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75.卒業式の日
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卒業式の日がきた。私立中学に入学した子は中学の制服を着てきたから誰がどこの学校に入ったか大体わかった。
女の子たちは互いの制服を見せ合うことで、今まであまり友達付き合いしてこなかった子とも親し気に話をしていた。
ぼくはママに市販のブレザーとズボンを買ってもらった。ヤッチも自分のママから買ってもらっていた。
「うちは弟がいるから何回も着るんだ。そういった意味ではきょうだいが多いのは経済的だな」とヤッチは言った。
マサルも私服だった。
「落ちたの?」ってみんなに聞かれていた。
「うるさい! 卒業式後に発表がある学校を受けたからまだ買ってないんだ!」
マサルは強がっていたが、深く傷ついているのが感じられた。多分、おばさんからも散々お小言を頂戴したろう。
自由時間でクラスにいる間、居心地悪そうにしていた。
制服組の男の子たちは「本命落ちたな。だって本命は2月3日の発表だからな。あそこは記念受験で受験する奴も多いしな。」と陰で噂をしていた。
八木沢由美子が向こうからやってきた。八木沢由美子は難関の有名女子校の制服を着ていた。八木沢由美子はがんばったんだ、と思いながら見ていた。
そしたら八木沢由美子はぼくの前でピタっと止まった。
「今日でおわかれね」
由美子は感無量という感じですこし言葉を切った。それから、
「ヨシヒコは男女共学の竹中(公立・竹林中学)に行くのよね。私の中学は女子校なの。多分、高校までずっとこの学校行くと思うわ」と言い、再び言葉を切った。
副音声が聞こえてきた。
(だから、私には当分彼氏はできないわ。ヨシヒコはできるかもね。高校生くらいになったらね、彼女が出来るかも)
「私ね」と八木沢由美子は続けた。
「私、自分が、美人ではないっていうのわかっているの。ヨシヒコが迷惑していたっていうのも知ってるの。
でも、密かに思っているだけとか、遠慮するとかって、私らしくないと思ったのよ」
おいおい、なんか人が集まってきたぞ。中学の制服を着て、デモンストレーションしていた女子達がやってきたじゃないか。明日香ちゃんもその中に入っている。明日香ちゃんはママもそこの卒業生だというお嬢様学校に入ったという噂だ。
人が集まってきたから話すのやめるかな? と思ったが、八木沢由美子は、その女子の集団をちらっと見ただけで話を続けた。
「最初にバレンタインのチョコを持ってヨシヒコの家に行った時は、本当はドキドキだったのよ。でも、お母様や、おばさまから、とっても優しくして頂いたの。それで、私の”好き”は間違ってはいないって確信したのよ。豊かな愛情の中で育った子は大物になるって」
副音声が付いてきた。
(私のお母さんがそういうことを私に教えてくれるのよね。犬の中でも人の役にたつ盲導犬は、子供の時、愛情たっぷりの中で育つってね)
え~?、ぼくって盲導犬扱い?
それよりギャラリーが増えて来たぞ。
いいの? こんな人が見てる中でこういう話ってさ。本当は物陰に呼んで話す話じゃないのか?
しかし、八木沢由美子は人が見ようが笑おうが、臆せず、屈せず、我が道を行くタイプだった。
「最初のうちはさ、ヨシヒコが好きなのは私だけだったのよね。その時は、ヨシヒコの魅力はまだ表に出ていなかったわ。私だけが気づいていたのよ。それが六年になって、ヨシヒコがいい成績をとるようになってから、みんなの関心がヨシヒコに向くようになったのよね。特に三学期、増えたわね。
でも、最初にヨシヒコに気づいたのは私よ、って自負があったわ」
また副音声が聞こえてきた。
(私、知っているんだ。バレンタインの日、義理チョコだって渡した中のいくつかは本命チョコだったのを。でもね、本命って言えなかったみたい。私が”私の本命よ”って、公表してきた人を、”私も本命なの”なんて言える子、このクラスにいる?)
え~? そうなの? 本命チョコもあったの? それなのにぼくったら、どれを誰から貰ったかも覚えてなかったなんて……。
結局、お返しのクッキーは、給食の時間、物も言わずに机に配った。貰った人の中には給食の一部と思っていた人もいたみたいだ。でも、袋を開けたら、ぼくからのお返しというカードが入っていたんだけどね。それはママの配慮で、ま、ぼくが書かされたんだけど。
八木沢由美子の表の声が告げる。
「でも、卒業でいったん中断ね。私はそばにいることが出来ないから、誰かにとられるかもしれないなって思ってます。ここんとこ、かっこ笑いね。
でも、いつ会えるか分からないけれど、また、会いたいな。
それは、本当にいつになるかわからないけれど、私はきっと、いい女になってみせるわ。子供の時の顔は生まれつきだけど、生き方次第で顔は変わるって、お母さんが言っていたわ。
私は、あと何年かしたら、人が私の友達になりたいと思うような女になってみせる。そしたら、また会いたいな。その時、ヨシヒコに付き合っている彼女がいたとしてもよ、その人をぶっとばせるぐらい”いい女”になってみせる。
今日は、私がそんなことを言っていたと、そんな思い出を、ヨシヒコに持って帰って欲しいんだ。これでおしまいよ」
本当にそれでおしまいだった。
今度は副音声も聞こえなかった。
八木沢由美子は「思い」を出し切ったんだ。
先生が、卒業式が始まるから、廊下に出て列を作るように、と言いに来た。
女の子たちは互いの制服を見せ合うことで、今まであまり友達付き合いしてこなかった子とも親し気に話をしていた。
ぼくはママに市販のブレザーとズボンを買ってもらった。ヤッチも自分のママから買ってもらっていた。
「うちは弟がいるから何回も着るんだ。そういった意味ではきょうだいが多いのは経済的だな」とヤッチは言った。
マサルも私服だった。
「落ちたの?」ってみんなに聞かれていた。
「うるさい! 卒業式後に発表がある学校を受けたからまだ買ってないんだ!」
マサルは強がっていたが、深く傷ついているのが感じられた。多分、おばさんからも散々お小言を頂戴したろう。
自由時間でクラスにいる間、居心地悪そうにしていた。
制服組の男の子たちは「本命落ちたな。だって本命は2月3日の発表だからな。あそこは記念受験で受験する奴も多いしな。」と陰で噂をしていた。
八木沢由美子が向こうからやってきた。八木沢由美子は難関の有名女子校の制服を着ていた。八木沢由美子はがんばったんだ、と思いながら見ていた。
そしたら八木沢由美子はぼくの前でピタっと止まった。
「今日でおわかれね」
由美子は感無量という感じですこし言葉を切った。それから、
「ヨシヒコは男女共学の竹中(公立・竹林中学)に行くのよね。私の中学は女子校なの。多分、高校までずっとこの学校行くと思うわ」と言い、再び言葉を切った。
副音声が聞こえてきた。
(だから、私には当分彼氏はできないわ。ヨシヒコはできるかもね。高校生くらいになったらね、彼女が出来るかも)
「私ね」と八木沢由美子は続けた。
「私、自分が、美人ではないっていうのわかっているの。ヨシヒコが迷惑していたっていうのも知ってるの。
でも、密かに思っているだけとか、遠慮するとかって、私らしくないと思ったのよ」
おいおい、なんか人が集まってきたぞ。中学の制服を着て、デモンストレーションしていた女子達がやってきたじゃないか。明日香ちゃんもその中に入っている。明日香ちゃんはママもそこの卒業生だというお嬢様学校に入ったという噂だ。
人が集まってきたから話すのやめるかな? と思ったが、八木沢由美子は、その女子の集団をちらっと見ただけで話を続けた。
「最初にバレンタインのチョコを持ってヨシヒコの家に行った時は、本当はドキドキだったのよ。でも、お母様や、おばさまから、とっても優しくして頂いたの。それで、私の”好き”は間違ってはいないって確信したのよ。豊かな愛情の中で育った子は大物になるって」
副音声が付いてきた。
(私のお母さんがそういうことを私に教えてくれるのよね。犬の中でも人の役にたつ盲導犬は、子供の時、愛情たっぷりの中で育つってね)
え~?、ぼくって盲導犬扱い?
それよりギャラリーが増えて来たぞ。
いいの? こんな人が見てる中でこういう話ってさ。本当は物陰に呼んで話す話じゃないのか?
しかし、八木沢由美子は人が見ようが笑おうが、臆せず、屈せず、我が道を行くタイプだった。
「最初のうちはさ、ヨシヒコが好きなのは私だけだったのよね。その時は、ヨシヒコの魅力はまだ表に出ていなかったわ。私だけが気づいていたのよ。それが六年になって、ヨシヒコがいい成績をとるようになってから、みんなの関心がヨシヒコに向くようになったのよね。特に三学期、増えたわね。
でも、最初にヨシヒコに気づいたのは私よ、って自負があったわ」
また副音声が聞こえてきた。
(私、知っているんだ。バレンタインの日、義理チョコだって渡した中のいくつかは本命チョコだったのを。でもね、本命って言えなかったみたい。私が”私の本命よ”って、公表してきた人を、”私も本命なの”なんて言える子、このクラスにいる?)
え~? そうなの? 本命チョコもあったの? それなのにぼくったら、どれを誰から貰ったかも覚えてなかったなんて……。
結局、お返しのクッキーは、給食の時間、物も言わずに机に配った。貰った人の中には給食の一部と思っていた人もいたみたいだ。でも、袋を開けたら、ぼくからのお返しというカードが入っていたんだけどね。それはママの配慮で、ま、ぼくが書かされたんだけど。
八木沢由美子の表の声が告げる。
「でも、卒業でいったん中断ね。私はそばにいることが出来ないから、誰かにとられるかもしれないなって思ってます。ここんとこ、かっこ笑いね。
でも、いつ会えるか分からないけれど、また、会いたいな。
それは、本当にいつになるかわからないけれど、私はきっと、いい女になってみせるわ。子供の時の顔は生まれつきだけど、生き方次第で顔は変わるって、お母さんが言っていたわ。
私は、あと何年かしたら、人が私の友達になりたいと思うような女になってみせる。そしたら、また会いたいな。その時、ヨシヒコに付き合っている彼女がいたとしてもよ、その人をぶっとばせるぐらい”いい女”になってみせる。
今日は、私がそんなことを言っていたと、そんな思い出を、ヨシヒコに持って帰って欲しいんだ。これでおしまいよ」
本当にそれでおしまいだった。
今度は副音声も聞こえなかった。
八木沢由美子は「思い」を出し切ったんだ。
先生が、卒業式が始まるから、廊下に出て列を作るように、と言いに来た。
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