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2章 音霧寮は……
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「おお……ここが学食……!」
ざわざわと人の声で溢れている学食は想像以上に広かった。そしてそこに今辿り着いた私達。周りからの視線を感じるが、きっと教室と同じような類のものだろうと気にしないように努めることにする。
「福寿さん大丈夫ですか?」
「……も、問題ない。」
顔青いけど本当に大丈夫だろうか。早く食べるものを決めてここから出た方がよさそう。
「藍ちゃんは何食べるー?」
「そ、そうですね……」
野菜ジュースがいいです、って言ったら怒られそうだが、固形物は入るとは思えない。駄目元で言ってみよう。
「野菜ジュースがいいです。」
「却下。」
ええ、普通のジュースではなくてちゃんと『野菜』ジュースだから栄養は取れるでしょう?
「食べきれなければ代わりに食べてくれる人はここに二人もいますから、食べられそうなものを選んでください。」
「食べられそうなもの……」
メニュー表を見てみるが、どこにも野菜ジュースの文字はなく。……仕方ないね。
「じゃあヨーグルトで。」
フルーツヨーグルトの文字は見つけたのでそれを選ぶ。食べられそうなものを、と言われたので文句はないでしょう。ヨーグルトって食べ物だよね?
「ヨーグルト……」
何故皆さんがっくりと項垂れているんだろう。
「……嫌いなもんはねえか?」
「特にはありませんが……」
柊木さんの質問の意図が分からないまま素直に答えてしまったが……
「分かった。」
面倒くさそうに発券機の元へと一人で向かう柊木さん。……どういうことだろう?
「ではどこか空いている席に座って待ちましょう。」
「どこか空いてないかなあ。」
キョロキョロと周りを見回す藤さんと桃さん。
「あ、あのっ! もうすぐ食べ終わりますのでここどうぞ!」
「ここもどうぞ!」
「いいの? ありがとうねえ。ほら皆ここ空いたよー。ちょうど六個空いたし座ろー。」
……ん? 今何があったのかな。見知らぬ生徒達が顔を真っ青にして席を譲ったように見えたけど……? 真っ青ってことは具合悪いのかな。大丈夫だろうか。
そして皆さん何事もなかったようにそこに座る。
「……あの方々は大丈夫でしょうか。顔が真っ青でした。」
「大丈夫大丈夫。多分俺達から離れれば元に戻るって。」
「ここの生徒の半分くらいはあんな感じですので心配しなくてもいいですよ。」
藤さんと山吹さんの言っている意味が分からない。思わず眉間に皺が寄る。
「どういうことですか?」
取り敢えず私一人だけ立ったままもあれなので空いた席に座って話を続ける。
「ええと、簡単に言えば私達音霧寮の人間は怖がられてる、と言えば分かりやすいでしょうか。」
やっぱりそうなのね。周りの人の喋り声を聞いているとそうなのかと予想はしていた。でも昨日今日音霧の皆さんと話したけど、どこも怖くなかったよ?
「っていうか今の音霧寮が怖がられてるのってほぼほぼ桃のせいじゃない? あの馬鹿力で色んなもの壊すんだもん。」
「えー、僕? 僕よりもつばっちじゃない? いつも無言でむっとしてるし!」
なんか責任の押し付け合いが始まった。これはどうすれば?
「……俺、は……」
ああほら福寿さんが対抗して何か言おうとしているけど周りにいる人の多さに何も喋れなくなっているじゃない!
「福寿さんは怖くないですよ。大丈夫です。というか何故皆さんが怖がられてるのか私は理解しかねます。」
『私』の本当の姿を知らないからと言われればそれまでかもしれないが、皆さんはとても優しい人だと思う。私が今まで出会った人の中でマスターの次に優しいと思う。あ、マスターが一番ね。
「俺達のことを怖がらないとか珍しい人種もいるもんだ。」
柊木さんが戻ってきた。その手にはオムライス。……柊木さんがオムライス持ってるとか似合わなくて笑いそう。失礼かな?
「ほら、オムライス食え。」
カタンと私の目の前に置かれたそれ。……目の前?
「わ、私の……?」
「そうだが何か?」
「お腹いっぱいで入んないです。」
「大丈夫だ。食べきれなければ桃と藤が食べる。あいつらの胃袋はブラックホールだから。」
「大丈夫だよ。二人前とか普通に食べれるから。」
自分のお弁当を開けながらそう言う藤さん。
「藤もこう言ってますし、無理しない範囲でいいですからちゃんと三食食べましょう。」
「……分かりました。食べます。」
オムライスは好物だし、わざわざ持ってきて頂いたので食べないと。
でも何故柊木さんは数あるメニューからオムライスを頼んだんだろう。偶然かな?
柊木さんも席に座ったところで皆さんもお弁当を食べ始めた。
「いただきます。」
まず食べれる分は食べないと。スプーンに掬った一口分のオムライス。それを口に入れて……
「お、美味しい……!」
口に入れた瞬間にふわとろな卵が広がり、デミグラスソースとよく合うね。ご飯と卵のハーモニーがもう、もう……とにかく美味しい!
「藍ちゃん、目がキラキラしてるね。オムライス好きなのかな?」
「オムライス美味しいよね!」
「茜、また見たんですか?」
「ああ。目ぇキラキラさせたのが見えたからこれにした。」
「それにして正解でしたね。これなら幾分かは食べられると思います。」
「ああ。」
結局四分の一程食べて後は残してしまった。残った分は藤さんと桃さんに食べてもらうことに。本当にありがたいです。残すのは勿体ないと思っていたから……。
「食べていただいてありがとうございました。」
「いいのいいのー。ここのオムライスは初めて食べたけど、なかなか美味しかったね。」
「うん! 僕今度お弁当じゃなくてオムライス頼もうかな!」
そんな風にほのぼのとした空気の中、午後の授業に出るために教室へ向かう。
「じゃあまた放課後ね!」
大きく手を振って階段を降りていく一年生組。そういえば福寿さん顔青かったけど大丈夫だろうか。と考えたが時すでに遅し。福寿さんも桃さんに続いて階段を降りていった後だった。
「あれ、次の授業ってなんだっけ。」
「確か古典だった気がします。」
眠気を誘う教科だね。まあ、私は人前では眠れないからずっとうとうとするだけに留まるだろうけど。
「はは、A組ドンマイ(笑)。俺のクラスは音楽だ。ダルいが歌ったりなんだりするから居眠りして怒られることはない。」
ケケケと勝ち誇った笑みを浮かべる柊木さん。そうだ、柊木さんは別のクラスだったっけ。
「あれ、柊木さんは何組なんですか?」
「あ? 俺は隣のB組だ。」
「隣だったんですね。」
「ああ。俺は平凡なやつだからな。」
「平凡……?」
その時タイミング悪くゴーンゴーンと昼休みが終わったことを知らせる鐘が鳴る。
「じゃあな。また放課後に。」
ひらひらと手を振って隣の教室に戻っていった柊木さん。
「さ、私達も戻りましょう。そろそろ授業が始まります。」
「だね。」
「ですね。」
平凡だと言った時の柊木さんはどこか遠くを見ていたような気がする。
『俺は平凡なやつだからな。』
あれは私に向けて言った言葉ではない気がする。あれは、あれは……
まるで、自分に言い聞かせるようだった。
しかし平凡だと自分に言い聞かせる理由が全く分からない。というか平凡の何が悪いのだろう。いいじゃない、平凡。私の憧れだよ。むしろどうすれば平凡になるのか知りたいくらい。
私は異端な存在だからね。エートスだし、髪も白いし、目も灰色だし。私には平凡と呼ぶべき箇所が見当たらない。
……あ、運動能力は平凡かもしれない。いや、運動能力は無さすぎて逆に平凡じゃないかも。力とかも弱いし。重い物を持つ時はだいたい能力使って少し浮かせて運んでいるから、一向に筋力がつかないのだろう。
授業中ずっとぐるぐると考えていて授業を聞いていなかった。さらっとは聞いたけどついていけなくなりそうとは思わなかったので大丈夫だろう。
さて、後はもう帰るだけ。眠いから寮に戻って昼寝でもしようと思う。その方が後々効率よく勉強出来そうだ。
ぐっすりとは眠れないだろうけど、気休め程度にはなるかな。
「花蘇芳さん眠そうですね。大丈夫ですか?」
「大丈夫です。」
本当この体質嫌になる。
私は普段寝不足で、一週間に一遍倒れるように眠る。一週間と言ってもその時によりけりで、一回倒れた三日後にまた倒れることもあれば、一週間を過ぎても倒れない時もある。平均して一週間と見ているのだが、それでなんとか今も動いている。正直言って辛い。次はいつ倒れるのだろうかと怯えていなければならないし。
「そうですか。……では帰りましょうか。」
「はい……」
柊木さんがA組に来て、四人で階段を下りる。
階段を下りた先に桃さんと福寿さんが待っていた。
「帰ろ!」
桃さんの元気を分けて欲しい。刻一刻と元気が無くなる私は切実に思う。この様子だと四、五日後くらいに倒れるかなあ、と他人事のように予測する。
ざわざわと人の声で溢れている学食は想像以上に広かった。そしてそこに今辿り着いた私達。周りからの視線を感じるが、きっと教室と同じような類のものだろうと気にしないように努めることにする。
「福寿さん大丈夫ですか?」
「……も、問題ない。」
顔青いけど本当に大丈夫だろうか。早く食べるものを決めてここから出た方がよさそう。
「藍ちゃんは何食べるー?」
「そ、そうですね……」
野菜ジュースがいいです、って言ったら怒られそうだが、固形物は入るとは思えない。駄目元で言ってみよう。
「野菜ジュースがいいです。」
「却下。」
ええ、普通のジュースではなくてちゃんと『野菜』ジュースだから栄養は取れるでしょう?
「食べきれなければ代わりに食べてくれる人はここに二人もいますから、食べられそうなものを選んでください。」
「食べられそうなもの……」
メニュー表を見てみるが、どこにも野菜ジュースの文字はなく。……仕方ないね。
「じゃあヨーグルトで。」
フルーツヨーグルトの文字は見つけたのでそれを選ぶ。食べられそうなものを、と言われたので文句はないでしょう。ヨーグルトって食べ物だよね?
「ヨーグルト……」
何故皆さんがっくりと項垂れているんだろう。
「……嫌いなもんはねえか?」
「特にはありませんが……」
柊木さんの質問の意図が分からないまま素直に答えてしまったが……
「分かった。」
面倒くさそうに発券機の元へと一人で向かう柊木さん。……どういうことだろう?
「ではどこか空いている席に座って待ちましょう。」
「どこか空いてないかなあ。」
キョロキョロと周りを見回す藤さんと桃さん。
「あ、あのっ! もうすぐ食べ終わりますのでここどうぞ!」
「ここもどうぞ!」
「いいの? ありがとうねえ。ほら皆ここ空いたよー。ちょうど六個空いたし座ろー。」
……ん? 今何があったのかな。見知らぬ生徒達が顔を真っ青にして席を譲ったように見えたけど……? 真っ青ってことは具合悪いのかな。大丈夫だろうか。
そして皆さん何事もなかったようにそこに座る。
「……あの方々は大丈夫でしょうか。顔が真っ青でした。」
「大丈夫大丈夫。多分俺達から離れれば元に戻るって。」
「ここの生徒の半分くらいはあんな感じですので心配しなくてもいいですよ。」
藤さんと山吹さんの言っている意味が分からない。思わず眉間に皺が寄る。
「どういうことですか?」
取り敢えず私一人だけ立ったままもあれなので空いた席に座って話を続ける。
「ええと、簡単に言えば私達音霧寮の人間は怖がられてる、と言えば分かりやすいでしょうか。」
やっぱりそうなのね。周りの人の喋り声を聞いているとそうなのかと予想はしていた。でも昨日今日音霧の皆さんと話したけど、どこも怖くなかったよ?
「っていうか今の音霧寮が怖がられてるのってほぼほぼ桃のせいじゃない? あの馬鹿力で色んなもの壊すんだもん。」
「えー、僕? 僕よりもつばっちじゃない? いつも無言でむっとしてるし!」
なんか責任の押し付け合いが始まった。これはどうすれば?
「……俺、は……」
ああほら福寿さんが対抗して何か言おうとしているけど周りにいる人の多さに何も喋れなくなっているじゃない!
「福寿さんは怖くないですよ。大丈夫です。というか何故皆さんが怖がられてるのか私は理解しかねます。」
『私』の本当の姿を知らないからと言われればそれまでかもしれないが、皆さんはとても優しい人だと思う。私が今まで出会った人の中でマスターの次に優しいと思う。あ、マスターが一番ね。
「俺達のことを怖がらないとか珍しい人種もいるもんだ。」
柊木さんが戻ってきた。その手にはオムライス。……柊木さんがオムライス持ってるとか似合わなくて笑いそう。失礼かな?
「ほら、オムライス食え。」
カタンと私の目の前に置かれたそれ。……目の前?
「わ、私の……?」
「そうだが何か?」
「お腹いっぱいで入んないです。」
「大丈夫だ。食べきれなければ桃と藤が食べる。あいつらの胃袋はブラックホールだから。」
「大丈夫だよ。二人前とか普通に食べれるから。」
自分のお弁当を開けながらそう言う藤さん。
「藤もこう言ってますし、無理しない範囲でいいですからちゃんと三食食べましょう。」
「……分かりました。食べます。」
オムライスは好物だし、わざわざ持ってきて頂いたので食べないと。
でも何故柊木さんは数あるメニューからオムライスを頼んだんだろう。偶然かな?
柊木さんも席に座ったところで皆さんもお弁当を食べ始めた。
「いただきます。」
まず食べれる分は食べないと。スプーンに掬った一口分のオムライス。それを口に入れて……
「お、美味しい……!」
口に入れた瞬間にふわとろな卵が広がり、デミグラスソースとよく合うね。ご飯と卵のハーモニーがもう、もう……とにかく美味しい!
「藍ちゃん、目がキラキラしてるね。オムライス好きなのかな?」
「オムライス美味しいよね!」
「茜、また見たんですか?」
「ああ。目ぇキラキラさせたのが見えたからこれにした。」
「それにして正解でしたね。これなら幾分かは食べられると思います。」
「ああ。」
結局四分の一程食べて後は残してしまった。残った分は藤さんと桃さんに食べてもらうことに。本当にありがたいです。残すのは勿体ないと思っていたから……。
「食べていただいてありがとうございました。」
「いいのいいのー。ここのオムライスは初めて食べたけど、なかなか美味しかったね。」
「うん! 僕今度お弁当じゃなくてオムライス頼もうかな!」
そんな風にほのぼのとした空気の中、午後の授業に出るために教室へ向かう。
「じゃあまた放課後ね!」
大きく手を振って階段を降りていく一年生組。そういえば福寿さん顔青かったけど大丈夫だろうか。と考えたが時すでに遅し。福寿さんも桃さんに続いて階段を降りていった後だった。
「あれ、次の授業ってなんだっけ。」
「確か古典だった気がします。」
眠気を誘う教科だね。まあ、私は人前では眠れないからずっとうとうとするだけに留まるだろうけど。
「はは、A組ドンマイ(笑)。俺のクラスは音楽だ。ダルいが歌ったりなんだりするから居眠りして怒られることはない。」
ケケケと勝ち誇った笑みを浮かべる柊木さん。そうだ、柊木さんは別のクラスだったっけ。
「あれ、柊木さんは何組なんですか?」
「あ? 俺は隣のB組だ。」
「隣だったんですね。」
「ああ。俺は平凡なやつだからな。」
「平凡……?」
その時タイミング悪くゴーンゴーンと昼休みが終わったことを知らせる鐘が鳴る。
「じゃあな。また放課後に。」
ひらひらと手を振って隣の教室に戻っていった柊木さん。
「さ、私達も戻りましょう。そろそろ授業が始まります。」
「だね。」
「ですね。」
平凡だと言った時の柊木さんはどこか遠くを見ていたような気がする。
『俺は平凡なやつだからな。』
あれは私に向けて言った言葉ではない気がする。あれは、あれは……
まるで、自分に言い聞かせるようだった。
しかし平凡だと自分に言い聞かせる理由が全く分からない。というか平凡の何が悪いのだろう。いいじゃない、平凡。私の憧れだよ。むしろどうすれば平凡になるのか知りたいくらい。
私は異端な存在だからね。エートスだし、髪も白いし、目も灰色だし。私には平凡と呼ぶべき箇所が見当たらない。
……あ、運動能力は平凡かもしれない。いや、運動能力は無さすぎて逆に平凡じゃないかも。力とかも弱いし。重い物を持つ時はだいたい能力使って少し浮かせて運んでいるから、一向に筋力がつかないのだろう。
授業中ずっとぐるぐると考えていて授業を聞いていなかった。さらっとは聞いたけどついていけなくなりそうとは思わなかったので大丈夫だろう。
さて、後はもう帰るだけ。眠いから寮に戻って昼寝でもしようと思う。その方が後々効率よく勉強出来そうだ。
ぐっすりとは眠れないだろうけど、気休め程度にはなるかな。
「花蘇芳さん眠そうですね。大丈夫ですか?」
「大丈夫です。」
本当この体質嫌になる。
私は普段寝不足で、一週間に一遍倒れるように眠る。一週間と言ってもその時によりけりで、一回倒れた三日後にまた倒れることもあれば、一週間を過ぎても倒れない時もある。平均して一週間と見ているのだが、それでなんとか今も動いている。正直言って辛い。次はいつ倒れるのだろうかと怯えていなければならないし。
「そうですか。……では帰りましょうか。」
「はい……」
柊木さんがA組に来て、四人で階段を下りる。
階段を下りた先に桃さんと福寿さんが待っていた。
「帰ろ!」
桃さんの元気を分けて欲しい。刻一刻と元気が無くなる私は切実に思う。この様子だと四、五日後くらいに倒れるかなあ、と他人事のように予測する。
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