地味だと婚約破棄されましたが、私の作る"お弁当"が、冷徹公爵様やもふもふ聖獣たちの胃袋を掴んだようです〜隣国の冷徹公爵様に拾われ幸せ!〜

咲月ねむと

文字の大きさ
30 / 38

第30話 領地まるごと、一大プロジェクト

 私が総指揮官による『冬ごもり計画』。
 その号令が発せられた瞬間から、アシュフォードの城と領地は、一つの大きな家族のように動き出した。

 ​まず私が向かったのは、厨房ではなく、城の広大な中庭だった。
 ​そこに城中の人々――料理人、メイド、騎士、庭師、そして下働きの子供たちまで、全員を集めてもらったのだ。

 ​最初は「何が始まるんだ?」と戸惑っていた皆も、私が計画の全容を説明し始めると、その顔は次第に真剣なものへと変わっていった。

​「これは、私たちの冬を守るための、全員参加のプロジェクトです! 部署も、身分も関係ありません。皆で力を合わせ、この城を世界一の食料庫にしましょう!」

 ​私のその宣言に「おおーっ!」という力強い歓声が上がった。​プロジェクトは、私の指揮のもと、驚くほどの効率で進んでいった。

 ​厨房チームは、私の作成したレシピに基づき、保存食作りの中心を担う。料理長が、その熟練の腕で肉の燻製場を自ら作り上げた。

 ​騎士団は、ダリウス団長の号令一下、領内の森や川へ、大規模な狩猟・漁労部隊を派遣する。彼らが持ち帰る大量の獲物が、私たちの計画の生命線となった。

 ​メイドや庭師たちは、城の菜園や領内の畑から野菜や果物を収穫し、洗浄・選別する部隊を結成。子供たちでさえ、小さな手で木の実を拾い集めたり、ハーブを乾燥させたりと、立派な戦力になった。
 ​城のあちこちで、野菜を干すための棚が作られ、果物を煮詰める甘い香りが漂い、塩漬け肉の樽がずらりと並んでいく。

 ​最初はただの城だった場所が、まるで巨大な食品加工工場のように活気に満ち溢れていた。
 ​そして、その中心には、常に私がいた。

​「こちらの樽は、もう少し塩を強くした方が日持ちします!」
「そのきのこは、毒きのこですよ! こちらの食べられるものと交換しましょう」
「皆さん、疲れたでしょう? 温かいスープを作ったので、少し休憩してくださいね」

 ​私は休む間もなく城中を駆け回り、的確な指示を出し、そして何より、働く皆を温かい食事で励ました。
 ​令嬢だった頃には考えられないほどの激務。けれど、不思議と疲れは感じなかった。

 ​日に日に増えていく保存食の樽や瓶を眺めるたびに、皆の未来を守っているという実感が、私に力を与えてくれたからだ。 

 ​そんな私の姿をヴィンセント様は、いつも少し離れた場所から穏やかな目で見守っていた。
 ​彼は、私の計画に一切口を挟まなかった。ただ、私が「あれが足りない」「これが必要だ」と言えば、次の瞬間には、それがどこからともなく用意されている。
 ​彼なりの最高の後方支援だった。

 ​ある日の夕暮れ。
 ​城壁の上から夕日に染まる城下を見下ろしていると、そっと隣にヴィンセント様が立った。
 ​眼下には、領民たちも城の計画に倣い、自分たちの家で燻製の煙を上げたり、野菜を干したりしている光景が広がっている。
 領地全体が一つの目的に向かって動いていた。

​「……すごい光景だな」

 ​彼が心からの声で言った。

​「お前が、この領地を変えた。たった一人で全員の心を一つにした」
​「いいえ、私一人ではありません。皆が、ヴィンセント様が大切に守ってこられたこの領地を、愛しているからです」

 ​私の言葉に、彼は静かに頷いた。
 ​そして私の手をそっと握る。ごつごつとして大きな温かい手。

​「エリアーナ。冬が明けたら……」

 ​彼が何かを言いかけた、その時だった。
 ​見張りの騎士が、慌ただしく鐘を鳴らす音が城中に響き渡った。

 ​国境の見張り台から狼煙が上がったのだ。
 ​それは敵の接近を知らせる、緊急の合図だった。
感想 6

あなたにおすすめの小説

追放された悪役令嬢、規格外魔力でもふもふ聖獣を手懐け隣国の王子に溺愛される

黒崎隼人
ファンタジー
「ようやく、この息苦しい生活から解放される!」 無実の罪で婚約破棄され、国外追放を言い渡された公爵令嬢エレオノーラ。しかし彼女は、悲しむどころか心の中で歓喜の声をあげていた。完璧な淑女の仮面の下に隠していたのは、国一番と謳われた祖母譲りの規格外な魔力。追放先の「魔の森」で力を解放した彼女の周りには、伝説の聖獣グリフォンをはじめ、可愛いもふもふ達が次々と集まってきて……!? 自由気ままなスローライフを満喫する元悪役令嬢と、彼女のありのままの姿に惹かれた「氷の王子」。二人の出会いが、やがて二つの国の運命を大きく動かすことになる。 窮屈な世界から解き放たれた少女が、本当の自分と最高の幸せを見つける、溺愛と逆転の異世界ファンタジー、ここに開幕!

誘拐された公爵令嬢ですが、なぜか皇帝に溺愛されています』

富士山麓
恋愛
舞踏会で王太子から婚約破棄を告げられそうになった瞬間―― 目の前に現れたのは、馬に乗った仮面の皇帝だった。 そのまま攫われた公爵令嬢ビアンキーナは、誘拐されたはずなのに超VIP待遇。 一方、助けようともしなかった王太子は「無能」と嘲笑され、静かに失墜していく。 選ばれる側から、選ぶ側へ。 これは、誰も断罪せず、すべてを終わらせた令嬢の物語。

完結·婚約破棄された氷の令嬢は、嫁がされた枯れおじのもとで花開く

恋愛
ティリアは辺境にある伯爵の娘であり、第三王子ガフタの婚約者であった。 だが、この婚約が気に入らないガフタは学園生活でティリアを冷遇し、卒業パーティーで婚約破棄をする。 しかも、このまま実家に帰ろうとするティリアにガフタは一回り以上年上の冴えないおっさん男爵のところへ嫁ぐように命令する。 こうしてティリアは男爵の屋敷へと向かうのだが、そこにいたのは…… ※完結まで毎日投稿します ※小説家になろう、Nolaノベルにも投稿中

魔の森に捨てられた伯爵令嬢は、幸福になって復讐を果たす

三谷朱花*Q−73@文フリ東京5/4
恋愛
 ルーナ・メソフィスは、あの冷たく悲しい日のことを忘れはしない。  ルーナの信じてきた世界そのものが否定された日。  伯爵令嬢としての身分も、温かい我が家も奪われた。そして信じていた人たちも、それが幻想だったのだと知った。  そして、告げられた両親の死の真相。  家督を継ぐために父の異母弟である叔父が、両親の死に関わっていた。そして、メソフィス家の財産を独占するために、ルーナの存在を不要とした。    絶望しかなかった。  涙すら出なかった。人間は本当の絶望の前では涙がでないのだとルーナは初めて知った。  雪が積もる冷たい森の中で、この命が果ててしまった方がよほど幸福だとすら感じていた。  そもそも魔の森と呼ばれ恐れられている森だ。誰の助けも期待はできないし、ここに放置した人間たちは、見たこともない魔獣にルーナが食い殺されるのを期待していた。  ルーナは死を待つしか他になかった。  途切れそうになる意識の中で、ルーナは温かい温もりに包まれた夢を見ていた。  そして、ルーナがその温もりを感じた日。  ルーナ・メソフィス伯爵令嬢は亡くなったと公式に発表された。

「可愛げがない」と婚約破棄された公爵令嬢ですが、領地経営をしていたのは私です

希羽
恋愛
「お前のような可愛げのない女との婚約は破棄する!」 卒業パーティの会場で、婚約者である第二王子デリックはそう宣言し、私の義妹ミナを抱き寄せました。 誰もが私が泣き崩れると思いましたが――正直、せいせいしました。 だって、王子の領地経営、借金返済、結界維持、それら全ての激務を一人でこなしていたのは「可愛げのない」私だったのですから。 「承知しました。では、あとはミナと二人で頑張ってください」 私は手切れ金代わりに面倒な仕事を全て置いて国を出ました。 すると、国境で待っていたのは、隣国ガルガディア帝国の冷徹皇太子ことクライド様。なぜか彼は私を溺愛し、帝国で最高の地位と環境を与えてくれて……。

【完結】魔力の見えない公爵令嬢は、王国最強の魔術師でした

er
恋愛
「魔力がない」と婚約破棄された公爵令嬢リーナ。だが真実は逆だった――純粋魔力を持つ規格外の天才魔術師! 王立試験で元婚約者を圧倒し首席合格、宮廷魔術師団長すら降参させる。王宮を救う活躍で副団長に昇進、イケメン公爵様からの求愛も!? 一方、元婚約者は没落し後悔の日々……。見る目のなかった男たちへの完全勝利と、新たな恋の物語。

【完結】追放された地味令嬢、実は王国唯一の“魔力翻訳者”でした 〜役立たずと言われましたが、もう契約は終了です〜

あめとおと
恋愛
王太子から「魔法が何も起こらない役立たず」と断罪され、婚約破棄された伯爵令嬢リリア。 追放された彼女の能力は―― 魔法の“意味”を読み解き、術式そのものを理解する力《魔力翻訳》。 辺境の魔導研究所でその才能を見出された彼女は、 三百年解読不能だった古代魔法を次々と再生させていく。 一方、彼女を失った王都では魔法事故が連鎖。 国家結界すら崩壊寸前に――。 「戻ってきてほしい」 そう告げられても、もう遅い。 私を必要としてくれる場所は、 すでに別にあるのだから。 これは、役立たずと呼ばれた令嬢が 本当の居場所と理解者を見つける物語。

悪役令嬢の身代わりで追放された侍女、北の地で才能を開花させ「氷の公爵」を溶かす

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の罪は、万死に値する!」 公爵令嬢アリアンヌの罪をすべて被せられ、侍女リリアは婚約破棄の茶番劇のスケープゴートにされた。 忠誠を尽くした主人に裏切られ、誰にも信じてもらえず王都を追放される彼女に手を差し伸べたのは、彼女を最も蔑んでいたはずの「氷の公爵」クロードだった。 「君が犯人でないことは、最初から分かっていた」 冷徹な仮面の裏に隠された真実と、予想外の庇護。 彼の領地で、リリアは内に秘めた驚くべき才能を開花させていく。 一方、有能な「影」を失った王太子と悪役令嬢は、自滅の道を転がり落ちていく。 これは、地味な侍女が全てを覆し、世界一の愛を手に入れる、痛快な逆転シンデレラストーリー。