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42.アマノジャクの屁?
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ところで、家出していたオキビキとアマノジャクが帰ってきたんだ。
おばさんが二人(?)を呼びつけた。久しぶりに座敷オヤジをはじめ、主だった連中がおばさんの部屋に集合した。
「あんたら、いったい今まで何処でどうしていたのさ」
おばさんが紙と鉛筆をかかえてここぞとばかり膝を進めた。
オキビキとアマノジャクは実に居心地悪そうで、モジモジしながらしばらくどちらが答えるか譲り合っていたが、結局はオキビキが答えることになったらしい。
「何処でって言われましてもね、わたしら、地名などわかりませんです。ハイ」
「ハイ」
アマノジャクも相槌をつく。
「あんたらが歌舞伎町にいた、というところまで、こうもり傘男の知り合いから情報がはいってるんだけど」
おばさんがつめよる。
「歌舞伎町というと・・・あそこがそうかな?」オキビキが思い出すようにして目をほそめた。
「あそこかな」
アマノジャクも繰り返す。
「そう、あそこ」
どうやら、おばさんの歌舞伎町の記憶とオキビキたちのそれとが合致したらしい。
「そこで、なんだかアマノジャクが巨大化して分裂したというじゃないの」
さらにおばさんが水を向ける。
「巨大化して分裂?」
そうそう、みんなもそこが聞きたい。
大向こうから誰やらの声がとんだ。
「ちょっと、それ、ここでやってみてくれんかのう」
「やめて、気色悪い」
おばさんが即座に却下。
「でも、それ本当なの?」
再び、オキビキとアマノジャクは顔を見合わせモジモジした。
「あれかな?」
「あのことかな?」
二人で相談している。そして相談がまとまり、話をすることになったのはやっぱりオキビキだった。
「アマノジャクはねえ、普段心のなかで思っていることを言えないヤツとか、言わないヤツを見るとついつい本音を言わせたくなるんだそうでやす。そんなやつが本音を語りだしますとね、まわりも驚くけど、本人も驚いて慌てふためき、そこいらじゅうがパニックになる、と、それがおもしろくてたまんないんだそうでやす」
そうだった。ぼくはかつてアマノジャクに本音をしゃべらされて、ひどい目に合ったことがある。
オキビキの話は続く。
「で、夜の酒場にいくと、その土地のうわばみなんかがいるんでやす。そいつが飲みねえ、飲みねえ酒飲みねえ、ってどんどん酒を飲ませると、飲むほどに酔うほどに人々の口が軽くなる。そこにアマノジャクがちょいと仕掛けをすりゃあ本音の流出は留まるところを知りやせん」
そうだった。これも覚えがある。家に大場君というパパの会社の人が来たときに、大場くんが本音をぶちまけたためにおばさんとの縁談がぶっ壊れたんだっけ。
オキビキの話は続く。
「ところが、酒場ってとこはたしかにみんな本音を語りはするけれど、みんな驚かないんでやすよ。それどころか、おれもおれも、って本音トークが盛り上がっちゃってアマノジャクがもくろんだような情況にはならないんでやすね」
「ふむふむなるほど。酒場っていうところはもともと日頃のうっぷんを晴らしにいくところだからね」
おばさんが相槌をうつ。
「だもんでアマノジャクは、あれえ? って思うんでやす。あれえ、おかしいな。様子が違うなってね。別のところにいってみようか? って、そこであっしらはその酒場を後にするんでやすが、後にするときアマノジャクが『ああ、腹が膨れた。ちょっと食いすぎた』とか言ってブワンと・・・」
「え? 何を食いすぎたの? あんたら食べ物は必要なかったんじゃない? というか食べ物は食べられないでしょう?」
おばさんが不審に思って聞き返す。
「モチの論。普通の食べ物ではありませんや。人の腹の中に溜まっていた不平不満、愚痴などでやす」
「はあ。それを食いすぎて、ブワンと?」
「はい、ブワンと」
「ブワンと、って何をブワンと出したの?」
「やだなあ、食いすぎて出すものといったら決まってるじゃないですか」
「へ?」
おばさんはいぶかしげに聞き返した。
「屁」
アマノジャクがオウム返しのように答える。
「ちょっと待って。ひょっとすると、巨大化して分裂したというのは、屁?」
「へえ」
「へーえ」居並ぶ者どもも感心したように声をあげた。
「じゃあさ、それは屁だから、すぐに消えるのよね?」
おばさんがたずねる。
「いや、消えないっすよ」
「だって、屁なんでしょう?屁は消えるじゃない」
「そーすか?でも消えませんでしたね、アマノジャクのは」
「じゃあ、やっぱりそれは屁じゃないんじゃない?」
「・・・・・・」
アマノジャクもオキビキもわけがわからなくなって考えこんでいる。
「いや、屁も消えるわけではない」
やおら座敷オヤジが身を乗り出してきた。
「屁の成分はな、酸素や炭酸ガス、窒素、メタンなどで、もともと大気中にあったものが食物などといっしょに体内に取り込まれたものなんじゃ。それは体の中の胃や腸を通過し、やがて屁となって体外に放出されるわけなんじゃが、放出されれば再び大気として空気中に存在することになる。消えたわけではない、見えないだけじゃ。アマノジャクの屁ものう、わしらには見えるが普通の人間には見えんじゃろう?」
うへぇ、屁が消えるわけではない、ということは実はそこいらじゅう屁が漂っているってわけ?
「へっへっへっへっ」
妖怪たちが笑っている。
ぼくはアマノジャクの形をした屁がそこら中に漂っている風景を想像した。
どうやらおばさんも想像したらしい。おばさんは辺りを見回してぶるぶるっと体を震わせた。
そして、再びおばさんの質問。
「そしたら、そのアマノジャクから出たものは、その後どこでどういうことになるわけ?」
アマノジャクもオキビキも、またまた首をかしげている。
首をかしげる二人(?)にかわって、また座敷オヤジが答えた。
「出たあたりをいまだにふらふら漂ってるかもしらんが、もとはといえば、人間の腹の中に溜まった“思い”じゃからのう。一番つよい“思い”の主のところに引き寄せられてそっちのほうで漂っているかもしれんのう。そして、今度こそ本音を出したら驚愕するような人々の間で本音を語らせ、パニックが起こるよう画策しているやもしれん。これぞまさしくホラーじゃ。ホッホッホッホッ」
おばさんが二人(?)を呼びつけた。久しぶりに座敷オヤジをはじめ、主だった連中がおばさんの部屋に集合した。
「あんたら、いったい今まで何処でどうしていたのさ」
おばさんが紙と鉛筆をかかえてここぞとばかり膝を進めた。
オキビキとアマノジャクは実に居心地悪そうで、モジモジしながらしばらくどちらが答えるか譲り合っていたが、結局はオキビキが答えることになったらしい。
「何処でって言われましてもね、わたしら、地名などわかりませんです。ハイ」
「ハイ」
アマノジャクも相槌をつく。
「あんたらが歌舞伎町にいた、というところまで、こうもり傘男の知り合いから情報がはいってるんだけど」
おばさんがつめよる。
「歌舞伎町というと・・・あそこがそうかな?」オキビキが思い出すようにして目をほそめた。
「あそこかな」
アマノジャクも繰り返す。
「そう、あそこ」
どうやら、おばさんの歌舞伎町の記憶とオキビキたちのそれとが合致したらしい。
「そこで、なんだかアマノジャクが巨大化して分裂したというじゃないの」
さらにおばさんが水を向ける。
「巨大化して分裂?」
そうそう、みんなもそこが聞きたい。
大向こうから誰やらの声がとんだ。
「ちょっと、それ、ここでやってみてくれんかのう」
「やめて、気色悪い」
おばさんが即座に却下。
「でも、それ本当なの?」
再び、オキビキとアマノジャクは顔を見合わせモジモジした。
「あれかな?」
「あのことかな?」
二人で相談している。そして相談がまとまり、話をすることになったのはやっぱりオキビキだった。
「アマノジャクはねえ、普段心のなかで思っていることを言えないヤツとか、言わないヤツを見るとついつい本音を言わせたくなるんだそうでやす。そんなやつが本音を語りだしますとね、まわりも驚くけど、本人も驚いて慌てふためき、そこいらじゅうがパニックになる、と、それがおもしろくてたまんないんだそうでやす」
そうだった。ぼくはかつてアマノジャクに本音をしゃべらされて、ひどい目に合ったことがある。
オキビキの話は続く。
「で、夜の酒場にいくと、その土地のうわばみなんかがいるんでやす。そいつが飲みねえ、飲みねえ酒飲みねえ、ってどんどん酒を飲ませると、飲むほどに酔うほどに人々の口が軽くなる。そこにアマノジャクがちょいと仕掛けをすりゃあ本音の流出は留まるところを知りやせん」
そうだった。これも覚えがある。家に大場君というパパの会社の人が来たときに、大場くんが本音をぶちまけたためにおばさんとの縁談がぶっ壊れたんだっけ。
オキビキの話は続く。
「ところが、酒場ってとこはたしかにみんな本音を語りはするけれど、みんな驚かないんでやすよ。それどころか、おれもおれも、って本音トークが盛り上がっちゃってアマノジャクがもくろんだような情況にはならないんでやすね」
「ふむふむなるほど。酒場っていうところはもともと日頃のうっぷんを晴らしにいくところだからね」
おばさんが相槌をうつ。
「だもんでアマノジャクは、あれえ? って思うんでやす。あれえ、おかしいな。様子が違うなってね。別のところにいってみようか? って、そこであっしらはその酒場を後にするんでやすが、後にするときアマノジャクが『ああ、腹が膨れた。ちょっと食いすぎた』とか言ってブワンと・・・」
「え? 何を食いすぎたの? あんたら食べ物は必要なかったんじゃない? というか食べ物は食べられないでしょう?」
おばさんが不審に思って聞き返す。
「モチの論。普通の食べ物ではありませんや。人の腹の中に溜まっていた不平不満、愚痴などでやす」
「はあ。それを食いすぎて、ブワンと?」
「はい、ブワンと」
「ブワンと、って何をブワンと出したの?」
「やだなあ、食いすぎて出すものといったら決まってるじゃないですか」
「へ?」
おばさんはいぶかしげに聞き返した。
「屁」
アマノジャクがオウム返しのように答える。
「ちょっと待って。ひょっとすると、巨大化して分裂したというのは、屁?」
「へえ」
「へーえ」居並ぶ者どもも感心したように声をあげた。
「じゃあさ、それは屁だから、すぐに消えるのよね?」
おばさんがたずねる。
「いや、消えないっすよ」
「だって、屁なんでしょう?屁は消えるじゃない」
「そーすか?でも消えませんでしたね、アマノジャクのは」
「じゃあ、やっぱりそれは屁じゃないんじゃない?」
「・・・・・・」
アマノジャクもオキビキもわけがわからなくなって考えこんでいる。
「いや、屁も消えるわけではない」
やおら座敷オヤジが身を乗り出してきた。
「屁の成分はな、酸素や炭酸ガス、窒素、メタンなどで、もともと大気中にあったものが食物などといっしょに体内に取り込まれたものなんじゃ。それは体の中の胃や腸を通過し、やがて屁となって体外に放出されるわけなんじゃが、放出されれば再び大気として空気中に存在することになる。消えたわけではない、見えないだけじゃ。アマノジャクの屁ものう、わしらには見えるが普通の人間には見えんじゃろう?」
うへぇ、屁が消えるわけではない、ということは実はそこいらじゅう屁が漂っているってわけ?
「へっへっへっへっ」
妖怪たちが笑っている。
ぼくはアマノジャクの形をした屁がそこら中に漂っている風景を想像した。
どうやらおばさんも想像したらしい。おばさんは辺りを見回してぶるぶるっと体を震わせた。
そして、再びおばさんの質問。
「そしたら、そのアマノジャクから出たものは、その後どこでどういうことになるわけ?」
アマノジャクもオキビキも、またまた首をかしげている。
首をかしげる二人(?)にかわって、また座敷オヤジが答えた。
「出たあたりをいまだにふらふら漂ってるかもしらんが、もとはといえば、人間の腹の中に溜まった“思い”じゃからのう。一番つよい“思い”の主のところに引き寄せられてそっちのほうで漂っているかもしれんのう。そして、今度こそ本音を出したら驚愕するような人々の間で本音を語らせ、パニックが起こるよう画策しているやもしれん。これぞまさしくホラーじゃ。ホッホッホッホッ」
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