××の十二星座

君影 ルナ

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一章

五十七

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 借りた一角に到着した私達。サジタリアスは少し離れた所で仁王立ちする。多分外から見て指導していくのだろう。

 軽い準備体操を終わらせた私は一息ついてキャンサーと向かい合った。その瞬間それぞれが武器を取り出す。これがまた手品みたいな感覚で、傍から見れば何もない所から取り出したように見えるだろう。私も最初そう思ったもの。

 一番最初に覚えたそれを使って私も双剣を取り出す。キャンサーはその背丈の半分程の大きさの……ハサミ (のようなもの)を取り出した。

 いやハサミだとしたらデカすぎない? え、ちょ、それを振り回すつもり? え、え、え……

「さぁて、マロンはどれくらいの力量カナ?」

 まだ私がキャンサーの武器を見て困惑している間に、キャンサーはこちらに突っ走ってきた。もちろん、ハサミを振り上げながら。さらに言えば殺気も込めながら。

 そのハサミはそのまま物理的に叩く用なのか、挟んでジョキンと切る用なのか……ちょっと見極めなきゃかな。

 私も双剣を構え、振り下ろされてきたハサミを振り払う。くっ、一撃がなかなか重い。躱すのもなかなか苦労しそうだし、どう対応すれば……

 ガキンッ……ガッ……

 無い頭をフル回転させ、キャンサーの攻撃に対応させる。ふむふむ、ハサミを打撃としても使い、更に隙を見てハサミを開けて首をちょん切ろうとするスタイルらしい。私はなんとか剣を使ったり後ろに下がりながらギリギリで躱し続ける。

 ガッ……キィンッ……

「マロン、防いでばかりじゃあ終わらないよ?」
「くっ……」

 さすがは十二星座と崇められるだけはある。私が本当ギリギリで躱し続けているのに対し、キャンサーの表情は余裕そう。

 確かにこの状態が長引けば長引く程、基礎体力のない私が今以上に不利になる。

 さて、どうしようか……






サジタリアスside

 マロンはなかなか筋がいい。確かにまだまだ改善の余地はあるが、まあ、十二星座三人を一発で仕留めた力量はある。

 周りにいる騎士見習い達もマロン達の戦い振りを見て感嘆の声を上げている程だからな。『あのちんちくりんはキャンサー様と戦って瞬殺されない、だと!?』というような感じで。

 しかしまだ十二星座と正面切って戦うとなると、自分ら十二星座に軍配が上がる。三人を一発で仕留めた時は不意打ちだったから出来たということもあるだろう──むしろ不意打ちだとしても十二星座が一発KOされてしまったことの方が問題だ──。

「あら、マロンはキャンサーと実戦的な勝負かしら?」
「まあな。」

 いつの間にかスコーピオが隣にいた。まあ、近付いてくる気配は察知していたので驚くこともないが。

「あー、マロンは防戦一方ね。」
「ああ。」

 マロンはジリジリと後ろに下がりながら、剣を使ってキャンサーの攻撃をいなしているようだった。ああ、そのままだと多分……

 ガキンッ……

 マロンの背が鍛錬場の端にある壁に付いたその瞬間を逃さないように、キャンサーは左右に開けた刃を壁に突き刺す。もちろん、マロンの首を挟んで。

 マロンの背後には壁、左右と前にはキャンサーの鋏──それも首の辺りにあるから抜け出すことも難しい──。マロンはそんな状況で一歩も動けないでいた。
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