──の花束は落ちていく 〜『あなた次第』IF〜

君影 ルナ

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四月

9

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 じゃあまた寮でねー、と桃さんは有り得ない程の速さで廊下を走っていった。

 ……す、すごいね。もう人影は見えない。土埃しか見えないや。もしかして桃さんは陸上部とかなのかな。まあ、細かいことはいいか。

 ふっと一息つき、私もゆっくりと歩き出す。ぽてぽてと廊下を進み、玄関まで来た。

 その間中ずっと頭の中で考えていたのは桃さんと酸漿さんのこと。

 今まで冷たい目でしか見られたことがなかったから、逆に友好的だとどうしていいか分からないのだ。ある意味一番怖いかもしれない。

 次話しかけられたらどうすればいいかな。愛想笑いも慣れていないから辛いし……。

「はあ……」

 ぐるぐる考えてもいい方法は見つからなかった。答えがきちんとある勉強と違って、人間関係って答えはあるのかな。人との関わりを絶ってきた私には難しい問題だ。

 仕方ない。なるべく避ける、という根本的な解決にはならない方法を取ることにしよう。きっとその間に愛想尽かして離れていくさ。それでいい。

……それで、いい。




四月××日

酸漿さんと桃さんは何故他の人のように私を避けないのだろう。よく分からない。その友好的な笑顔の裏に何かがあるのではと勘ぐってしまう。私の考えすぎなのかな……。





















 気分を切り替えて学内を散策する。テキトーに歩いて景色を見て回ると、学園の敷地内なのに自然豊かだということがよく分かった。

 ちなみに今は坂を登っているのだが、少し息が上がっている。つくづく体力のなさを感じるなあ、と思いながらも足は動かし続ける。

「わあ……!」

 坂を登りきった先にあったのは一本の木。枝先が今少しピンク色になっているところを見ると、もしかしたらこの木は桜かもしれない。

 もう少しで満開になりそうだ。ならば満開になった時にまた来ればお花見出来るかも。それは楽しみだ。

 そこまで考えて、ふっと顔の筋肉が和らいだのが自分でも分かった。





















 あの桜の木を見つけてから数日経った。そろそろ寝不足でふらっといきそうかな……、とあたりをつけながら勉強暇つぶしをする。ただ今夜中の三時。

 ふっと集中が切れたついでにお風呂入ってそれから……


 あ、お花見しよう。桜の木を見つけた日はまだ咲いていなかったけれども、ここ何日間かずっと暖かいからもしかしたら咲いているかもしれない。

 日付が変わって今日は土曜日だし、一日中桜を見ていよう。よし、決めた。

 楽しみだ、と口角を上げながら外出用の服を持って洗面所へと向かう。
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