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第29話 初夜のハプニング! 色気より食い気の花嫁
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ガチャリ。
重厚な扉が閉ざされ、鍵がかけられる音が響いた。広々とした公爵城の寝室。
天蓋付きのベッド。間接照明の柔らかな明かり。そして目の前には、タキシードの上着を脱ぎ捨て、シャツのボタンを少し寛げたジルベール様。
「……やっと二人きりになれたな」
彼が振り返り、熱っぽい瞳で私を見つめた。
その色気たるや、もはや暴力だ。
直視できない。私は視線を泳がせ、壁のタペストリーの柄を数えるふりをした。
「つ、疲れましたね、ジルベール様。今日はもう寝ましょうか! おやすみなさい!」
私がベッドにダイブしようとすると、背後から腕を掴まれ、引き戻された。
「逃がすわけがないだろう」
「ひゃっ!?」
そのままくるりと反転させられ、彼の胸の中に閉じ込められる。ドクン、ドクン、と彼の心臓の音が聞こえるほど近い。
「忘れたか? 『このドレスは私が脱がせる』と約束したはずだ」
「そ、それは言葉のアヤというか……」
「私は約束を破らない男だ」
ジルベール様の手が、私の背中に回る。
採寸の時と同じように、いや、あの時よりもずっと熱く、優しく。
背中の開いたドレスの縁を指先がなぞる。
「……っ」
ゾクリと背筋が震えた。
彼の指が背中の編み上げ紐に掛かる。
スルスルと紐が解かれる感触。締め付けられていたコルセットが緩み、呼吸が楽になると同時に心臓の鼓動が早くなる。
(ど、どうしよう。本当に初夜だ。夫婦なんだから当たり前なんだけど……!)
私の恋愛経験値は、前世を含めてもスライムレベルだ。対して、目の前のラスボス公爵様は余裕綽々の笑みを浮かべている。
「レティシア。……愛している」
ドレスが肩から滑り落ちる。
あらわになった肌に、彼が唇を寄せ――。
その時だった。
グゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ……!!
静寂な寝室に地鳴りのような音が轟いた。
魔獣の咆哮ではない。私の腹の虫だ。
「…………」
「…………」
時が止まった。
ジルベール様の唇が、私の鎖骨の数センチ手前で停止している。私の顔はトマトよりも赤ワインよりも赤く染まった。
「……あ、あの、これは……その……」
弁解させてほしい。
今日の結婚式、私は主役として挨拶回りに忙殺されていた。巨大ケーキのファーストバイトは食べたけれど、それ以外は緊張とコルセットの締め付けで、水くらいしか喉を通らなかったのだ。
そして今、コルセットが緩んだ瞬間に抑圧されていた食欲が爆発したのである。
「……ぶっ」
ジルベール様が吹き出した。
「く、くくっ……! ははははっ!」
彼は私の肩に額を押し付け、肩を震わせて笑い出した。
あんなにキメていたムードが台無しだ。
「……笑わないでください! 生理現象です!」
「すまない、いや、最高だ……。初夜のベッドで夫に抱かれる前に『空腹』を訴える花嫁なんて、世界中探しても君だけだろう」
彼はひとしきり笑うと、目尻の涙を拭い、サイドテーブルの引き出しを開けた。
「……ほら。こうなる気がしていたから用意しておいた」
彼が取り出したのは、銀の小皿に乗った『カナッペ』と『一口サイズのチーズ』だった。
「えっ、いつの間に?」
「ライルに言付けておいたんだ。『妻はきっと、式が終わったら腹を空かせているはずだ』とな」
「旦那様……! 神様ですか!」
私は感動で震え、カナッペを手に取った。
パクッ。
美味しい。
サーモンの塩気とクリームチーズのコクが空っぽの胃袋に染み渡る。
「ん~っ、生き返ります……!」
私がリスのように頬張っていると、ジルベール様はその様子を愛おしそうに眺め、私の指についたパン屑をペロリと舐め取った。
「……っ!?」
「食べていいぞ。……ただし」
彼の瞳から笑いの色が消え、再びあの熱い光が宿った。
「君が満腹になったら……次は私の番だ」
彼は私の腰を引き寄せ、耳元で甘く囁いた。
「私は一日中、お預けを食らっていたんだ。……朝までたっぷりと『ご馳走』になっても文句はないな?」
「……は、はい……お手柔らかに……」
私が最後に食べたチーズの味は、甘いキスの味にかき消された。花嫁の食欲を満たした後は、花婿の独占欲が満たされる番。
こうして私たちの初夜は、色気と食い気が入り混じった、とびきり甘くて騒がしい夜となったのだ。
重厚な扉が閉ざされ、鍵がかけられる音が響いた。広々とした公爵城の寝室。
天蓋付きのベッド。間接照明の柔らかな明かり。そして目の前には、タキシードの上着を脱ぎ捨て、シャツのボタンを少し寛げたジルベール様。
「……やっと二人きりになれたな」
彼が振り返り、熱っぽい瞳で私を見つめた。
その色気たるや、もはや暴力だ。
直視できない。私は視線を泳がせ、壁のタペストリーの柄を数えるふりをした。
「つ、疲れましたね、ジルベール様。今日はもう寝ましょうか! おやすみなさい!」
私がベッドにダイブしようとすると、背後から腕を掴まれ、引き戻された。
「逃がすわけがないだろう」
「ひゃっ!?」
そのままくるりと反転させられ、彼の胸の中に閉じ込められる。ドクン、ドクン、と彼の心臓の音が聞こえるほど近い。
「忘れたか? 『このドレスは私が脱がせる』と約束したはずだ」
「そ、それは言葉のアヤというか……」
「私は約束を破らない男だ」
ジルベール様の手が、私の背中に回る。
採寸の時と同じように、いや、あの時よりもずっと熱く、優しく。
背中の開いたドレスの縁を指先がなぞる。
「……っ」
ゾクリと背筋が震えた。
彼の指が背中の編み上げ紐に掛かる。
スルスルと紐が解かれる感触。締め付けられていたコルセットが緩み、呼吸が楽になると同時に心臓の鼓動が早くなる。
(ど、どうしよう。本当に初夜だ。夫婦なんだから当たり前なんだけど……!)
私の恋愛経験値は、前世を含めてもスライムレベルだ。対して、目の前のラスボス公爵様は余裕綽々の笑みを浮かべている。
「レティシア。……愛している」
ドレスが肩から滑り落ちる。
あらわになった肌に、彼が唇を寄せ――。
その時だった。
グゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ……!!
静寂な寝室に地鳴りのような音が轟いた。
魔獣の咆哮ではない。私の腹の虫だ。
「…………」
「…………」
時が止まった。
ジルベール様の唇が、私の鎖骨の数センチ手前で停止している。私の顔はトマトよりも赤ワインよりも赤く染まった。
「……あ、あの、これは……その……」
弁解させてほしい。
今日の結婚式、私は主役として挨拶回りに忙殺されていた。巨大ケーキのファーストバイトは食べたけれど、それ以外は緊張とコルセットの締め付けで、水くらいしか喉を通らなかったのだ。
そして今、コルセットが緩んだ瞬間に抑圧されていた食欲が爆発したのである。
「……ぶっ」
ジルベール様が吹き出した。
「く、くくっ……! ははははっ!」
彼は私の肩に額を押し付け、肩を震わせて笑い出した。
あんなにキメていたムードが台無しだ。
「……笑わないでください! 生理現象です!」
「すまない、いや、最高だ……。初夜のベッドで夫に抱かれる前に『空腹』を訴える花嫁なんて、世界中探しても君だけだろう」
彼はひとしきり笑うと、目尻の涙を拭い、サイドテーブルの引き出しを開けた。
「……ほら。こうなる気がしていたから用意しておいた」
彼が取り出したのは、銀の小皿に乗った『カナッペ』と『一口サイズのチーズ』だった。
「えっ、いつの間に?」
「ライルに言付けておいたんだ。『妻はきっと、式が終わったら腹を空かせているはずだ』とな」
「旦那様……! 神様ですか!」
私は感動で震え、カナッペを手に取った。
パクッ。
美味しい。
サーモンの塩気とクリームチーズのコクが空っぽの胃袋に染み渡る。
「ん~っ、生き返ります……!」
私がリスのように頬張っていると、ジルベール様はその様子を愛おしそうに眺め、私の指についたパン屑をペロリと舐め取った。
「……っ!?」
「食べていいぞ。……ただし」
彼の瞳から笑いの色が消え、再びあの熱い光が宿った。
「君が満腹になったら……次は私の番だ」
彼は私の腰を引き寄せ、耳元で甘く囁いた。
「私は一日中、お預けを食らっていたんだ。……朝までたっぷりと『ご馳走』になっても文句はないな?」
「……は、はい……お手柔らかに……」
私が最後に食べたチーズの味は、甘いキスの味にかき消された。花嫁の食欲を満たした後は、花婿の独占欲が満たされる番。
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