随一の大商会で、優秀な兄が二人に、姉が一人いる末っ子令嬢。
地味な外観でパーティには来るものの、いつも壁側で1人静かに佇んでいる。そのため他の令嬢たちからは『地味な壁の花』と小馬鹿にされているのだが、そんな嘲笑をものととせず彼女が壁の花に甘んじているのには理由があった。
「商売において重要なのは『信頼』と『情報』ですから」
※設定はゆるめ。そこまで腹立たしいキャラも出てきませんのでお気軽にお楽しみください。2万字程の作品です。
※カクヨム様、なろう様でも公開しています。
一気に読んでしまいました。
これからも続き楽しみにしています。
素敵なお話ありがとうございます😊
柵から開放されたサバサバ系苦労人のヒロインが、弱点が無くなると意外とチョロ可愛かった旦那様に振り回されるのが楽しいです。
お屋敷のメイドになって、他の使用人の方々と《旦那様❤奥様》の推し活をしたいぞー!! と思いました🤭