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8 雨宮 さら
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自嘲した笑みを浮かべるさら。
「三年生って、進路を決めるでしょ? 大学に進む人もいれば、就職する人もいる。るかも今考えてる途中でしょ?」
「うん……まあ、何となくね。」
「私の親は、ちゃんと大学に行って、ちゃんと安定した職につくべきだって私に言い続けていたんだ。それが一番幸せなんだからそうしろって。もはやあれは洗脳に近かったレベルだったよ。でも……」
さらは顔を下げて目線を下げる。そのことでふっとさらの顔に影が差す。
「でも?」
「私の心は違かった。……私ね、画家になりたかったの。雨の絵を描きたかった。」
「……。」
「もちろん両親には猛反対されたよ。芸術で食っていけるのは一握りなんだからって。でもそんなこと、本人が一番分かってる。それでも挑戦したかった。それなのに……」
さらはそこで言葉を切り、一度深呼吸した。自分の心を落ち着けるためなのだろうことは分かった。
「私美術部だったんだけど、その部活で描いた絵がコンテストで入賞してね。その絵を……雨の絵を、父親が私の目の前でビリビリに破いて、ね。お前なんかに出来るはずがないんだからいい加減目を覚ませ、って言われた。
そこで私の心はパリンと音を立てて砕け散った。そして……そんなことがあった次の日、この教室にいた時にふっと窓の外を見ると私の大好きな雨が降ってきて。鬱屈した気分を変えようと窓を開けて雨に手を伸ばしたら、そのまま落ちちゃって。で、死んだ。」
「……。」
そこでまた一旦言葉を切って、ふっと顔を上げるさら。その顔には笑みが浮かんでいた。
「死んだのは本当うっかりだったよ。死ぬ気は無かった。でも、死人に口なしって言うでしょ? だから父親には自分のせいで自殺したんだって勝手に懺悔してもらってたらいいなって思ってる。……性格悪いでしょ?」
「……。」
「ま、そんな感じ。あー、人に話したらスッキリした。聞いてくれてありがとうね。」
そう言ってさらはグッと腕を上げて背を伸ばすストレッチをする。この場を明るくしようと頑張っているのだろうが、どう見ても空元気であると僕にも分かった。
自分の死を受け入れることは、そんなに簡単ではないのではないかと推測出来る。誰だって死ぬのは怖いし、もっと生きていたいだろう。特に若くして死んだのなら尚更。
そこまで考えたところで、僕の体は無意識のうちに動いていた。
「え!?」
さらの驚く声が目と鼻の先で聞こえた。僕の腕でさらを囲ったからだ。
実際はさらに触れることは叶わないが、それでも抱きしめたかった。ああ、もし触れられるのならもっと強く抱きしめていただろうに。
「話してくれてありがとう。でも、無理して笑わなくてもいい。」
「っ……る、か……」
泣くのを我慢しながらも僕の名前を呼んでくれる。そのことに嬉しさを感じた。僕は更に言葉を繋げる。
「僕の前では偽らなくていいよ。まだ出会って間もないから信用も何も無いかもしれないけど。」
「そん、な……」
「さっき自分の話をしてスッキリしたんでしょ? だったら今更取り繕ったりしないで最後まで全部ぶちまけちゃえ。ほら、さらは今、どう思ってるの?」
そう聞くと、さらはぽつりと小さな声で呟いた。
「っ……たかった……」
「うん?」
バッと顔を上げて僕と目線を合わせるさら。その目には涙が浮かんでいた。
「もっと生きたかった!」
「三年生って、進路を決めるでしょ? 大学に進む人もいれば、就職する人もいる。るかも今考えてる途中でしょ?」
「うん……まあ、何となくね。」
「私の親は、ちゃんと大学に行って、ちゃんと安定した職につくべきだって私に言い続けていたんだ。それが一番幸せなんだからそうしろって。もはやあれは洗脳に近かったレベルだったよ。でも……」
さらは顔を下げて目線を下げる。そのことでふっとさらの顔に影が差す。
「でも?」
「私の心は違かった。……私ね、画家になりたかったの。雨の絵を描きたかった。」
「……。」
「もちろん両親には猛反対されたよ。芸術で食っていけるのは一握りなんだからって。でもそんなこと、本人が一番分かってる。それでも挑戦したかった。それなのに……」
さらはそこで言葉を切り、一度深呼吸した。自分の心を落ち着けるためなのだろうことは分かった。
「私美術部だったんだけど、その部活で描いた絵がコンテストで入賞してね。その絵を……雨の絵を、父親が私の目の前でビリビリに破いて、ね。お前なんかに出来るはずがないんだからいい加減目を覚ませ、って言われた。
そこで私の心はパリンと音を立てて砕け散った。そして……そんなことがあった次の日、この教室にいた時にふっと窓の外を見ると私の大好きな雨が降ってきて。鬱屈した気分を変えようと窓を開けて雨に手を伸ばしたら、そのまま落ちちゃって。で、死んだ。」
「……。」
そこでまた一旦言葉を切って、ふっと顔を上げるさら。その顔には笑みが浮かんでいた。
「死んだのは本当うっかりだったよ。死ぬ気は無かった。でも、死人に口なしって言うでしょ? だから父親には自分のせいで自殺したんだって勝手に懺悔してもらってたらいいなって思ってる。……性格悪いでしょ?」
「……。」
「ま、そんな感じ。あー、人に話したらスッキリした。聞いてくれてありがとうね。」
そう言ってさらはグッと腕を上げて背を伸ばすストレッチをする。この場を明るくしようと頑張っているのだろうが、どう見ても空元気であると僕にも分かった。
自分の死を受け入れることは、そんなに簡単ではないのではないかと推測出来る。誰だって死ぬのは怖いし、もっと生きていたいだろう。特に若くして死んだのなら尚更。
そこまで考えたところで、僕の体は無意識のうちに動いていた。
「え!?」
さらの驚く声が目と鼻の先で聞こえた。僕の腕でさらを囲ったからだ。
実際はさらに触れることは叶わないが、それでも抱きしめたかった。ああ、もし触れられるのならもっと強く抱きしめていただろうに。
「話してくれてありがとう。でも、無理して笑わなくてもいい。」
「っ……る、か……」
泣くのを我慢しながらも僕の名前を呼んでくれる。そのことに嬉しさを感じた。僕は更に言葉を繋げる。
「僕の前では偽らなくていいよ。まだ出会って間もないから信用も何も無いかもしれないけど。」
「そん、な……」
「さっき自分の話をしてスッキリしたんでしょ? だったら今更取り繕ったりしないで最後まで全部ぶちまけちゃえ。ほら、さらは今、どう思ってるの?」
そう聞くと、さらはぽつりと小さな声で呟いた。
「っ……たかった……」
「うん?」
バッと顔を上げて僕と目線を合わせるさら。その目には涙が浮かんでいた。
「もっと生きたかった!」
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