ほら、ホラーだよ

根津美也

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47.いじめ

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 ぼくら3人は、自分たちの教室に帰ろうと、階段の前にさし掛かった時、1年生の教室の前で、なにやらもめているらしい、下級生と上級生らしい子の集団を見た。

「ひょっとして、カツアゲ?」
 八木沢由美子が言った。

「行ってみる?」
 ぼくらが近寄ろうとしているのを見て、上級生らしい子が、集団をうながしてトイレに入った。

「ますます怪しい」

 トイレの前まで行った。八木沢由美子は男子トイレに入れないので、ヤッチとぼくがトイレに入ることになった。入って行ったら、その集団は「ここじゃだめだ。行こうぜ」と言いながら外に出てしまった。すれ違いざま、ぼくは下級生の集団の中にチャタローがいたのに気づいた。

「あ、ポン吉!」
「え? 知ってる子」ヤッチが聞いた。
「以前、うちに来てたお手伝いさんとこの子。本当の名前はチャタローっていうんだけど、なんか、子だぬきっぽいんでぼくの中ではポン吉って呼んでいるんだ」

 ぼくたちがトイレから出ると、八木沢由美子が廊下を曲がった先の方を覗きながら、手招きをした。ぼくたちが由美子のところに行くと、
「どうやら体育館の裏に行くらしいよ。これは完全にヤバイよ。行ってみましょうよ」


 そこでぼくたちは体育館の裏まで行くことになった。

 体育館に近づくにつれてなにやら話し声が聞こえてきた。
「おい見せてみろ」
「いやだよ」
「脱がしちゃおうぜ」
「いやだよう、やめてよう」
「押さえて、押さえて」
 ぼくは聞いているだけで胸がドキドキした。

 建物の角を曲がると5年生数人と1年生数人がいた。5年生は知っている顔だった。何しろ中心人物は最近全校的に話題になっている5年2組の医者の息子だったからだ。そして取り押さえられているかわいそうな1年生は、ぼくんちにお手伝いさんに来ていたタイコさんの子供だった。
「六年生だ!」
医者の息子の取り巻きの一人がぼくたちに気付いて言った。
 なに? どうしてぼくらが6年生ってわかるの? ヤッチの妹が5年生だから、兄貴のヤッチを知ってるのかな? それとも、梅小のジャーナリストを自認する八木沢由美子が有名なのかな? そう思いながら、悪ガキ集団と、ぼくの友達を交互に見て首を動かしていたら、すこしはなれたところで薄笑いをしながら体育館の壁にもたれているゲンガクの姿が目の端に映った!

 ゲンガク!

 おまえがからんでいるのか!

「からんでるだなんて人聞きの悪い」
 ゲンガクはへらへらと笑いながら言った。
「このクソガキどもが面白そうなことをしているから見に来ただけさ」
 
 ぼくがゲンガクと話している間に、現実の社会ではもうやり取りが始まっていた。

 八木沢由美子が声を張り上げていた。
「君たちなにやってるの?」


 すると5年生たちは最初、まずいところを見つかったかなというような顔をしていたが、医者の息子だとかいうリーダー格の子はたちまちお行儀がよさそうな顔になってあたりさわりのない答えをみつけてきた。

「この一年たちが廊下でけんかをしてたので、ちょっと注意しようと思ったんだよ」

 するとゲンガクは含み笑いをしながら言った。
「うふふ、廊下で喧嘩していた1年坊主が勢いでたまたまぶつかったのさ。それでちょうどいい、シメようってことになったのさ」
ふーん。なるほど。そのほうが納得いくシーチュエーションだ。

「注意するなら、その場ですればいいじゃない? だけど、あんたたち、一度、トイレに入ったわよね。それからこの体育館の裏に来たんじゃない? なんでわざわざ体育館裏に連れて来たの?」

すると、その医者の息子は一瞬眉根をよせて舌打ちしていった。
「てめえは、いきさつ知らないでしょう? 知らない癖に言うんじゃないよ。オンナはだまってな!」
 
 あ、地雷踏んだ! とぼくは一瞬思った。案の定、八木沢由美子が爆発した。
「なんですって! 女はだまってろですって?! そういう差別的発言をあんたはどこで習ってきたの? あんたのこと知ってるわよ。薮井医院とこの息子でしょう! お父さんがそういうことを教えるの? だったら、あなたのお父さんは女性蔑視のレイシストね。このこと言い触らしてやるわ!」

「うるさい!オンナ!」

医者の息子、薮井くんは、よせばいいのに八木沢由美子をぶん殴ってしまったんだ!

八木沢由美子はそのため吹っ飛んで転んでしまったが、もちろんそんなことで引き下がる女の子ではないんだよね、八木沢由美子って。

「なに、ドメステックバイオレンスもやってるの? 薮井先生は暴力も振るうのね! スキャンダルだわ。薮井先生は暴力男でレイシストって、知れたらどうなるでしょうね。ここら辺のお医者さんは薮井医院だけではないからね!」

「なんだと! オンナ! 俺が怖くてしゃべれないようにしてやるぜ」

 そしたらヤッチが立ちはだかった。
「ここはいいから、由美ちゃん先生を呼んできて」
 ヤッチは体がでかいから、けっこうな抑止力がある。それに長男の貫録があるもんで、一人っ子の医者の息子がたじろいだ。

 ぼくは転んだまま叫んでいる八木沢由美子を抱き起してやり、スカートについた泥をはらってやって「ほら、行ってきて」と肩を押してやった。そのついでにゲンガクをチラ見したら、ゲンガクのやつ、面白そうに笑っている。
 あいつ、こういうの大好きなんだな。やっぱり魔物だ、とか思った。でも、重要な情報をくれたので、役にはたつなとも思った。
 そしてぼくはそのカードを切った。

「ぼくはいきさつを知ってるよ。キミたちは1年生の喧嘩をとめようとしたんじゃないよね。ぶつかってきたからちょうどいい、シメようってことになったんでしょ。最初はトイレでやろうと思ったけど、ぼくたちが入って行ったので、体育館の裏に場所をかえたんだよね」

 5年生たちは、なんでわかったんだ、というような表情をして一瞬ひいた。
が、いいことを思いついたらしい。医者の息子が悪巧みを持ちかける越後屋のような顔つきになって言った。
「なんかさあ、この子に尻尾があるんだってさ。それでないとかあるとか喧嘩してたんだよ。じゃあ、本当かどうかみてやろうかってことになったのさ、だから人目の付かないところに来たんだよ。」

 体育館の壁際でゲンガクが、おもしろくてしょうがないというようにヒヒヒヒと笑いながらコメントを差し挟んだ。

「5年は1年をまとめてシメようとしたんだよ。そしたら1年は仲間1人を人身御供に差し出したのさ。そして自分たちもシメる側にまわったのよ。人間ておもしろいことをやってくれるじゃない。まだチビなのにさ、ヒヒヒヒヒ」
鼻の先で嗤うゲンガクの笑い声に交じって、シメる側にまわった1年が我も我もと口を挟んだ。

「本当だよ。尻尾があるよ」
「ぼく体育のときに見たよ」
「毛がはえているよ」

 だろうな、とぼくは思った。その子は・・・ズボンを脱がすまでもなく、そのうち全身から毛を噴出させるかもしれない。ぼくはポン吉の切羽詰った立場を考えると気が気ではなくなった。
 もし、ポン吉の正体がばれるとどういうことになる? 大騒ぎになるよね。ポン吉は今までどおり学校に通うことができなくなるよね。それだけじゃないだろう。タイコさんも仕事ができなくなるんじゃない? そうなるとポン吉はどうなるの?

「本当に尻尾があるんだったら、手術で取ってもらえばいいんだよ。おれ、オヤジに言うからさ、一緒に検証しようぜ」
と医者の息子が言った。

手術なんてできっこない。そういう尻尾じゃないんだから。ぼくはそのことを知っているんだけれど、なんて言ったらいい?

「見なくていいだろう、そんなもの。それにその子嫌がっているよ」
 そう言うのがやっとだった。

 そしたら、また医者の息子の眉にしわが寄った。
「手術でとれるなら、とった方がいいだろう、それを邪魔するのか?」

「それを決めるのは君じゃなくて、この子のお母さんだよ」

「どっちみち、お前らは関係ないだろう? もう行けよ!」

 共犯にできないのなら、次は排除というわけか?
取り巻きたちも言った。
「行けよ」
ポン吉が悲しげな目でぼくを見ている。

「じゃあ、この子を連れて行くよ」
ぼくはポン吉を引き寄せた。ポン吉もぼくにしがみついてきた。

「そいつを置いて行け!」

 ポン吉をめぐってつかみ合いになった。ちょっとこちらは分が悪かった。何しろ向こうは5年3人、1年のこまかいのがけっこう数人で向かってきたから。

 おい、ゲンガク、何とかしろ、と呼び掛けようと思った。おまえ、ぼくのしもべでしょ、って言おうとしたが、ぼくはその言葉をキャンセルした。

 間に合ったんだ!
 体育館の角から八木沢由美子を先頭に先生たちが来たんだ。
 何と3人! 1年生とぼくらの担任の6年生の先生と、教頭先生の3人だ!

 条件反射というやつだな。悪ガキ集団が逃げ出そうとしたんだ。逃げようとしなければ、言い訳はできたかもしれないんだけどね、逃げようとした。
「ちっ! 本当に先生呼んできたのかよ! あのオンナ! 逃げただけじゃあねえのかよ」って、医者の息子たちが呟きながらね。

 ただ途中で、逃げるのはまずいかも、と5年生は思ったのかもしれない。足の遅い1年のほうが先に立って走るというような構図になった。そのためか、ぼくとヤッチが追い付いて行く手をふさぎ、先生たちとの挟み撃ちにした。なにしろ、ぼくとヤッチは100メートル走2着の成績保持者だからね。

 先生たちの問いかけに、5年生たちは言い逃れをしようとしたが、1年の子たちがもう泣きじゃくりながら本当のことを話してしまったので、もうアウトだった。

 しかし。

「さてと」
 医者の息子は急に無表情になった。
「こんな時間だ。塾に行かなくちゃな」
 まるで何事もなかったような顔をして取り巻きたちを促した。
「行くぞ」
 取り巻きたちは事情を急にはのみこめなくて戸惑っていたが、自分たちのリーダーに付き従った。

 あれれ、先生たち、このまま悪ガキたちを帰しちゃうのかな? 帰しちゃうらしかった。
 なにしろ教頭先生は物凄く忙しかったから。
 但し、1年生の先生はこれから問題児たちにお説教をするらしかった。

 ぼくは一年生の先生に言った。
「マミアナくん(ポン吉・チャタローの苗字:念のため)は帰っていいでしょう? この子ショックで倒れそうだから送っていきたいんです。僕、この子の知り合いなんです」


 許可がでるとポン吉はすっとんできてぼくに抱きついた。
 えっ、えって泣いている。よっぽど怖かったんだ。
「トイレ行きたくない?」
 ぼくは聞いた。
「行きたい」
「じゃあ、体育館のトイレじゃなくて、みんながいる教室前のトイレにいこうね。我慢できる?」
「できる」
 ポン吉はトイレに入る前「待っててね、待っててね」と何回も念をおした。ポン吉の心細い気持ちがが痛いほど伝わってきた。ぼくはトイレの個室の前で待ってやった。ヤッチと八木沢由美子もトイレの外で待っていてくれた。

 そして、ぼくたちはポン吉を松風荘まで送って行った。

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