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10章 冬休み その一
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時は少し戻る。
啜り泣く声で私は目が覚めた。看病の為に藍さんが泊まる部屋にいたのだが、どうやら椅子に座ったまま居眠りをしていたようだ。二、三回程目を擦り、覚醒させる。
「うぅ……」
啜り泣く声は未だ続く。声の方を見てみると、ベッド近くにある灯りが藍さんを照らしていた。どうやらベッドに座って泣いているようだ。
ほんの少しの間、私はそれをじっと見ていた。というよりも藍さんが泣いている姿から目が離せないでいた。
『──』
そんな風にじっと見つめていたらふっと頭に浮かんだ言葉が一つ。
ああ、私の名前の花言葉か。花言葉は幾つかあったはずなのに、何故それをチョイスした。と自問してみる。もちろん答えは返ってこない。
しかし、その言葉通りの心境なのも確か。何故ここでそれを自覚してしまうんだ、私は。
今藍さんは両親のことを思い出して辛いだろうに、私の心は能天気にもちりちりと焼けるように熱くなる。
そして更に言えば、その涙を拭うのは私でありたいという気持ちも同時に私の中に居座る。泣いていて欲しいのか、涙を拭って笑わせたいのか。自分でも分からない。
少し考えた結果、『泣くなら私の前でして欲しい』という結論に至った。そうと決まれば動くのみ。藍さんの元へ。
大切なものを包むように抱きしめると、藍さんはピクリと肩を震わせる。
「藍さん。」
名前を呼ぶと恐る恐るこちらを振り向く藍さん。
「あ……山吹さん……」
またポロリと目から零れたそれを指で優しく拭ってやる。
「泣きたい時は泣いてもいいですが、誰かが……いえ、私がいる所で泣いてください。その涙を拭う人も必要でしょう?」
藍さんが一番弱味を見せられる人の前で、とも一瞬考えたが、拭うポジションは私でありたい。藍さんには申し訳ないが選択肢を狭めてしまおう。
「うぅ……」
右手で藍さんの頭を撫でる。
「そして泣いて泣いて泣き切ったら、美味しいもの食べましょう。病み上がりなのでこってりしたものは控えた方がいいかもしれませんが、それでも。何が食べたいですか?」
触れた感じだと、もう熱は下がったようだ。そのことに安堵し、食べたいもののリクエストを聞いてみる。
「ぐすっ……山吹さんが作った、だし巻き玉子。」
「だし巻き玉子でいいんですか? もっと凝ったものも作れますよ?」
「……山吹さんが作っただし巻き玉子が一番好きなので……」
あー、もう。私は単純なのだろうか。藍さんは玉子が好きと言っているだけなのに、私のことが好きだと言われているようで。
私が作るだし巻き玉子が好きと言われた嬉しさやら、私自身に言われているような錯覚に陥ってしまったことへの恥ずかしさやらで頭を掻きむしりたい気持ちになる。やらないけど。
「こ、このこと……誰にも言わないでいただけませんか? なんでもしますから!」
それから十分程泣き、落ち着いた頃。藍さんは恥ずかしそうにそう言う。なんでも、か。
「では、私のことは竜胆と呼んでください。それで貸し借り無しでいいですよ。」
藍さんは恋愛に疎そうだ。今までそのようなことを考える余裕がなかったようだし。
だから今藍さんに好きだという私の気持ちを伝えても返事はノーだろう。それではいけない。絶対イエスと言わせるんだ。
そのためには私のことを好きになってもらわねば。積極的に行くしかないだろう。
その第一歩として、名前で呼んでもらうことにする。前にも同じことを提案したが、その時の藍さんはそれどころではないというような雰囲気だったからね……。
「な、なななな……」
「何故そこまで焦るんですか? 藤や桃のことも名前で呼んでるじゃないですか。」
「それは……最初からそう呼んでいて慣れていたので……」
「ならば私のにも慣れてください。」
「ええ……」
「ほら、リピートアフターミー、竜胆。」
「ノー!」
あ、両手で顔隠しちゃった。でも隠しきれていない耳はとても赤い。髪が白いから余計目立つね。いい意味で。
少しは意識してくれたかな?
「呼んでくれないんですか?」
藍さんの顔を覗き込んでみる。
「うっ……ええと………………竜胆、さん。」
とても小さな声だったが、確かに聞こえた。名前を呼ばれるだけでこうも嬉しいなんて……。
「ふふ、これからはそう呼んでくださいね。」
これからたくさんアプローチしていきますから、覚悟していてくださいね。心の中でそう呟いた。
啜り泣く声で私は目が覚めた。看病の為に藍さんが泊まる部屋にいたのだが、どうやら椅子に座ったまま居眠りをしていたようだ。二、三回程目を擦り、覚醒させる。
「うぅ……」
啜り泣く声は未だ続く。声の方を見てみると、ベッド近くにある灯りが藍さんを照らしていた。どうやらベッドに座って泣いているようだ。
ほんの少しの間、私はそれをじっと見ていた。というよりも藍さんが泣いている姿から目が離せないでいた。
『──』
そんな風にじっと見つめていたらふっと頭に浮かんだ言葉が一つ。
ああ、私の名前の花言葉か。花言葉は幾つかあったはずなのに、何故それをチョイスした。と自問してみる。もちろん答えは返ってこない。
しかし、その言葉通りの心境なのも確か。何故ここでそれを自覚してしまうんだ、私は。
今藍さんは両親のことを思い出して辛いだろうに、私の心は能天気にもちりちりと焼けるように熱くなる。
そして更に言えば、その涙を拭うのは私でありたいという気持ちも同時に私の中に居座る。泣いていて欲しいのか、涙を拭って笑わせたいのか。自分でも分からない。
少し考えた結果、『泣くなら私の前でして欲しい』という結論に至った。そうと決まれば動くのみ。藍さんの元へ。
大切なものを包むように抱きしめると、藍さんはピクリと肩を震わせる。
「藍さん。」
名前を呼ぶと恐る恐るこちらを振り向く藍さん。
「あ……山吹さん……」
またポロリと目から零れたそれを指で優しく拭ってやる。
「泣きたい時は泣いてもいいですが、誰かが……いえ、私がいる所で泣いてください。その涙を拭う人も必要でしょう?」
藍さんが一番弱味を見せられる人の前で、とも一瞬考えたが、拭うポジションは私でありたい。藍さんには申し訳ないが選択肢を狭めてしまおう。
「うぅ……」
右手で藍さんの頭を撫でる。
「そして泣いて泣いて泣き切ったら、美味しいもの食べましょう。病み上がりなのでこってりしたものは控えた方がいいかもしれませんが、それでも。何が食べたいですか?」
触れた感じだと、もう熱は下がったようだ。そのことに安堵し、食べたいもののリクエストを聞いてみる。
「ぐすっ……山吹さんが作った、だし巻き玉子。」
「だし巻き玉子でいいんですか? もっと凝ったものも作れますよ?」
「……山吹さんが作っただし巻き玉子が一番好きなので……」
あー、もう。私は単純なのだろうか。藍さんは玉子が好きと言っているだけなのに、私のことが好きだと言われているようで。
私が作るだし巻き玉子が好きと言われた嬉しさやら、私自身に言われているような錯覚に陥ってしまったことへの恥ずかしさやらで頭を掻きむしりたい気持ちになる。やらないけど。
「こ、このこと……誰にも言わないでいただけませんか? なんでもしますから!」
それから十分程泣き、落ち着いた頃。藍さんは恥ずかしそうにそう言う。なんでも、か。
「では、私のことは竜胆と呼んでください。それで貸し借り無しでいいですよ。」
藍さんは恋愛に疎そうだ。今までそのようなことを考える余裕がなかったようだし。
だから今藍さんに好きだという私の気持ちを伝えても返事はノーだろう。それではいけない。絶対イエスと言わせるんだ。
そのためには私のことを好きになってもらわねば。積極的に行くしかないだろう。
その第一歩として、名前で呼んでもらうことにする。前にも同じことを提案したが、その時の藍さんはそれどころではないというような雰囲気だったからね……。
「な、なななな……」
「何故そこまで焦るんですか? 藤や桃のことも名前で呼んでるじゃないですか。」
「それは……最初からそう呼んでいて慣れていたので……」
「ならば私のにも慣れてください。」
「ええ……」
「ほら、リピートアフターミー、竜胆。」
「ノー!」
あ、両手で顔隠しちゃった。でも隠しきれていない耳はとても赤い。髪が白いから余計目立つね。いい意味で。
少しは意識してくれたかな?
「呼んでくれないんですか?」
藍さんの顔を覗き込んでみる。
「うっ……ええと………………竜胆、さん。」
とても小さな声だったが、確かに聞こえた。名前を呼ばれるだけでこうも嬉しいなんて……。
「ふふ、これからはそう呼んでくださいね。」
これからたくさんアプローチしていきますから、覚悟していてくださいね。心の中でそう呟いた。
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