62 / 77
62.パパは何者?
しおりを挟む
しかし、驚きの声をあげたのはぼくだけではなかった。
おばさんが「にいさん」と言い、マミさんが「世話役さん」と言い、所長さんらしい人は「民生委員さん」と言った。
え?
世話役さん?
民生委員さん?
おばさんももの問いたげな顔をしている。そんなおばさんにパパはあとで、とでも言うように目配せをしながら、マミさんの肩を2~3度ポンポンとたたき、
「タイコさん。チャタロー連れて帰んなさい」と言った。
そして名刺を取り出すと、笹山さんに向き直った。
「たいへん、お疲れ様でございます。わたくし、福祉法人・砧インテグレーションスタッフサービスで世話役をしておりますこういうものでございます。今後ともよろしくお願い申し上げます。笹山様。いかがでございましょう。こんなところもなんでございますから、これからカラオケにでも繰り出しませんか?ご接待させていただきますよ」
パパは笹山さんをまるで大事な取引先でもあるかのように手を差し出した。笹山さんはパパの名刺を両の親指と人差し指でつまんでながめながら、パパに言われるままに立ち上がった。
「いやあ、あいにくわしは名刺を切らしておって失礼します。しかし、カラオケはわしゃ好かんなあ」
そう言いながらもどうやらまんざらでもない様子だ。ご接待ってパパが言ったことが気に入ったのかな?パパはといえば断られたみたいなのに一向に気にせず、笹山さんの腰に腕を回して一緒に歩きながら連れ去らんばかりの勢いでしゃべっていた。
「いえいえいえ、亡くなられた笹山様の奥様はカラオケがお好きでしたねえ。町内会のカラオケ大会でいつもご一緒させていただいておりましたが、奥様は、本当はご主人も連れて来たいんだということをいつもおっしゃっておりました。しかし、ついぞ一緒にいらっしゃることはありませんでしたなあ。今日は、奥様のお好きだったカラオケに行き、奥様を偲んで熱唱しましょう。
笹山様は誰が好きですか?東海林太郎さん?三波春夫さん?三橋美智也さん?笠置シズ子さん?淡谷のり子さん?菅原都々子さん?美空ひばりさん?」
突然、笹山さんが立ち止まった。後からついていったぼくたちは笹山さんの後姿が小刻みに震えているのを見た。笹山さんが怒ってどなりだす!とぼくたちはみんなそう思った。
ところが、笹山さんは泣きだしたのだ。うっうっと泣いてパパの名刺を両手で持っているものだから両手がつながったまま両手で涙をぬぐったので、まるで泣きじゃくっている感じになってしまった。
「そうじゃった。あいつはなあ、カラオケが好きでなあ、いっしょに行かないかとは、まあ、言うとったがなあ、わしゃ機械はようわからん。歌える歌も少のうてな、ええ恰好もでけんからことわっておった。あいつが町内会のカラオケ大会に行くときゃカレーをこしらえてなあ、あとはよろしくってあわただしくでかけていきおったが、そうか、わしを連れてきたいといつも言うとったか・・・。そんなに一緒に行きたいと思ってたんならあんとき一緒にいってやればよかった。今更行ってもあれがおるわけじゃなし、わし1人が歌ってもわびしいばかりじゃ。今日は家に帰って、線香でもあげて寝よう」
笹山さんはやっと帰る気になったらしい。それにしても意外な展開だった。だけどパパが町内会のカラオケ大会に行っていたなんて、ちっとも知らなかった。
それに、え? パパはキヌタインテグレーションスタッフサービスの世話役さんなの? 初耳だよ。どうなってるんだ?
パパは所長さんらしい人に言った。
「所長さん。どうもお疲れさまでした。あとは民生委員の私にお任せください。どうかここを閉めてお帰りください」
所長さんらしいと思ってた人は、やはり所長さんだったんだ。所長さんは、ホッとして、何度もお礼を言っていた。
気がつくと、部屋を埋め尽くしていたアマノジャクの屁が一体もいなくなっていた。
団体交渉は終わりっていうところかな。
ぼくら一行は所長さんを残して外に出た。
しかし、外に出てみると外にはまだ数体のアマノジャクの屁がふらふらと浮かんでいた。
そして、デイホームの門前の道路はバイクとウンコスワリをしている少年たちでふさがれていた。
「まずいな」
パパが言った。
「まあ、なにもしないとは思うけど、無理して通らなくてもいいだろう。学校の給食室のほうにまわって学校の裏門から出よう」
デイケアと学校は駐車スペースを共有しながらつながっていた。人が行き来できる通路もあって、境は植え込みと簡単な木の扉でしきられていた。
ぼくたちはそちらに行こうとしたが、何を思ったか笹山さんが少年たちのほうにつかつかと近づいていった。
止める間もなかった。
笹山さんは例の大声でどなった。
「こらーっ!」
「あちゃー」ぼくたちは目をおおった。
おばさんが「にいさん」と言い、マミさんが「世話役さん」と言い、所長さんらしい人は「民生委員さん」と言った。
え?
世話役さん?
民生委員さん?
おばさんももの問いたげな顔をしている。そんなおばさんにパパはあとで、とでも言うように目配せをしながら、マミさんの肩を2~3度ポンポンとたたき、
「タイコさん。チャタロー連れて帰んなさい」と言った。
そして名刺を取り出すと、笹山さんに向き直った。
「たいへん、お疲れ様でございます。わたくし、福祉法人・砧インテグレーションスタッフサービスで世話役をしておりますこういうものでございます。今後ともよろしくお願い申し上げます。笹山様。いかがでございましょう。こんなところもなんでございますから、これからカラオケにでも繰り出しませんか?ご接待させていただきますよ」
パパは笹山さんをまるで大事な取引先でもあるかのように手を差し出した。笹山さんはパパの名刺を両の親指と人差し指でつまんでながめながら、パパに言われるままに立ち上がった。
「いやあ、あいにくわしは名刺を切らしておって失礼します。しかし、カラオケはわしゃ好かんなあ」
そう言いながらもどうやらまんざらでもない様子だ。ご接待ってパパが言ったことが気に入ったのかな?パパはといえば断られたみたいなのに一向に気にせず、笹山さんの腰に腕を回して一緒に歩きながら連れ去らんばかりの勢いでしゃべっていた。
「いえいえいえ、亡くなられた笹山様の奥様はカラオケがお好きでしたねえ。町内会のカラオケ大会でいつもご一緒させていただいておりましたが、奥様は、本当はご主人も連れて来たいんだということをいつもおっしゃっておりました。しかし、ついぞ一緒にいらっしゃることはありませんでしたなあ。今日は、奥様のお好きだったカラオケに行き、奥様を偲んで熱唱しましょう。
笹山様は誰が好きですか?東海林太郎さん?三波春夫さん?三橋美智也さん?笠置シズ子さん?淡谷のり子さん?菅原都々子さん?美空ひばりさん?」
突然、笹山さんが立ち止まった。後からついていったぼくたちは笹山さんの後姿が小刻みに震えているのを見た。笹山さんが怒ってどなりだす!とぼくたちはみんなそう思った。
ところが、笹山さんは泣きだしたのだ。うっうっと泣いてパパの名刺を両手で持っているものだから両手がつながったまま両手で涙をぬぐったので、まるで泣きじゃくっている感じになってしまった。
「そうじゃった。あいつはなあ、カラオケが好きでなあ、いっしょに行かないかとは、まあ、言うとったがなあ、わしゃ機械はようわからん。歌える歌も少のうてな、ええ恰好もでけんからことわっておった。あいつが町内会のカラオケ大会に行くときゃカレーをこしらえてなあ、あとはよろしくってあわただしくでかけていきおったが、そうか、わしを連れてきたいといつも言うとったか・・・。そんなに一緒に行きたいと思ってたんならあんとき一緒にいってやればよかった。今更行ってもあれがおるわけじゃなし、わし1人が歌ってもわびしいばかりじゃ。今日は家に帰って、線香でもあげて寝よう」
笹山さんはやっと帰る気になったらしい。それにしても意外な展開だった。だけどパパが町内会のカラオケ大会に行っていたなんて、ちっとも知らなかった。
それに、え? パパはキヌタインテグレーションスタッフサービスの世話役さんなの? 初耳だよ。どうなってるんだ?
パパは所長さんらしい人に言った。
「所長さん。どうもお疲れさまでした。あとは民生委員の私にお任せください。どうかここを閉めてお帰りください」
所長さんらしいと思ってた人は、やはり所長さんだったんだ。所長さんは、ホッとして、何度もお礼を言っていた。
気がつくと、部屋を埋め尽くしていたアマノジャクの屁が一体もいなくなっていた。
団体交渉は終わりっていうところかな。
ぼくら一行は所長さんを残して外に出た。
しかし、外に出てみると外にはまだ数体のアマノジャクの屁がふらふらと浮かんでいた。
そして、デイホームの門前の道路はバイクとウンコスワリをしている少年たちでふさがれていた。
「まずいな」
パパが言った。
「まあ、なにもしないとは思うけど、無理して通らなくてもいいだろう。学校の給食室のほうにまわって学校の裏門から出よう」
デイケアと学校は駐車スペースを共有しながらつながっていた。人が行き来できる通路もあって、境は植え込みと簡単な木の扉でしきられていた。
ぼくたちはそちらに行こうとしたが、何を思ったか笹山さんが少年たちのほうにつかつかと近づいていった。
止める間もなかった。
笹山さんは例の大声でどなった。
「こらーっ!」
「あちゃー」ぼくたちは目をおおった。
0
あなたにおすすめの小説
笑いの授業
ひろみ透夏
児童書・童話
大好きだった先先が別人のように変わってしまった。
文化祭前夜に突如始まった『笑いの授業』――。
それは身の毛もよだつほどに怖ろしく凄惨な課外授業だった。
伏線となる【神楽坂の章】から急展開する【高城の章】。
追い詰められた《神楽坂先生》が起こした教師としてありえない行動と、その真意とは……。
9日間
柏木みのり
児童書・童話
サマーキャンプから友達の健太と一緒に隣の世界に迷い込んだ竜(リョウ)は文武両道の11歳。魔法との出会い。人々との出会い。初めて経験する様々な気持ち。そして究極の選択——夢か友情か。
(also @ なろう)
【完結】カラフルな妖精たち
ひなこ
児童書・童話
星野愛虹(ほしの・あにー)は小学五年女子。絵を描くのが大好き。ある日、絵を描いていると色の妖精・彩(サイ)の一人、レッドに出会う。レッドはガスの火を変化させて見せる。サイは自分の色と同じ物質をあやつり、人の心にまで影響できる力を持つ。さらにそのサイを自由に使えるのが、愛虹たち”色使い”だ。
最近、学校では水曜日だけ現れるという「赤の魔女」が恐れられていた。が、実はサイの仲間で凶悪な「ノワール」が関わっていた。ノワールは、人間の心の隙間に入り込むことを狙っている。彼を封印するには、必要な色のサイたちをうまく集めなくてはいけない。愛虹の所有するサイは、目下、赤と白。それでは足りず、さらに光のカギもないといけない。一体どこにあるの?仲間を探し、サイを探し。
これは愛虹と仲間たちが、たくさんの色をめぐって奮闘する冒険物語。児童向け、コミカルタッチの色彩ファンタジーです。
荒川ハツコイ物語~宇宙から来た少女と過ごした小学生最後の夏休み~
釈 余白(しやく)
児童書・童話
今より少し前の時代には、子供らが荒川土手に集まって遊ぶのは当たり前だったらしい。野球をしたり凧揚げをしたり釣りをしたり、時には決闘したり下級生の自転車練習に付き合ったりと様々だ。
そんな話を親から聞かされながら育ったせいなのか、僕らの遊び場はもっぱら荒川土手だった。もちろん小学生最後となる六年生の夏休みもいつもと変わらず、いつものように幼馴染で集まってありきたりの遊びに精を出す毎日である。
そして今日は鯉釣りの予定だ。今まで一度も釣り上げたことのない鯉を小学生のうちに釣り上げるのが僕、田口暦(たぐち こよみ)の目標だった。
今日こそはと強い意気込みで釣りを始めた僕だったが、初めての鯉と出会う前に自分を宇宙人だと言う女子、ミクに出会い一目で恋に落ちてしまった。だが夏休みが終わるころには自分の星へ帰ってしまうと言う。
かくして小学生最後の夏休みは、彼女が帰る前に何でもいいから忘れられないくらいの思い出を作り、特別なものにするという目的が最優先となったのだった。
はたして初めての鯉と初めての恋の両方を成就させることができるのだろうか。
野良犬ぽちの冒険
KAORUwithAI
児童書・童話
――ぼくの名前、まだおぼえてる?
ぽちは、むかし だれかに かわいがられていた犬。
だけど、ひっこしの日に うっかり わすれられてしまって、
気がついたら、ひとりぼっちの「のらいぬ」に なっていた。
やさしい人もいれば、こわい人もいる。
あめの日も、さむい夜も、ぽちは がんばって生きていく。
それでも、ぽちは 思っている。
──また だれかが「ぽち」ってよんでくれる日が、くるんじゃないかって。
すこし さみしくて、すこし あたたかい、
のらいぬ・ぽちの ぼうけんが はじまります。
生まれたばかりですが、早速赤ちゃんセラピー?始めます!
mabu
児童書・童話
超ラッキーな環境での転生と思っていたのにママさんの体調が危ないんじゃぁないの?
ママさんが大好きそうなパパさんを闇落ちさせない様に赤ちゃんセラピーで頑張ります。
力を使って魔力を増やして大きくなったらチートになる!
ちょっと赤ちゃん系に挑戦してみたくてチャレンジしてみました。
読みにくいかもしれませんが宜しくお願いします。
誤字や意味がわからない時は皆様の感性で受け捉えてもらえると助かります。
流れでどうなるかは未定なので一応R15にしております。
現在投稿中の作品と共に地道にマイペースで進めていきますので宜しくお願いします🙇
此方でも感想やご指摘等への返答は致しませんので宜しくお願いします。
独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。
猫菜こん
児童書・童話
小さな頃から、巻き込まれで絡まれ体質の私。
中学生になって、もう巻き込まれないようにひっそり暮らそう!
そう意気込んでいたのに……。
「可愛すぎる。もっと抱きしめさせてくれ。」
私、最強の不良さんに見初められちゃったみたいです。
巻き込まれ体質の不憫な中学生
ふわふわしているけど、しっかりした芯の持ち主
咲城和凜(さきしろかりん)
×
圧倒的な力とセンスを持つ、負け知らずの最強不良
和凜以外に容赦がない
天狼絆那(てんろうきずな)
些細な事だったのに、どうしてか私にくっつくイケメンさん。
彼曰く、私に一目惚れしたらしく……?
「おい、俺の和凜に何しやがる。」
「お前が無事なら、もうそれでいい……っ。」
「この世に存在している言葉だけじゃ表せないくらい、愛している。」
王道で溺愛、甘すぎる恋物語。
最強不良さんの溺愛は、独占的で盲目的。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる