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第21話 真っ赤な激辛麻婆豆腐
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ゴルツたちが連行され、再び静寂が戻った『陽だまり亭』。けれど、空気にはまだ少し、あの男の不快な粘着質さが残っているような気がした。
「……よし。ジーク様、お約束通り嫌な気分を全部焼き尽くす料理を作りますね」
「ああ。……期待している」
ジーク様はいつもの席に座り、腕を組んで待っている。
私は気合を入れて中華鍋を火にかけた。
まずは薬味だ。刻んだニンニク、生姜、ネギを低温の油でじっくりと炒め、香りを引き出す。
そこへ、たっぷりの豚ひき肉を投入。
ジュワアァァッ!!
肉の色が変わるまでしっかりと炒め、余分な脂と水分を飛ばすことで旨味を凝縮させる。
「ここからが本番よ」
私は瓶から真っ赤なペースト――東方から仕入れた『豆板醤』と甘みのある『甜麺醤』をスプーン山盛りですくい取り、鍋へ叩き込んだ。
油が瞬く間に赤く染まり、厨房内に唐辛子の刺激的な香りが充満する。
「……む。目が痛くなるような匂いだ」
カウンターの向こうでジーク様が鼻をひくつかせた。足元ではルルが『ワフゥ!!』と遠くへ避難している。ごめんね、今日は大人の時間なの。
鶏ガラスープを注ぎ、賽の目に切った豆腐を入れる。豆腐が崩れないよう、優しく鍋を揺らしながら煮立たせる。
グツグツと煮えるマグマのような赤。
仕上げに水溶き片栗粉でとろみをつけ、最後に『ラー油』と、痺れる辛さの『花椒』をたっぷりと振りかける。
「お待たせいたしました! 『邪気退散・激辛麻婆豆腐』です!」
ドォン!
深皿に盛られたそれは、暴力的なまでの赤色をしていた。立ち上る湯気ですら辛そうだ。
「……これが料理か? 溶岩の間違いではないか?」
「ふふ、見た目は怖いですけど、味は保証します。白ご飯と一緒にどうぞ」
ジーク様は恐る恐るスプーンを手に取り、真っ赤な餡と豆腐、そして白米をすくい上げた。
覚悟を決めたように口へと運ぶ。
パクッ。
「…………ッ!!?」
一瞬、時が止まった。
ジーク様の瞳孔が開く。
最初に襲ってくるのは、舌を刺すような鋭い辛味。次に来るのが花椒特有のビリビリとした痺れ。口の中が大火事だ。
けれど――。
「辛い……! だが、なんだこの旨味は……!」
辛さの奥から、ひき肉のコクと味噌の甘み、豆腐のまろやかさが波のように押し寄せてくる。
痛いのに、もう一口が止まらない。
痺れる感覚が脳内の余計な思考を強制的にシャットダウンさせる。
「熱い……体が燃えるようだ……!」
ジーク様の額から玉のような汗が噴き出した。
彼は上着を脱ぎ捨て、ワイシャツのボタンを外し、一心不乱にスプーンを動かした。
ハフハフ、という息遣いが店内に響く。
「私もいただきまーす!」
私も自分の分の麻婆豆腐を口に入れた。
かーっ! 辛い! でも美味しい!
カプサイシンの効果で全身の毛穴という毛穴が開く感覚。あの悪徳商人に言われた嫌味も、恐怖も、全部汗と一緒に流れ落ちていくようだ。
「……ふぅ、ふぅ! 水! 水をくれ!」
「はいどうぞ! でも水じゃ辛さは消えませんよ!」
「分かっている! だが飲まずにはいられん!」
私たちは並んでカウンターで食事をし、汗だくになりながら笑い合った。氷の騎士様が顔を真っ赤にして水をガブ飲みしている。
その姿がなんだか親近感が湧いて、可愛らしくすら思えた。完食する頃には、二人ともサウナ上がりのようにスッキリとした顔になっていた。
「……凄まじい破壊力だった」
「でしょう? 嫌なこと、全部忘れられたんじゃないですか?」
「ああ。……奴の顔など、もう思い出せん」
ジーク様はタオルで汗を拭いながら、清々しい表情で私を見た。
その瞳は、いつもの氷のような冷たさではなく、食事の熱と――何か別の熱を帯びているように見えた。
「レティシア。……礼を言う。お前のおかげで、私は救われている」
真剣な眼差しで見つめられ、私はドキリと心臓が跳ねた。これは激辛料理による動悸のせいだけではない、気がする。
「そ、そんな。私はただ、美味しいものを食べて欲しかっただけで……」
「……お前を手放したくないと、心から思う」
ボソリと呟かれたその言葉。
それが料理人としての評価なのか、それとも別の意味なのか。
赤くなった顔のせいで、判断がつかなかった。
「……よし。ジーク様、お約束通り嫌な気分を全部焼き尽くす料理を作りますね」
「ああ。……期待している」
ジーク様はいつもの席に座り、腕を組んで待っている。
私は気合を入れて中華鍋を火にかけた。
まずは薬味だ。刻んだニンニク、生姜、ネギを低温の油でじっくりと炒め、香りを引き出す。
そこへ、たっぷりの豚ひき肉を投入。
ジュワアァァッ!!
肉の色が変わるまでしっかりと炒め、余分な脂と水分を飛ばすことで旨味を凝縮させる。
「ここからが本番よ」
私は瓶から真っ赤なペースト――東方から仕入れた『豆板醤』と甘みのある『甜麺醤』をスプーン山盛りですくい取り、鍋へ叩き込んだ。
油が瞬く間に赤く染まり、厨房内に唐辛子の刺激的な香りが充満する。
「……む。目が痛くなるような匂いだ」
カウンターの向こうでジーク様が鼻をひくつかせた。足元ではルルが『ワフゥ!!』と遠くへ避難している。ごめんね、今日は大人の時間なの。
鶏ガラスープを注ぎ、賽の目に切った豆腐を入れる。豆腐が崩れないよう、優しく鍋を揺らしながら煮立たせる。
グツグツと煮えるマグマのような赤。
仕上げに水溶き片栗粉でとろみをつけ、最後に『ラー油』と、痺れる辛さの『花椒』をたっぷりと振りかける。
「お待たせいたしました! 『邪気退散・激辛麻婆豆腐』です!」
ドォン!
深皿に盛られたそれは、暴力的なまでの赤色をしていた。立ち上る湯気ですら辛そうだ。
「……これが料理か? 溶岩の間違いではないか?」
「ふふ、見た目は怖いですけど、味は保証します。白ご飯と一緒にどうぞ」
ジーク様は恐る恐るスプーンを手に取り、真っ赤な餡と豆腐、そして白米をすくい上げた。
覚悟を決めたように口へと運ぶ。
パクッ。
「…………ッ!!?」
一瞬、時が止まった。
ジーク様の瞳孔が開く。
最初に襲ってくるのは、舌を刺すような鋭い辛味。次に来るのが花椒特有のビリビリとした痺れ。口の中が大火事だ。
けれど――。
「辛い……! だが、なんだこの旨味は……!」
辛さの奥から、ひき肉のコクと味噌の甘み、豆腐のまろやかさが波のように押し寄せてくる。
痛いのに、もう一口が止まらない。
痺れる感覚が脳内の余計な思考を強制的にシャットダウンさせる。
「熱い……体が燃えるようだ……!」
ジーク様の額から玉のような汗が噴き出した。
彼は上着を脱ぎ捨て、ワイシャツのボタンを外し、一心不乱にスプーンを動かした。
ハフハフ、という息遣いが店内に響く。
「私もいただきまーす!」
私も自分の分の麻婆豆腐を口に入れた。
かーっ! 辛い! でも美味しい!
カプサイシンの効果で全身の毛穴という毛穴が開く感覚。あの悪徳商人に言われた嫌味も、恐怖も、全部汗と一緒に流れ落ちていくようだ。
「……ふぅ、ふぅ! 水! 水をくれ!」
「はいどうぞ! でも水じゃ辛さは消えませんよ!」
「分かっている! だが飲まずにはいられん!」
私たちは並んでカウンターで食事をし、汗だくになりながら笑い合った。氷の騎士様が顔を真っ赤にして水をガブ飲みしている。
その姿がなんだか親近感が湧いて、可愛らしくすら思えた。完食する頃には、二人ともサウナ上がりのようにスッキリとした顔になっていた。
「……凄まじい破壊力だった」
「でしょう? 嫌なこと、全部忘れられたんじゃないですか?」
「ああ。……奴の顔など、もう思い出せん」
ジーク様はタオルで汗を拭いながら、清々しい表情で私を見た。
その瞳は、いつもの氷のような冷たさではなく、食事の熱と――何か別の熱を帯びているように見えた。
「レティシア。……礼を言う。お前のおかげで、私は救われている」
真剣な眼差しで見つめられ、私はドキリと心臓が跳ねた。これは激辛料理による動悸のせいだけではない、気がする。
「そ、そんな。私はただ、美味しいものを食べて欲しかっただけで……」
「……お前を手放したくないと、心から思う」
ボソリと呟かれたその言葉。
それが料理人としての評価なのか、それとも別の意味なのか。
赤くなった顔のせいで、判断がつかなかった。
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