ほら、ホラーだよ

根津美也

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6.あまのじゃく

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 その後ぼくは帰りのがっかつ(学級活動)でさんざんつるし上げられた。
 槍玉にあがったのは、ぼくが“ブス”を連発して八木沢由美子の心を傷つけたことだったが……
 また、マサルたちがよけいなことを言ったんだ。
「ブスにブスって言っちゃいけないんですか?」とマサルが言い、
「本当のことを言ってはいけないと思います」とキヨシが言ったんだ。
 ちょっと待てよ、これって、八木沢由美子はブスで、それは本当のことだと言ったことになるんだよね。そこに女子たちのツッコミは無いのか?
 ところが全くそれに対してツッコミはなく、むしろ男子のアホ陣営から「じゃあ、可愛い子にブスというのはいいんですか?」などと間の抜けた発言があって、これなら、俺も意見が言えるなと思ったらしく、リョウタが手を挙げて立ち上がり、「嘘はついちゃいけないと思います」ともっともらしい調子で言って、ドヤ顔で座ったりなんかしたんだ。
 すると、「嘘もついちゃいけない、本当のことも言っちゃいけないとすれば、どうしたらいいのですか?」と、また男子たちがまぜっかえして、わけが分からない状況になったんだ。
 そしたら、副委員長の伊藤くんが「ブスというような差別用語は言ってはいけないということだと思います」と、まとめる方向に持って行ったんだけど、またマサル達が、差別用語などというかっこいい言葉を使ってみたくなって、知ってる限りの四文字熟語を乱発し始めたんだ。

「差別用語を言うのは人権侵害に当たると思います」
「人権侵害は公序良俗に反すると思います」
「公序良俗に反することをするなんて極悪非道だと思います」
「極悪非道なことは、一刀両断されなければなりません」
 なんか、四文字熟語を使って短文を作りなさいみたいになった。

 しかし、委員長の清水美恵子の次の一発でアホな男子たちは一刀両断されることになったんだ。
「つまり、ブスというような差別用語は人権侵害に当たるので使うべきではない、とこういうことでいいですね。今後、このクラスではブスという言葉を使用禁止用語にしたいと思いますが如何でしょうか?」
 これから、女子にブスと言えなくなる?!
 そう思った男子たちは一斉に「え~!?」という声をあげたが、清水美恵子が「それに反対の人、手を挙げて」と言った時、誰も手を挙げることが出来なかったんだ。
「では、今後、このクラスではブスという言葉は使用禁止用語といたします」と清水美恵子が高らかに宣言し、自分たちがブスと思われるのではないかということをおそれつつも、ブスと言われたくない大半の女子からの盛大な拍手がわき起こって、この案件は成立してしまったのだ。
 そうなっちゃったもんで男子たちの憤懣の矛先がぼくに向いた。
「あーあ、ヨシヒコのせいで女子にブスって言えなくなっちゃったじゃないか」
 え? ちょっと待て。話をおおごとにして、ブスという言葉を極悪非道までに追い込んだのはお前たちじゃないか! 使用禁止用語にしようとミエコが言った時に、お前たちは誰も反対しなかったじゃないか!
 しかし、この頃になるとボクは、まさに憑き物が落ちたというか、はがれたというか、思ったことが何にも言えないぼくに戻っていて、「おい、どうしてくれるんだよ」「何とか言えよ」と迫られて、泣く泣く「ごめんなさい」って言わされたんだ。僕にして見れば、なんでお前らに謝らなくっちゃいけないんだよ、と思ったんだけれど、多勢に無勢、押し切られてそんなことになってしまった。

 それからのぼくはトボトボと気の抜けた状態で朝来た道をもとに戻り、モソモソと家に入りゴソゴソと自分の部屋にもぐりこもうとしたその時、反対側のふすまが開いておばさんがぼくを呼び止めた。
「ヨシボウ、ちょっとちょっと」
 ぼくはもう、心がそこにないから、あやつり人形のようにさそわれるままおばさんの部屋に入った。
 そしたら、見覚えのある顔色の悪いやつが神妙な顔をしておばさんのまえに座っていた。
「アマノジャクっていうんだよ。鳥取県から出てきたんだと」と、おばさんは言った。
(知ってる、もうひどい目にあった)とぼくが思うがはやいかそいつは「知ってる、もうひどい目にあった」としゃべった。
「こら、アマノジャク、今は人の思ってることを言うんじゃなくて、自分のことしゃべらないといけないだろう。でないと、あんたのこと書けないだろう」
 おばさんがそう言うと、アマノジャクは恐縮して、首をすくめた。
「さあ、はじめようか」
 おばさんはノートを広げ、鉛筆をとりあげると、アマノジャクをうながした。
 アマノジャクはおずおずと語り始めた。

 昔、男がおりましてね、桶屋をしていたんですが、これがいい男でして、もてました。しかも一人暮らし。だもんで、おなごがぎょうさんよってきて、何かと面倒見てくれる。
おかずをこさえたから食べてとか、掃除してやろうか、とかね。なかでも一人、熱心な子がいまして、洗濯もしてくれる、めしも炊いてくれる。しかもタダで。うらやましい。

「で? 桶屋はその子を嫁に?」おばさんが口をはさんだ。
「いいや。あいにくその子はおたやんで」
「おたやん?」
「おたふくってことです。見ようによって愛嬌がないこともないが、まあ、俗に言うブスですが。だから、桶屋としては便利な家事ロボットがおるくらいにしか考えておらんかったようです」

 アマノジャクの話は続く。

 だが、そうこうするうちに桶屋は村からはずれた山あいの家に可愛い女の子がおるのを見つけた。瓜子姫というんだが、ふた親のいない子で、じいさんばあさんが育てたんですが。年寄りが育てた子っちゅうのはなんですな、ちいと世間知らずで、どことのうわがままで、かなりかわってますわな。
 そこがまた可愛らしいんですな、男にとってはね。
「わしとめおとになったらじじもばばも大事にするぞ。なんなら、ここに住んでもええぞ」
 男はそんなことを言ってうりこ姫を口説いたんですが。
 そうしたらおさまらないのは、洗濯もし、めしも炊いてきた例の彼女、おゆみ。嫁としてお買い得ですよということをアピールしてきたつもりなのに、なんと桶屋は嫁にするのは別のおなごだという。まあ、男なんてロマンチストですから、結婚する前は家事のできる子より可愛い子のほうがいいんですな。ブスには冷たい。
 で、おゆみは悔しくてしかたがない。ある時、ふとしたことで知り合ったアマノジャクに瓜子姫を食べてしまってくれとたのんだんですが。

「食べたんですか?」おばさんは声をひそめて聞いた。
「はい、食べたんです」
「あなたが食べた?」
 おばさんもぼくも少しこわくなって固唾を飲み、上目遣いで聞いたんだ。けど、目の前のアマノジャクはばつの悪そうな顔をしてちょっと後ずさり、手を顔の前でひらひらさせた。
「いやいやいや、ちゃいますが。わたしなどとてもとても。これは偉大なる先輩、伝説のアマノジャク様であります」
 おばさんもぼくもほっと胸をなでおろした。そして次をうながした。



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