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四月
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放課後になり、学内を散策しに行こうと教室を出ようとしたその時、
「あ! いた!」
耳の端が大声を捉えた。まあ、すぐにスルーしたけど。よくあんなに大きな声が出るな、と感心さえ覚えた。
さて、散策散策……
教室の出口に向かった私はしかしすぐ立ち止まることになる。
「ねえねえ! 無視しないでよ!」
大声の持ち主が私の行く先を塞いだからだ。茶髪に赤い目をした男子生徒。パーカーも赤色なところを見ると、きっと赤色が好きで好きで仕方ないのだろう。まあ、私には関係ない。
「りんどうくんの後ろに座ってたでしょ?」
「……その方は誰でしょう。」
「え、もしかして自己紹介すらしてないの? ほら、さっきまで転入生さんが座っていた席の前の席の山吹 竜胆くん。」
「はあ……」
そんな名前だったんだ。まあ、関わり合いにはならなそうだからすぐ忘れそうだけど。
「まあ、りんどうくんのことはいいや! 僕はね、雪柳 桃! 同じ音霧寮の寮生だよ!」
「そうでしたか。花蘇芳 藍です。」
そういえば寮の人間はあと一人いると酸漿さんが言ってたっけ。随分元気がいい人だな。それに私のことを冷たい目で見ない貴重な人物なのか。そのことに純粋に驚いた。
「じゃああいさんって呼ぶね! 僕のことは是非名前で呼んで!」
「は、はあ……。」
キラッキラの笑顔を私なんかに向けてくる。まるで何かを待っているかのようだけど……?
「僕の名前、呼んでくれないの?」
「……今? 用もないのに?」
「うん!」
……これはさっさと要求に応えた方がすぐに解放してくれるかな。
「……桃、さん。」
「うん! あ、そうだあいさん。これから暇?」
「え……ええと……?」
「これから暇なら僕とお喋りしない?」
「え……」
ニッコニコと笑顔を振りまく桃さん。まるで断られるとは微塵も思っていないような。
しかしこれから私は散策に行く気でいた。それも一人で。だから断らないと……
「ひ、ひ、ひ……」
「ひ?」
「……暇じゃないです。」
なんだろう、無いはずの良心が痛む。嘘は言っていないのに。気のせいかな。うん、きっとそうだ。そうに違いない。
「そっかー。じゃあまた次の機会にお喋りしよ?」
「……わ、分かりました。」
次、があるのかは分からないが、取り敢えず躱せた。そのことに内心ホッとしたのだった。
「あ! いた!」
耳の端が大声を捉えた。まあ、すぐにスルーしたけど。よくあんなに大きな声が出るな、と感心さえ覚えた。
さて、散策散策……
教室の出口に向かった私はしかしすぐ立ち止まることになる。
「ねえねえ! 無視しないでよ!」
大声の持ち主が私の行く先を塞いだからだ。茶髪に赤い目をした男子生徒。パーカーも赤色なところを見ると、きっと赤色が好きで好きで仕方ないのだろう。まあ、私には関係ない。
「りんどうくんの後ろに座ってたでしょ?」
「……その方は誰でしょう。」
「え、もしかして自己紹介すらしてないの? ほら、さっきまで転入生さんが座っていた席の前の席の山吹 竜胆くん。」
「はあ……」
そんな名前だったんだ。まあ、関わり合いにはならなそうだからすぐ忘れそうだけど。
「まあ、りんどうくんのことはいいや! 僕はね、雪柳 桃! 同じ音霧寮の寮生だよ!」
「そうでしたか。花蘇芳 藍です。」
そういえば寮の人間はあと一人いると酸漿さんが言ってたっけ。随分元気がいい人だな。それに私のことを冷たい目で見ない貴重な人物なのか。そのことに純粋に驚いた。
「じゃああいさんって呼ぶね! 僕のことは是非名前で呼んで!」
「は、はあ……。」
キラッキラの笑顔を私なんかに向けてくる。まるで何かを待っているかのようだけど……?
「僕の名前、呼んでくれないの?」
「……今? 用もないのに?」
「うん!」
……これはさっさと要求に応えた方がすぐに解放してくれるかな。
「……桃、さん。」
「うん! あ、そうだあいさん。これから暇?」
「え……ええと……?」
「これから暇なら僕とお喋りしない?」
「え……」
ニッコニコと笑顔を振りまく桃さん。まるで断られるとは微塵も思っていないような。
しかしこれから私は散策に行く気でいた。それも一人で。だから断らないと……
「ひ、ひ、ひ……」
「ひ?」
「……暇じゃないです。」
なんだろう、無いはずの良心が痛む。嘘は言っていないのに。気のせいかな。うん、きっとそうだ。そうに違いない。
「そっかー。じゃあまた次の機会にお喋りしよ?」
「……わ、分かりました。」
次、があるのかは分からないが、取り敢えず躱せた。そのことに内心ホッとしたのだった。
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