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11章 冬休み その二
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あれからまた一眠りし、朝になってから皆さんに目が覚めたことを報告した。
泣き腫らしたのはもちろん秘密。やま……竜胆さんには情けないところを見られてしまったなあ……。よし、記憶から消そう。
それから両親のことを思い出した旨も伝えた。すると……
「……あーちゃん、」
福寿さんが抱きついてきた。
「あーちゃん、あーちゃん……」
「その呼び方……つーくん?」
つーくんのことも忘れていた私。まさか福寿さんがつーくんだったなんて……。思い出したことで、懐かしさやら忘れていたことへの罪悪感やらに駆られる。
「……ああ、ああ、思い出したんだな。」
「忘れていてごめんなさい。」
「……いや、いいんだ。むしろ辛かったことは忘れてもいいんだ。あーちゃんが幸せであれば……」
ぎゅーっと福寿さんの腕に力が籠る。
私が忘れていたことで福寿さんに悲しい思いをさせていたと考えると、謝っても謝りきれない。
「ごめんなさい……」
「……謝らなくていい。あーちゃんが悪い訳では無いのだから。」
「でも……」
「……なら、笑っていてくれ。」
「笑う……ですか?」
すっと腕が離れていく。
「……ああ。笑っていてくれれば、俺は嬉しい。」
ふにゃ、と福寿さんの目元が緩む。ここまで嬉しそうにしているのは小さい頃以来だろう。私も思わず口元が緩む。
「はーい、ご飯ですよー。ほらほら椿は藍さんから離れてくださーい。」
「……。」
や……竜胆さんが私と福寿さんの間に割り込んできた。それに対して福寿さんはむっとする。
「藍さん、だし巻き玉子も作りましたよ。約束通り。」
にっこにこな竜胆さんをジト目で見つめる福寿さん。あ、もしかして話途中だったのを中断させられたからそんな表情になったのかな。ええと、私はどう仲裁すれば……
「お? なんか面白えことになってんじゃねえか。」
「あー……ね。」
「え、何が面白いの? 僕にも分かるように教えてよー。」
桃さんに同感だ。主語を入れて話してもらわないと、人間関係的な意味で馬鹿な私には伝わらない。この状況の何が面白いのだ。
「あ、ええと、だし巻き玉子ありがとうございます?」
「ええ。いつも以上に気合を入れて作りましたからね。」
「は、はあ……」
竜胆さん、なんかいい事あったのかな? 今まで以上ににっこにこだよ?
いつもはふうわりとした笑みを浮かべていたのに、今は楽しくて仕方がないとでも言いそうな笑み。なんかあったっけ。
「ねー、僕お腹空いたー。ご飯食べよー?」
「そうだね、食べよう。そこのバチバチしてる二人も休戦してさ。」
「……そうですね。まずは朝ご飯にしましょう。」
結局何一つとして理解出来ぬままご飯を食べることになったのだった。
ご飯も食べ終え、のんびりしていた私達はこれからのことについて話し合っていた。
「で、今日一杯は休んで、明日になったら帰るってことでいいのか?」
「そうですね。また父さんと鉢合わせする前にここから出た方が良いかと。」
「そっかー。その方が良さそうだね!」
「だねー。」
満場一致で明日帰ることに決まった。私個人のことで皆さんの動きを決めてしまうことに申し訳なさは感じるが、竜胆さん達二人のお父さんに会うのは少し怖いから反対はしない。
「あら……もう帰ってしまうのね……」
そうなったことで小雪さんは寂しそうにしていた。
「また皆で来ればいいじゃないですか。今度は父さんがいない時にでも。」
「そうね。藍ちゃんは特にあの人に会わない方がいいわね。どうしても『花蘇芳』にいいイメージが無いみたいだから。」
「花蘇芳に……?」
私だけではなく花蘇芳にいいイメージが無いのね。何故。私の両親も何かしてしまったのだろうか。
「あ、りん。そういえばお父さんが呼んでいたわよ。多分書斎にいると思うわ。」
「そうですか。分かりました。」
「行ってらー。」
「行ってきます。」
そう言って竜胆さんはリビングを出て行った。少し嫌そうに見えたのは気のせいだろうか。
「さ、まだ病み上がりなんだから藍ちゃんは寝てないとね。」
「俺も着いてく。ほら、藍行くぞ。」
「は、はい。」
柊木さんと一緒にリビングを出る。
幾つか扉を通り過ぎたその時。
「……、」
「……。」
目の前にあるほんの少し開いた扉から声が聞こえる。柊木さんも立ち止まり、部屋の中でなされている会話を聞こうとしていた。
「竜胆、お前……山吹家の長男としての自覚はあるのか?」
「申し訳ありません。私なりにベストは尽くしております。」
「お前基準で考えてどうすんだ。こんなんで山吹を継げると思ってんのか?」
「……。」
「ふざけてなければ茜を継がせようとしていたのにな。……あいつは天才だから。」
真紀もそう言っていたような気もするけど……何事にも面倒臭そうにしている柊木さんしか思い浮かばないのだが、本当に天才なのだろうか。あ、でも料理は確かに初めてでもとても美味しかったな。
「あー、今日だったのか。……結局何一つとして変わっていなかったってことか。」
柊木さんの方を見るとその顔はとても暗い。
「……今日だった、とは?」
聞いていいものか分からなかったが、聞いてみなければ良いも悪いも分からないものね。
「……。」
柊木さんは少しの間考えた後、手招きをした。私が抱いた疑問に答えてくれるみたいなので素直についていく。
泣き腫らしたのはもちろん秘密。やま……竜胆さんには情けないところを見られてしまったなあ……。よし、記憶から消そう。
それから両親のことを思い出した旨も伝えた。すると……
「……あーちゃん、」
福寿さんが抱きついてきた。
「あーちゃん、あーちゃん……」
「その呼び方……つーくん?」
つーくんのことも忘れていた私。まさか福寿さんがつーくんだったなんて……。思い出したことで、懐かしさやら忘れていたことへの罪悪感やらに駆られる。
「……ああ、ああ、思い出したんだな。」
「忘れていてごめんなさい。」
「……いや、いいんだ。むしろ辛かったことは忘れてもいいんだ。あーちゃんが幸せであれば……」
ぎゅーっと福寿さんの腕に力が籠る。
私が忘れていたことで福寿さんに悲しい思いをさせていたと考えると、謝っても謝りきれない。
「ごめんなさい……」
「……謝らなくていい。あーちゃんが悪い訳では無いのだから。」
「でも……」
「……なら、笑っていてくれ。」
「笑う……ですか?」
すっと腕が離れていく。
「……ああ。笑っていてくれれば、俺は嬉しい。」
ふにゃ、と福寿さんの目元が緩む。ここまで嬉しそうにしているのは小さい頃以来だろう。私も思わず口元が緩む。
「はーい、ご飯ですよー。ほらほら椿は藍さんから離れてくださーい。」
「……。」
や……竜胆さんが私と福寿さんの間に割り込んできた。それに対して福寿さんはむっとする。
「藍さん、だし巻き玉子も作りましたよ。約束通り。」
にっこにこな竜胆さんをジト目で見つめる福寿さん。あ、もしかして話途中だったのを中断させられたからそんな表情になったのかな。ええと、私はどう仲裁すれば……
「お? なんか面白えことになってんじゃねえか。」
「あー……ね。」
「え、何が面白いの? 僕にも分かるように教えてよー。」
桃さんに同感だ。主語を入れて話してもらわないと、人間関係的な意味で馬鹿な私には伝わらない。この状況の何が面白いのだ。
「あ、ええと、だし巻き玉子ありがとうございます?」
「ええ。いつも以上に気合を入れて作りましたからね。」
「は、はあ……」
竜胆さん、なんかいい事あったのかな? 今まで以上ににっこにこだよ?
いつもはふうわりとした笑みを浮かべていたのに、今は楽しくて仕方がないとでも言いそうな笑み。なんかあったっけ。
「ねー、僕お腹空いたー。ご飯食べよー?」
「そうだね、食べよう。そこのバチバチしてる二人も休戦してさ。」
「……そうですね。まずは朝ご飯にしましょう。」
結局何一つとして理解出来ぬままご飯を食べることになったのだった。
ご飯も食べ終え、のんびりしていた私達はこれからのことについて話し合っていた。
「で、今日一杯は休んで、明日になったら帰るってことでいいのか?」
「そうですね。また父さんと鉢合わせする前にここから出た方が良いかと。」
「そっかー。その方が良さそうだね!」
「だねー。」
満場一致で明日帰ることに決まった。私個人のことで皆さんの動きを決めてしまうことに申し訳なさは感じるが、竜胆さん達二人のお父さんに会うのは少し怖いから反対はしない。
「あら……もう帰ってしまうのね……」
そうなったことで小雪さんは寂しそうにしていた。
「また皆で来ればいいじゃないですか。今度は父さんがいない時にでも。」
「そうね。藍ちゃんは特にあの人に会わない方がいいわね。どうしても『花蘇芳』にいいイメージが無いみたいだから。」
「花蘇芳に……?」
私だけではなく花蘇芳にいいイメージが無いのね。何故。私の両親も何かしてしまったのだろうか。
「あ、りん。そういえばお父さんが呼んでいたわよ。多分書斎にいると思うわ。」
「そうですか。分かりました。」
「行ってらー。」
「行ってきます。」
そう言って竜胆さんはリビングを出て行った。少し嫌そうに見えたのは気のせいだろうか。
「さ、まだ病み上がりなんだから藍ちゃんは寝てないとね。」
「俺も着いてく。ほら、藍行くぞ。」
「は、はい。」
柊木さんと一緒にリビングを出る。
幾つか扉を通り過ぎたその時。
「……、」
「……。」
目の前にあるほんの少し開いた扉から声が聞こえる。柊木さんも立ち止まり、部屋の中でなされている会話を聞こうとしていた。
「竜胆、お前……山吹家の長男としての自覚はあるのか?」
「申し訳ありません。私なりにベストは尽くしております。」
「お前基準で考えてどうすんだ。こんなんで山吹を継げると思ってんのか?」
「……。」
「ふざけてなければ茜を継がせようとしていたのにな。……あいつは天才だから。」
真紀もそう言っていたような気もするけど……何事にも面倒臭そうにしている柊木さんしか思い浮かばないのだが、本当に天才なのだろうか。あ、でも料理は確かに初めてでもとても美味しかったな。
「あー、今日だったのか。……結局何一つとして変わっていなかったってことか。」
柊木さんの方を見るとその顔はとても暗い。
「……今日だった、とは?」
聞いていいものか分からなかったが、聞いてみなければ良いも悪いも分からないものね。
「……。」
柊木さんは少しの間考えた後、手招きをした。私が抱いた疑問に答えてくれるみたいなので素直についていく。
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