ほら、ホラーだよ

根津美也

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49.書初め大会の選抜に選ばれた

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5年2組の話はさておき ……… ぼくの方 ………

 大変なことになった。

 ぼくは密かに、ゲンガクに習字を手伝ってもらっていた。そのため習字が非常にうまい、ということになって、ぼくの書いた作品が都展に出ることになった。それだけでも後ろめたいのに、正月の書初め大会に学校を代表して出ないか、という話も持ち上がってしまったのだ。

 勿論、候補者は何人かいて、まず、作品を描いて予選に応募し、予選に通れば席書といって、本選の会場に集まってそこで書初めをする、というのだ。

 そういうものに選ばれたのでご協力いただきたいという両親宛ての手紙を貰った。

 これはママに見せられない、とぼくは直感的に思った。なぜなら、ママは純粋で疑うことを知らない人なんだ。そんなママを、ぼくは騙すことになってしまうんだ。おまけにママはいいことがあると、周りに言い触らすクセがある。言い触らした後で、ぼくの字は本当は下手だとわかったらどうなるんだろう? ママが嗤われてしまう。

 そんな心配をしていたら、ゲンガクがやってきて
「心配するな。ずっと俺、ヨシヒコについて行ってやるから。席書行け。そんで金賞とれ。俺、手をかすから。俺に体をゆだねろ」とささやいた。

 書初め大会出場予定者の習字の練習が、放課後の学校で始まった。
 出場予定者は掃除当番免除だ。放課後、多目的ホールに集まる。ヤッチと離れることが、なんとなく心細い。ヤッチはぼくのために喜んで、「がんばれ」と言ってくれたために、いっそう後ろめたさが増した。

練習は、床に大きな書初め用の紙を広げて、そこに字を書く。大きな紙と大きな字に慣れる練習だ。筆は今のところ、学校のものを借りているが、できれば自分の使いやすい筆を用意するようにといわれている。
 
まだママにはこのことを話していない。その前におばさんに洗いざらい話して相談に乗ってもらおうと思うのだが、なぜか、ここのところ、おばさんは外出が多くて、なかなか切り出せないでいた。
やっとおばさんをつかまえたのは、予選応募用の清書を提出した後だった。

「まだ付き合っとったん?」
 とおばさんは言った。
「ぼくが、ああいう魔物と付き合っていたの知ってたの?」
「知らいでか」
「やっぱり」
「でも、手を切ったのかなと思われるフシもあったけど、ふーん、習字ねえ」
「うん。書き初め大会の通知、まだママに渡してない。なんか、まずい感じがして」
「ママに言ったらどうまずい?」
「すごくよろこんで、近所に言い触らしそうで」
「じゃあ、言い触らさないでって言って渡したら?」
「おばさんは、書初め大会に出るの賛成なの?」
「賛成もなにも、事態は進行してるのでしょう」
「う~ん」
「これを最後にしたら? ゲンガクの協力をあおぐのは。というより、これが最後になるかもね」
 この時、これが最後になるかもね、と言ったことのほうが意味深で、重要だったのに、おばさんがゲンガクの名を語ったことの方に驚いて聞き流してしまった。
「おばさん、あいつの名前知ってるの?!」
「まあ、知ってたね」
「なんで知ってたの?」
「ダテに妖怪作家やってるわけではないよ。そっちの方にいろいろ情報網があるのさ。ついでにそこから得た情報によると……ゲンガクってさ、身体をあずけろ、とかゆだねろとか言わない?」
「あ、言う。しょっちゅう言う」
「それで、ヨシヒコは腕をあずけて、ゲンガクが書写をするんだね?」
「そう。ちょうど、お父さんとか、お母さんが手をとって、字を書かせてくれたようなかんじなんだ」
「それってね、刷り込みっていうらしいよ。まず、身体をゆだねることに慣れさせるんだそうだ。するとだんだん、身体が魔の思う通り動くようになるんだって。また、身体をゆだねることで、心もゆだねるようになるんだそうだ。まだ初期のようだから大丈夫だけれど、回を重ねていくと、操り人形のようになるらしいよ」

ぼくはマジ青ざめた。書初め大会の選抜に指名された時から漠然と感じていた嫌な予感はこれなのかと思った。けれど、これを最後にすればいいって、おばさんは言った。じゃあ、ここまでなら大丈夫ってことかな?

ぼくは学校から渡された、書初め大会の手紙をママに持って行った。
思った通り、ママは躍り上がらんばかりに喜んだ。そして、例によって「ひかるちゃん、ひかるちゃん」と二階に知らせにいこうとしたので、あわててぼくは止めた。
「このこと、あんまり近所とか他の人に言わないで」
「どうして? だって、いいことじゃない? いいことなのにどうして?」
「まず予選があるんだ。予選に落ちるかもしれないし、本選にいっても何の賞もとれないかもしれないんだ。そうしたら、ぼく恥ずかしくて表を歩けなくなっちゃうから、言い触らさないで。本選で賞をとったら言ってもいいから」
「わかったわ。他の人に言わない。でも、本選に行けたら、おばさんやパパを誘って見に行ってもいいでしょ?」
う~ん。あんまり見られたくないという気持ちもあったけど、とりあえず「いいよ」と答えた。

そして、書初め大会の参加申込書を書いてもらい、書初め用の筆も買ってもらえることになった。

 



 

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