地味だと婚約破棄されましたが、私の作る"お弁当"が、冷徹公爵様やもふもふ聖獣たちの胃袋を掴んだようです〜隣国の冷徹公爵様に拾われ幸せ!〜

咲月ねむと

文字の大きさ
26 / 38

第26話 穏やかな日々と、新しいお弁当

 王都からの使節団が去った後、アシュフォードの城には、嘘のような平穏が戻ってきた。
 ​あれだけ張り詰めていた空気はすっかりと消え、騎士たちの訓練の声も、どこか明るい響きを取り戻している。

 ​そして、私とヴィンセント様の間にも、新しい関係が芽生え始めていた。
 ​彼は相変わらず口数が少なく、表情もあまり変わらない。けれど、私を見るその眼差しには、確かな優しさと、そして時折、熱っぽい何かが宿るようになった。

 ​二人きりの朝食は、すっかり私たちの習慣になっていた。
 ​厨房の小さなテーブルで他愛もない話をしながら食事をする。時には、彼が領地のことで悩んでいることをぽつりとこぼし、私が「これを食べて、元気を出してください」と特別な一品を出すこともあった。 

 ​それは、まるで夫婦のような穏やかで満ち足りた時間だった。

 ​そんなある日のこと。
 ​朝食の後、私がフェンリルへのご飯を持って森へ向かおうとすると、ヴィンセント様が「俺も行こう」とついてきた。

 ​森の入り口で、フェンリルはいつものように巨大な尻尾を振って私を迎えてくれたが、私の隣にヴィンセント様がいることに気づくと、少しだけ警戒するように動きを止めた。

​「グルル……」

 ​どうやら、私を取られると思って、やきもちを焼いているらしい。 

​「大丈夫よ、フェンリル。ヴィンセント様は、私の大切な人ですから」

​ 私がそう言って優しく頭を撫でると、フェンリルは納得したように、ふん、と一つ鼻を鳴らした。そして、ヴィンセント様の方をじっと見つめ、威厳のある黄金色の瞳で圧力をかける。
 ​その様子がおかしくて、私とヴィンセント様は、思わず顔を見合わせて笑ってしまった。

 ​城に戻る道すがら、ヴィンセント様がふと、足を止めた。
 ​視線の先は、城の裏手にある、小さな菜園だった。そこでは城で働くメイドや下働きの子供たちが、土いじりをしながらささやかな野菜を育てている。

​「……あそこの収穫が、あまり良くないと聞く」

 ​彼の呟きに、私は菜園に目を向けた。
 確かに、野菜の育ちはあまり良くなく、子供たちの表情も少し元気がないように見える。

​「ヴィンセント様、少しよろしいでしょうか」

 ​私は彼の許可を得ると、菜園で作業をしていた人々に声をかけ、土の状態や日当たりについて、いくつか質問をした。
 前世で、祖母の家庭菜園を手伝っていた記憶が、こんなところで役に立つなんて。

​ そして、私は一つの提案をした。

​「皆さん、もしよかったら、明日のお昼、私にお弁当を作らせてもらえませんか? みんなで、この菜園でピクニックをするんです」

 ​私の突然の申し出に、皆きょとんとしていた。​けれど、私の隣に立つヴィンセント様が穏やかに頷くのを見て、やがてその顔に、ぱあっと明るい笑顔が広がった。

 ​公爵様のためでもなく、聖獣のためでも、騎士団のためでもない。

 ​この城で働く、名もなき人々のための、新しいお弁当。
 そのことを考えると、私の心は、また新しい喜びで満たされていくのを感じていた。
感想 6

あなたにおすすめの小説

「通訳など辞書で足りる」と追放された令嬢——三国会談で、婚約者は一言も話せなくなった

歩人
ファンタジー
宮廷通訳官エレノーラは五つの言語を操り、婚約者クラウスの外交を陰で支えてきた。 だがクラウスは言った。「通訳など辞書で足りる。お前は要らない」 追放されたエレノーラは隣国で新たな道を歩み始める。 一方、クラウスは三国会談の場で辞書片手に立ち往生。 誤訳が外交問題に発展し、窮地に陥ったその場に、隣国の通訳官として現れたのは——。 「その言葉は、もう翻訳できません」

悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています

かきんとう
恋愛
 王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。  磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。  その中心に、私は立っていた。  ――今日、この瞬間のために。 「エレノア・フォン・リーベルト嬢」  高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。

追放された悪役令嬢、規格外魔力でもふもふ聖獣を手懐け隣国の王子に溺愛される

黒崎隼人
ファンタジー
「ようやく、この息苦しい生活から解放される!」 無実の罪で婚約破棄され、国外追放を言い渡された公爵令嬢エレオノーラ。しかし彼女は、悲しむどころか心の中で歓喜の声をあげていた。完璧な淑女の仮面の下に隠していたのは、国一番と謳われた祖母譲りの規格外な魔力。追放先の「魔の森」で力を解放した彼女の周りには、伝説の聖獣グリフォンをはじめ、可愛いもふもふ達が次々と集まってきて……!? 自由気ままなスローライフを満喫する元悪役令嬢と、彼女のありのままの姿に惹かれた「氷の王子」。二人の出会いが、やがて二つの国の運命を大きく動かすことになる。 窮屈な世界から解き放たれた少女が、本当の自分と最高の幸せを見つける、溺愛と逆転の異世界ファンタジー、ここに開幕!

私を裏切った不倫夫に「どなたですか?」と微笑むまで 〜没落令嬢の復讐劇〜

恋せよ恋
恋愛
「早くあんな女と別れて、可愛い子と一緒になりたいよ」 不倫中の夫が笑う声を聞き、絶望の中で事故に遭うジェシカ。 結婚五年目に授かったお腹の子を失った彼女は、 「記憶を失ったフリ」で夫と地獄の婚家を捨てることを決意。 元男爵令嬢の薄幸ヒロインは、修道院で静かに時を過ごす。 独り身領主の三歳の男の子に懐かれ、なぜか領主まで登場! 無実の罪をなすりつけ、私を使い潰した報いを受けなさい。 記憶喪失を装った没落令嬢による、「ざまぁ」が幕を開ける! ※本作品には、馬車事故による流産の描写が含まれます。  苦手な方はご注意ください。主人公が絶対に幸せになる  物語ですので、安心してお読みいただければ幸いです。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!

ベールを上げた新郎は『君じゃない』と叫んだ

ハートリオ
恋愛
結婚式で新郎に『君じゃない』と叫ばれたのはウィオラ。 スピーナ子爵家の次女。 どうやら新郎が結婚する積りだったのは姉のリリウム。 ウィオラはいつも『じゃない方』 認められない、 選ばれない… そんなウィオラは―― 中世ヨーロッパ風異世界でのお話です。 よろしくお願いします。

完結·婚約破棄された氷の令嬢は、嫁がされた枯れおじのもとで花開く

恋愛
ティリアは辺境にある伯爵の娘であり、第三王子ガフタの婚約者であった。 だが、この婚約が気に入らないガフタは学園生活でティリアを冷遇し、卒業パーティーで婚約破棄をする。 しかも、このまま実家に帰ろうとするティリアにガフタは一回り以上年上の冴えないおっさん男爵のところへ嫁ぐように命令する。 こうしてティリアは男爵の屋敷へと向かうのだが、そこにいたのは…… ※完結まで毎日投稿します ※小説家になろう、Nolaノベルにも投稿中

悪役令嬢の身代わりで追放された侍女、北の地で才能を開花させ「氷の公爵」を溶かす

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の罪は、万死に値する!」 公爵令嬢アリアンヌの罪をすべて被せられ、侍女リリアは婚約破棄の茶番劇のスケープゴートにされた。 忠誠を尽くした主人に裏切られ、誰にも信じてもらえず王都を追放される彼女に手を差し伸べたのは、彼女を最も蔑んでいたはずの「氷の公爵」クロードだった。 「君が犯人でないことは、最初から分かっていた」 冷徹な仮面の裏に隠された真実と、予想外の庇護。 彼の領地で、リリアは内に秘めた驚くべき才能を開花させていく。 一方、有能な「影」を失った王太子と悪役令嬢は、自滅の道を転がり落ちていく。 これは、地味な侍女が全てを覆し、世界一の愛を手に入れる、痛快な逆転シンデレラストーリー。

婚約破棄された私は、号泣しながらケーキを食べた~限界に達したので、これからは自分の幸せのために生きることにしました~

キョウキョウ
恋愛
 幼い頃から辛くて苦しい妃教育に耐えてきたオリヴィア。厳しい授業と課題に、何度も心が折れそうになった。特に辛かったのは、王妃にふさわしい体型維持のために食事制限を命じられたこと。  とても頑張った。お腹いっぱいに食べたいのを我慢して、必死で痩せて、体型を整えて。でも、その努力は無駄になった。  婚約相手のマルク王子から、無慈悲に告げられた別れの言葉。唐突に、婚約を破棄すると言われたオリヴィア。  アイリーンという令嬢をイジメたという、いわれのない罪で責められて限界に達した。もう無理。これ以上は耐えられない。  そしてオリヴィアは、会場のテーブルに置いてあったデザートのケーキを手づかみで食べた。食べながら泣いた。空腹の辛さから解放された気持ちよさと、ケーキの美味しさに涙が出たのだった。 ※本作品は、少し前に連載していた試作の完成版です。大まかな展開や設定は、ほぼ変わりません。加筆修正して、完成版として連載します。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。