冷徹公爵様は、捨てられた私が『治癒』するまで離してくれません

咲月ねむと

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​第18話 氷のチャペル

​「エルナ、少し付き合ってくれ」

 ​夕食の後、ジークハルト様に誘われて、私は屋敷の裏庭へと連れ出された。
 夜の北部は冷えるけれど、彼がしっかりと肩を抱いてくれているし、特注の毛皮のコートもあるから寒くはない。むしろ澄み切った夜空に広がる満天の星空が美しくて、私はほうっと息を漏らした。

​「綺麗……。まるで宝石箱をひっくり返したみたい」

「気に入ったか?  だが、これだけではない」

 ​ジークハルト様が夜空に向かってスッと手を掲げた。すると、彼の手のひらから淡い光が立ち昇り、夜空へと吸い込まれていく。

 次の瞬間――

​パァァァッ……!

 ​頭上にエメラルドグリーンと紫のカーテンが揺らめいた。オーロラだ。
 しかも、ただの自然現象ではない。光は生き物のように舞い踊り、やがて私たちの周囲を取り囲むように降り注いでくる。

 ​さらに、彼の魔力が足元の雪原を走り抜けると、そこからクリスタルのような透明な薔薇が次々と咲き乱れ、あっという間に「氷の花園」が出来上がった。

​「す、すごい……!  これ、全部旦那様の魔法ですか?」

「ああ。攻撃以外でこんな大規模な魔法を使ったのは初めてだ」

 ​彼は少し照れくさそうに鼻をかいた。

​「エルナ。……私は、君に謝らなければならないことがある」

「謝る?  何をですか?」

 ​彼は私の両手を包み込み、真剣な瞳で見つめてきた。

​「最初に君が来た時、私は君を『道具』として見ていた。不眠を治すための薬、魔力を吸わせるためのスポンジ……そんなふうに扱っていたことを、許してほしい」

​「そんな、気にしていません。私だって最初は、衣食住を目当てに来ましたから」

「それでもだ。……今の私は、君がいない世界など考えられない」

 ​彼は一歩近づき、私の腰に手を回した。
 触れ合う場所から、彼の体温と鼓動の速さが伝わってくる。

 最強の公爵様が緊張しているのだ。

​「魔力を吸ってくれるから好きなのではない。エルナ、君が笑ってくれると嬉しい。君が美味しそうに食べていると幸せだ。君が泣いていると、胸が張り裂けそうになる」

 ​彼は私の左手を持ち上げ、薬指の「守護の指輪」に口づけを落とした。

​「これはまだ、仮の契約だ。……エルナ、私と正式に結婚してほしい」

​「え……」

「形式上の妻ではなく、心から愛し合う『唯一の妻』として。……これからの生涯、私の全てを君に捧げさせてくれないか」
  
 プロポーズ。
 実家から追い出された時は、まさかこんな日が来るなんて想像もしなかった。
「生贄」として来た場所で、こんなにも温かくて、甘い愛をもらえるなんて。
 
 ​視界が滲んで、涙が溢れ出した。
 悲しい涙じゃない。胸がいっぱいになって溢れ出た、幸せの雫だ。

​「……はい。私でよければ、もらってください」

「本当か?」

「もちろんです。私だって……ジーク様のことが、大好きですから」

 ​私がそう告げた瞬間、彼は私を壊れ物のように、でも力強く抱きしめた。
 空にはオーロラ、足元には氷の薔薇。
 幻想的な光の中で、私たちは初めて、契約も打算もない「愛の口づけ」を交わした。

 ​唇が離れた時、彼は今まで見た中で一番優しく、蕩けるような笑顔を見せた。

​「愛している、エルナ。……さあ、式を挙げよう。国中が羨むような、最高の結婚式を」

 ​こうして、私たちの関係は「主従」から「最愛のパートナー」へと変わった。
感想 2

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みんなの感想(2件)

くーちゃん
2026.02.07 くーちゃん

一気に読んでしまいました。
これからも続き楽しみにしています。
素敵なお話ありがとうございます😊

解除
響楽堂
2026.02.07 響楽堂

柵から開放されたサバサバ系苦労人のヒロインが、弱点が無くなると意外とチョロ可愛かった旦那様に振り回されるのが楽しいです。

お屋敷のメイドになって、他の使用人の方々と《旦那様❤奥様》の推し活をしたいぞー!! と思いました🤭

解除

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