『あなた次第』 【本編は完結】

君影 ルナ

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12章 冬休み その三

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※暗いの注意

─────

 寮に戻ってきて数日が経った今日は一人でお出掛け。皆さんに一人で大丈夫かと心配されたが、一人で気分転換したいと言ってそのまま飛び出してきた。

 急いで出たので白髪灰色目のままだったが……まあいいか。今更戻れない。

 寮を出て少し歩いたところで、電話を一本掛ける。

「もしもし、マスター?」
『おう、どうした?』
「……私の家ってどこにありますか? 住んでいたのがあまりにも小さい頃だったので、どこにあるか分からないんです。」

 記憶を取り戻したんだ。家に帰ってもいいと思う。

『お前……記憶が……』
「思い出しました。朧気だけど。」
『……行ってどうする?』
「え? ただ単に家に帰ってみようかなって思っただけなんですけど……。」

 他にも理由はあるけど言わないでおこう。

『分かった。じゃあまずストレリチアに来い。鍵を渡すからな。その時に道順を教える。』
「分かりました。今から行きますので三十分程で着くと思います。」
『分かった。気をつけて来いよ。』
「はい。」

 電話を切り、ストレリチアへと向かう。













 扉を開けるとチリン、と来客を知らせるベルが鳴る。ここに来たのも久し振りだなあ。

「藍、来たか。」
「うん。」
「あ、もしかしてあなたが花蘇芳 藍さん?」
「へ?」

 カウンター席に座る茶髪茶目の可愛い女の子が話しかけてきた。私のこの容姿を見ても驚かずに話しかけてくるのだが……何故だろう? 怖くないのかな。

「あ、僕は薺って言います。今マスターと話してたんですよ、花蘇芳 藍さんのこと。実は僕も今年花学を受験しようと思ってて。」

 そう話す薺ちゃんの目の前のテーブル上には教科書やノートが。ここで受験勉強しているのかな、と推察する。

「そうだったんですね。薺ちゃんは中学生ですか?」
「中学三年生です!」
「へえ、でもまたどうして花学に?」

 外部から花学高等部を狙うとなると結構狭き門だ。そこを狙うのだから余程の理由があるのだろう。

「僕のお兄ちゃんが花学なので、高校からでもいいから一緒にいたいなあって思って!」

 おお! お兄ちゃんを追って花学に! 仲がいいんだねえ。いいなあ。私は一人っ子だから少し憧れる。

「お兄ちゃんは僕の一個上で、今高等部一年生なんですよ!」
「そうなのね。」

 ということは桃さんや福寿さんと同じ学年なんだね。

「あ、藍さんも何か飲みますか? ずっと立ちっぱなしなのもあれですよね?」
「いえ、今日は鍵を貰いに来ただけですので。」
「鍵?」
「はい。マスター、鍵をお願いします。」
「はいよ。」

 もう準備していてくれていたのか、すぐに出てきた鍵と紙切れ。

「地図書いたからな。方向音痴の藍でも辿り着けるだろう。多分。」
「ありがとうございます。それではそろそろ行きます。」
「おう。今度はゆっくりしに来いよ。」
「はい。」
「僕も頑張って花学にちゃんと入りますから! その時また会いましょ!」
「はい。薺ちゃん頑張ってね! それではまた。」

 ストレリチアを出て家へと向かう。














 道に迷いながらもやっと辿り着いた我が家。

「ここ……か。なんとなくは覚えてるかも。」

 門の横に花蘇芳と表札が掲げられているこの場所は、山吹さん兄弟のお家とまでは言わないがそこそこ大きい。

 しかし手入れは全くされていないようで草が伸び放題。お化け屋敷と言っても頷ける風貌だった。

 まあ、そうか。ここにはもう誰も住んでいないのだからそうなっていてもおかしくはない。父母共にもうこの世にはいないし。多分。

 父は私達の二、三日前くらいに事故に遭い、母とはあれっきり……

 いけない、気持ちを切り替えないと。暗い方に引っ張られるところだった。

「よし、行くか。」

 門を開け、草を掻き分けて進む。ようやく玄関に辿り着いた所で渡された鍵を使う。カチャリと小気味いい音を立てて開いた扉を開けるとそこには。

「げほっ、」

 埃っぽい玄関が広がっていた。ああ、懐かしい。私は確かにここに住んでいたのだ、と改めて実感した。

 スリッパを持参したので、それを使う。パタパタと足音を立てながら家の中を探る。

 今日ここに来たのは懐かしむためと、もう一つ。

「『計画』に関する何かがあれば……いいけど……」

 母親が言っていた計画とやらが何者かを調べるためにここに来たのだ。さて、どこかにあるかな?














 一つ一つの部屋を丁寧に探し、次の部屋は……

 確かここは父親の書斎だったはず。本棚には色々な本が並べられている。

 ここで一番怪しいのは机かなあ……。と目星を付ける。でもそんなに分かりやすいところに置くかなあ。まあ、探してみよう。

 一番上の引き出しを開けると、また埃が舞った。それを吸い込まないように気をつけながら中身を漁る。うーん、ここではない。父の仕事関係の資料だった。難しくてよく分からなかった。

 二番目の引き出しを開けると花蘇芳家についての資料が入っていた。

 花蘇芳家は上位の花家であり、花言葉に代々囚われる家系だということが書かれていた。

 それを眺めていると一つの言葉が目に入る。私のお父さんも竜胆さん達のお父さんも言っていた言葉。花蘇芳家が囚われている花言葉だったんだ。……何故その言葉なんだろう。思わず眉間に皺が寄る。













 気持ちを切り替えて机の一番下の引き出しを開ける。そこには日記のようなものが。それを最後まで目を通した私は瞠目した。

「こ、れは……」




『藍の存在は今日も鈴を困らせている。何故藍は白髪灰色目なのだろうか。何故私達の子供がこんな化け物なのだろうか。はっきり言って気味が悪い。』

『鈴ととある計画を立てている。藍をこの世から消すというものだ。これからの未来、私達が化け物をコントロール出来るとは限らないからだ。訳の分からない化け物を野放しにしておくのは怖い。ならば囚われている花言葉に怯えることもせず、消すしかない。』

『どのような基準で花言葉が作用するか分からないが、計画だけは達成させなければ。私達の命を懸けてでも。計画は明後日、実行する。』



 ここで日記は終わっていた。お母さんが言っていた『計画』のことも綴られていた。

 この最後の日記と計画実行日の間に一日あるはず。それなのに何故ここで日記は終わっている……?


 もしかしてこの日記の次の日が、お父さんが事故に遭った日……? ということはさっき見た花蘇芳家に纏わる花言葉の影響でお父さんは……?

「なんだ、全部私のせいじゃないか。私が存在していたから……」

 ぽた、ぽた、と日記に涙が落ちる。私が存在していたせいで、父母共に花蘇芳の花言葉によって……

「お父さん、お母さん、ごめんね。……生き延びてて。」

 自分の涙で日記に書いてある文字がぼやけて見えないが、もう頭の中に入ってしまった文字達を思い出しては涙が溢れ出る。

「うっ……くっ……ごめん、ごめんなさい……」

 懺悔してもしきれない。ああ、ああ……私は……

 竜胆さん達のお父さんが言っていたことは正しかったのだ。


『ほう、お前があの『親殺し』の花蘇芳 藍か。』


 やっぱり私は間接的にではあるが親を……

「どう、しよう……」

 事実を知ってしまった以上、何も知らずにいた時のように生活することは出来ない。

 ならば……

「両親の元に行くこと……それが、唯一私に出来る親孝行……」

 最期に親孝行して償わなければ。














 花学の最寄り駅まで帰ってきた。自分の家からここまでどうやって戻ってきたかは覚えていない。ぽつぽつと付いている電灯が私の進む道を照らしてくれる。

「はあ……」

 涙はもう出ないが、その代わりか溜息が何度も出る。溜息をつく度に白い息がふわりと漂う。それを見て全て終わらせなければいけない、という思いに駆られる。私のこの息の根を止めなければ、と。

 ふらふらと歩いていると、視界に公園が映る。

「ここでも……いいか。」

 ふらふらと公園に入り、そこにあるベンチに座る。

 公園には誰もいないから静かだ。まあそうだよね。もうすぐ夜になるし、更には今にも雪が降りそうなのだから。たしか天気予報でもこれから雪が降ると言っていたはず。ならばここでもいいかな。

 パタン


 心の扉が閉まる音が聞こえた気がした。






─────

ハナズオウ
「裏切りのもたらす死」
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