××の十二星座

君影 ルナ

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一章

六 サジタリアス

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 自分は未だに信じられずにいる。こんなひょろっこいナヨナヨしたやつが魔法を使えるだと? それも無意識に?

 自分は魔法を操れるようになるまであんなに努力したというのに。わざわざ魔法が使えるのかと聞いたのも、少し嫉妬が入り混じっているとも言えるが、それでも……。

「マロンさん、もう一度気配を探るやつ、やってみせてくださいな。」
「分かった。」

 パイシーズに言われてマロンはフーッと息を吐いた。するとふわりと風を感じた。

 ……ああ、本当だ。こいつは魔法を使える。悔しいが本物だ。これが全属性使えるとなれば、ポラリス候補にもなり得るだろう。

 そう感心したのも僅かな時間だった。マロンは急に棚の上に置いてあったペーパーナイフを掴み、俺の肩を踏み台にして天井にナイフを突き刺した。

「ぐわぁぁ!」

 そんな断末魔と共に自分に血が降り注ぐ。マロンはすぐ自分から退いたが、自分はまだ血を浴びてしまっていた。不快感でサッとその場からその後すぐ自分も退いたが。

 ナイフを刺した部分からは未だにぼたぼたと血が降り注ぐ。このままにしておけば天井裏の人間は失血死するだろう。

 多分、天井にいたのは自分ら十二星座を狙った者だろう。目の色と着るものを変えたとしても狙われるものは狙われるからな。十二星座になったが故の弊害、と言えばいいか。

「あ、聞くの忘れてたけど、天井にいたのは知り合いだった?」
「いや。違うけど……」
「ふーん、そっか。」

 それにしてもこのマロンとか言う男の身のこなし……何者だ? 運動神経が良い、で片付けて良いのだろうか?

「取り敢えず一人だけみたいだから良かったね。」

 しかしこいつが何者かは分からんが、助けられたのもまた事実。礼はするべきだろうと踏んで、自分はたどたどしくも礼を述べる。くっ、言い慣れない言葉はなかなか口から出てこないらしい。

「……助かっ、た。あ、あり……あり、がと……う……」
「じ、ジーが他人に感謝するなんて……明日は吹雪かもね?」
「リコ五月蝿い。」

 感謝をした自分を見て笑うカプリコーンをジロリと睨む。確かに自分は他人に礼をするような人間ではないかもしれないが、常識は持っているはずだ。それに則ったまで。それ以上でもそれ以下でもない。

「ま、まあ、二人とも落ち着いてください。話が進みませんから。」
「……ああ。」
「悪かったね、シーズ。話の続きをどうぞ。」
「ああ、はい。それでですね。マロンさんには小生らについて来ていただきたいのですが、ご両親の承諾を得たいと思いまして。マロンさん、どうですか?」

 それもそうだな。こいつは自分らと同年くらいだろうが、まだ庇護下に置かれた子供だろう。そう思っての発言だったが。




「……両親はもういない。私が……私が、殺した。」

 その時のマロンの表情は、歪な笑顔だった。
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