ほら、ホラーだよ

根津美也

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73.副音声が聞こえる

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 中学受験がある日、クラスはぼくとヤッチとフミコの3人だけだった。

 先生が言っていた特別授業とは、ビデオ鑑賞だった。先生が一押しのおもしろいビデオを1本借りてきて見せてくれたのだ。

 それは、主人公がそれをかぶるとスーパーマンみたいになんでもできちゃうという仮面を手に入れ、それをかぶって悪者を退治し、恋人も手に入れるというストーリだった。

  見終わった後、先生が聞いた。
「こんな仮面を手に入れたら、君たちならなにをする?」

 ヤッチが即座に応じた。
「ドッジボールで最後まで残りたい!」
ヤッチはクソ真面目なので勉強のほうはいい線をいってるけど、運動はいまいち。ヤッチはそのことをけっこう気にしているんだ。

「なんだそれだけか?」 
  欲がないなあ、というように先生は言った。

「あ、じゃあ、100メートル走で一等とりたい。いや、リレーの選手になりたい。いや、オリンピックに出て金メダルをとりたい」

 考えているうちにエスカレートしていったみたいだ。先生は笑いながら言った。

「まあ、金メダル取れるくらいの記録は出るかもしれないけど、仮面をかぶったままオリンピックに出られないかもしれないよ。オリンピック委員会から仮面をとって走ってくださいって言われるかもしれないね」

「じゃあだめか。仮面をかぶってやれるスポーツっていったら、プロレスぐらいか・・・本当はどうせやるなら、野球とかサッカーがいいんだけどな。あれも仮面かぶってちゃだめだよね」

「じゃあ、仮面をかぶっても自分の顔のままでいるってことにしよう。そしたら、何をやりたい? これでどう?」
「あ、それなら野球の選手がいいな。アメリカのメジャーに入って、ボカスカ、ホームラン打ちたい」
「なるほど」

 その時、ヤッチから副音声のようなものが聞こえてきた。
(野球の選手になったら、億とかいう契約金もらえるんだよな。そしたら、弟や妹に好きな学校行かせてあげられるなあ)

 ん? ヤッチの本音か? アマノジャクでも来たかな? ぼくはあたりを見回した。しかし、アマノジャクもいなければ、それらしいものは見当たらなかった。

「百目鬼はどう?あんな仮面があったらなにをしたい?」 先生は今度はぼくに聞いた。

「えー? ぼく?・・・」

 何がしたいって……

 ぼくはつい最近までゲンガクという、その仮面に似たようなアイテムを持っていた。けど、考えてみると、ぼくの方からやりたいことをゲンガクに頼んだことは無かった。そのゲンガクから「おまえやる気がないよな」と言われたり、「覇気がない」と言われたりして「失礼な、ぼくだってやりたいことはあるさ」と言い返していたけれど、さて、改めて何がしたいと聞かれて、何も思いつかないということに遭遇してしまった。

「今のところ思いつきません」
 やむなくぼくはそう答えた。

「そうか。じゃあ、小林はどうだ? なんでもできるとしたら、なにがやりたい?」

 フミちゃんは一瞬臆したように体を後にひいた。そしてぼくたちを交互に見わたしながら「あたし? あたしはね、えーとね、えーとね・・・」と、「えーとね」をかなりの回数くりかえした。
 その時、フミちゃんから副音声のようなものがきこえた。

(あたしのことなんか本当は興味ないでしょう?)

 え? 空耳かな? 

 ちょっとの間、沈黙の時間が流れた。
 いつもならフミちゃんが答えなければ、いいかげんなところで他の子に発言権がまわったりするのだが、今日は時間がたっぷりあったし、先生とぼくたち二人しかいなかったのでフミちゃんがしゃべり出すのをぼくたちは気長に待った。
 それでやっとフミちゃんは話し始めた。

「ヘマをしないで何でもできるようになりたい。あれをかぶると、ヘマしないでできるんだよね?」
「フミコはよくヘマをするの?」
 先生が聞いた。
「いつも」
「どんな?」
「お茶碗割ったりとか、電話に出ても、だれからかかってきたかわからないうちに切っちゃうとか」
「そうか。ちょっと気をつけると、あんな仮面を被らなくてもできそうなんだけど、だめか?」
「だめ、ヘマやっちゃう。フミコはどんくさいから」

 その時、フミコからまた副音声のような声が聞こえた。
「実はわたし、もう仮面をかぶっているの。どんくさいという仮面よ。そんな仮面どうしてかぶるのってきくの? この仮面をかぶっていると安全なの。パパもママも仕方がないって手加減してくれるの。私ね、パパやママの前で何かをやろうとするとどうしても緊張しちゃうのよ。そしてかえって失敗しちゃうの。だからうまくやろうと考えるのはやめて、フミコはどうせドジでのろまですって仮面をかぶることにしたのよ。そしたらね、本当にどんどんドジでのろまになるのよ」

 ぼくはびっくりしてフミちゃんの顔を見つめた。フミちゃんはそんなぼくに気付いて、用心するような目を向けたが、すぐに目をそらした。
 ぼくはなんでフミちゃんからそんな声が聞こえたのか不思議に思った。

 なんか、まだぼくの知らない妖怪かなんかが来て、ぼくにコンタクトを持とうとしているのかな?

 ぼくは再びあたりを見回したが、周りに怪しい気配は見当たらなかった。

 しかし「どんくさいという仮面」か。

 そんなもん誰も被りたくないお面だと思うけど、それを自分から被ってるって?
 
 ビデオにあったのは、「なんでもできちゃう仮面」

 フミコが被っているのは「何もできないという仮面」

 フミコはそれで自分を守っているつもりなんだろうけど、それでいいのかな?

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