××の十二星座

君影 ルナ

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一章

十六 アクエリアス

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 美味しそうにクロワッサンを食べるマロンを眺めながら取る朝食は、こちらの心まで満たされたような気がしたわ。微笑ましい、とかいうものかしら?

 そんなことを考えながら朝食を済ませ、その後は一旦それぞれの部屋に戻ることにした。それ以降は各々好きにするみたいね。パイシーズは昼寝、サジタリアスは筋トレ、カプリコーンはナンパ、らしい。ここでも個性が爆発しているわね。

 あたくしは部屋にこもって薬作りしかないわね。マロンと出会った日に森で採取した薬草分くらいは作っておかないと、あとあと大変になるのは目に見えているからね。

 部屋に戻るまでの間、どの薬から作るか色々思考を巡らせていると、少し大きな声で誰かが会話していたらしい。声がこちらまで聞こえてきた。

「そういえばよ、ここの領主様は今『赤目の少女』を血眼で探しているって噂を聞いたんだが。」
「へぇ、そんなに大切なお人なのかね、領主様にとって。もしかして喧嘩でもして家出か?」
「さあ……なんとも。ただ、その人が領主様の関係者だとしたら探し人はそれこそ裕福層のお人だろうし、それなら家出としてもそんなに遠くへは行けまい。島国を探しきるのも時間の問題だよな。」
「成る程なぁ……」
「それに赤目なんて珍しいからすぐ見つかるよな。」
「だな。」

 ふーん、興味無い話ね。だいたい、この島国の領主はなかなかの中年男だったはずよ。それが少女を探していると噂されちゃうなんて。娘だと言われれば分かるけど、そうじゃないのならやれロリコンだなんだと騒がれるのが関の山。そこまで予測を立てられない程切羽詰まっているのかしら?

 まあ、あたくしには関係ないわね。領主の仕事をしっかりこなしてくれるのなら。仕事をせずにその少女にうつつを抜かしているようなら厳重注意もあるかもしれないけれども。

 まだ誰かの会話は続いていたが、あたくしはとにかく部屋に戻って薬を作らなければ。ノルマを達成したらスパにでも行こうかしらね。

 そう決めてパタンと部屋の扉を閉める。





「ふー……」

 ノルマ分の治癒薬を作り終え、ご褒美のスパにも行ってきた。日頃の疲れも取れて良かったわ。船に乗っている間は仕事のことを一旦忘れて存分に楽しまなきゃ損よね。

 そんなるんるん気分で部屋のバルコニーに出てみた。夜風に当たりたくてね。あ、今日は満月なのね。とても綺麗だわ。夜なのに月の光で辺り一面ほんのり明るい。

 そんな中、人の気配を感じたあたくしはその方、左を見る。すると……




 マロンが目を開けて月を眺めていた。横顔しか見えないけれども、月の光がマロンの綺麗な青目に反射していてとても神秘的だったわ。
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