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第30話 領地まるごと、一大プロジェクト
私が総指揮官による『冬ごもり計画』。
その号令が発せられた瞬間から、アシュフォードの城と領地は、一つの大きな家族のように動き出した。
まず私が向かったのは、厨房ではなく、城の広大な中庭だった。
そこに城中の人々――料理人、メイド、騎士、庭師、そして下働きの子供たちまで、全員を集めてもらったのだ。
最初は「何が始まるんだ?」と戸惑っていた皆も、私が計画の全容を説明し始めると、その顔は次第に真剣なものへと変わっていった。
「これは、私たちの冬を守るための、全員参加のプロジェクトです! 部署も、身分も関係ありません。皆で力を合わせ、この城を世界一の食料庫にしましょう!」
私のその宣言に「おおーっ!」という力強い歓声が上がった。プロジェクトは、私の指揮のもと、驚くほどの効率で進んでいった。
厨房チームは、私の作成したレシピに基づき、保存食作りの中心を担う。料理長が、その熟練の腕で肉の燻製場を自ら作り上げた。
騎士団は、ダリウス団長の号令一下、領内の森や川へ、大規模な狩猟・漁労部隊を派遣する。彼らが持ち帰る大量の獲物が、私たちの計画の生命線となった。
メイドや庭師たちは、城の菜園や領内の畑から野菜や果物を収穫し、洗浄・選別する部隊を結成。子供たちでさえ、小さな手で木の実を拾い集めたり、ハーブを乾燥させたりと、立派な戦力になった。
城のあちこちで、野菜を干すための棚が作られ、果物を煮詰める甘い香りが漂い、塩漬け肉の樽がずらりと並んでいく。
最初はただの城だった場所が、まるで巨大な食品加工工場のように活気に満ち溢れていた。
そして、その中心には、常に私がいた。
「こちらの樽は、もう少し塩を強くした方が日持ちします!」
「そのきのこは、毒きのこですよ! こちらの食べられるものと交換しましょう」
「皆さん、疲れたでしょう? 温かいスープを作ったので、少し休憩してくださいね」
私は休む間もなく城中を駆け回り、的確な指示を出し、そして何より、働く皆を温かい食事で励ました。
令嬢だった頃には考えられないほどの激務。けれど、不思議と疲れは感じなかった。
日に日に増えていく保存食の樽や瓶を眺めるたびに、皆の未来を守っているという実感が、私に力を与えてくれたからだ。
そんな私の姿をヴィンセント様は、いつも少し離れた場所から穏やかな目で見守っていた。
彼は、私の計画に一切口を挟まなかった。ただ、私が「あれが足りない」「これが必要だ」と言えば、次の瞬間には、それがどこからともなく用意されている。
彼なりの最高の後方支援だった。
ある日の夕暮れ。
城壁の上から夕日に染まる城下を見下ろしていると、そっと隣にヴィンセント様が立った。
眼下には、領民たちも城の計画に倣い、自分たちの家で燻製の煙を上げたり、野菜を干したりしている光景が広がっている。
領地全体が一つの目的に向かって動いていた。
「……すごい光景だな」
彼が心からの声で言った。
「お前が、この領地を変えた。たった一人で全員の心を一つにした」
「いいえ、私一人ではありません。皆が、ヴィンセント様が大切に守ってこられたこの領地を、愛しているからです」
私の言葉に、彼は静かに頷いた。
そして私の手をそっと握る。ごつごつとして大きな温かい手。
「エリアーナ。冬が明けたら……」
彼が何かを言いかけた、その時だった。
見張りの騎士が、慌ただしく鐘を鳴らす音が城中に響き渡った。
国境の見張り台から狼煙が上がったのだ。
それは敵の接近を知らせる、緊急の合図だった。
その号令が発せられた瞬間から、アシュフォードの城と領地は、一つの大きな家族のように動き出した。
まず私が向かったのは、厨房ではなく、城の広大な中庭だった。
そこに城中の人々――料理人、メイド、騎士、庭師、そして下働きの子供たちまで、全員を集めてもらったのだ。
最初は「何が始まるんだ?」と戸惑っていた皆も、私が計画の全容を説明し始めると、その顔は次第に真剣なものへと変わっていった。
「これは、私たちの冬を守るための、全員参加のプロジェクトです! 部署も、身分も関係ありません。皆で力を合わせ、この城を世界一の食料庫にしましょう!」
私のその宣言に「おおーっ!」という力強い歓声が上がった。プロジェクトは、私の指揮のもと、驚くほどの効率で進んでいった。
厨房チームは、私の作成したレシピに基づき、保存食作りの中心を担う。料理長が、その熟練の腕で肉の燻製場を自ら作り上げた。
騎士団は、ダリウス団長の号令一下、領内の森や川へ、大規模な狩猟・漁労部隊を派遣する。彼らが持ち帰る大量の獲物が、私たちの計画の生命線となった。
メイドや庭師たちは、城の菜園や領内の畑から野菜や果物を収穫し、洗浄・選別する部隊を結成。子供たちでさえ、小さな手で木の実を拾い集めたり、ハーブを乾燥させたりと、立派な戦力になった。
城のあちこちで、野菜を干すための棚が作られ、果物を煮詰める甘い香りが漂い、塩漬け肉の樽がずらりと並んでいく。
最初はただの城だった場所が、まるで巨大な食品加工工場のように活気に満ち溢れていた。
そして、その中心には、常に私がいた。
「こちらの樽は、もう少し塩を強くした方が日持ちします!」
「そのきのこは、毒きのこですよ! こちらの食べられるものと交換しましょう」
「皆さん、疲れたでしょう? 温かいスープを作ったので、少し休憩してくださいね」
私は休む間もなく城中を駆け回り、的確な指示を出し、そして何より、働く皆を温かい食事で励ました。
令嬢だった頃には考えられないほどの激務。けれど、不思議と疲れは感じなかった。
日に日に増えていく保存食の樽や瓶を眺めるたびに、皆の未来を守っているという実感が、私に力を与えてくれたからだ。
そんな私の姿をヴィンセント様は、いつも少し離れた場所から穏やかな目で見守っていた。
彼は、私の計画に一切口を挟まなかった。ただ、私が「あれが足りない」「これが必要だ」と言えば、次の瞬間には、それがどこからともなく用意されている。
彼なりの最高の後方支援だった。
ある日の夕暮れ。
城壁の上から夕日に染まる城下を見下ろしていると、そっと隣にヴィンセント様が立った。
眼下には、領民たちも城の計画に倣い、自分たちの家で燻製の煙を上げたり、野菜を干したりしている光景が広がっている。
領地全体が一つの目的に向かって動いていた。
「……すごい光景だな」
彼が心からの声で言った。
「お前が、この領地を変えた。たった一人で全員の心を一つにした」
「いいえ、私一人ではありません。皆が、ヴィンセント様が大切に守ってこられたこの領地を、愛しているからです」
私の言葉に、彼は静かに頷いた。
そして私の手をそっと握る。ごつごつとして大きな温かい手。
「エリアーナ。冬が明けたら……」
彼が何かを言いかけた、その時だった。
見張りの騎士が、慌ただしく鐘を鳴らす音が城中に響き渡った。
国境の見張り台から狼煙が上がったのだ。
それは敵の接近を知らせる、緊急の合図だった。
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