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12章 冬休み その三
72 桃side
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「……ん?」
道場からの帰り道。雪が降る中傘をさして歩いていると、公園のベンチに座る白い人が見えた。
白いし、こんな雪の日に傘もささずにいるなんて幽霊か何か……
「あれ?」
よく見てみるとベンチに座っているのはあいさんだった。幽霊じゃなかった。でもなんか魂が抜けたかのような座り方と表情。
あと髪の色と同化しているけど頭に雪が積もっていることが分かった。どれくらいの間そこにいたのだろう。
なんか放っておいたら雪と共に溶けていなくなってしまいそう。それくらい儚かった。
「あいさーん!」
そんな儚さを吹き飛ばすように元気よく声を掛けながら駆け寄る。しかし、反応はない。瞬きと息はしているけど。心ここに在らず、みたいな感じ。
頭に乗った雪を払ってやり、あいさんに傘をさす。
「あいさん?」
顔を覗き込んでみるが、まだ僕には気が付いていない様子。焦点が合っていない。
あれ、本当に魂抜き取られちゃったのかな!? え、どうしよう! 僕バカだからどうすればいいか分かんない!
「あわわわわ……」
み、脈! 脈測ろう!
パニクった頭で考えついたのはそれだった。あいさんの手首を掴んで……
「冷たっ!?」
どれくらいの間ここにいるんだろう。手首も冷たくなってるし、頭に雪も積もってたし……
「脈は……あるけど……」
でもここにずっといたら絶対風邪引くよね? というかもう風邪引いてそう。
「うーん、うーん……。」
よし、まずは寮まで運ぶか。ここで考えていてもいい案出なそうだし!
傘を仕舞い、あいさんを抱き上げる。まだ放心状態が続いているようで、反応がない。
「僕バカだからなー。どうしてこうなったか検討もつかないや!」
りんどうくんに過去を見てもらえばいいんじゃない? ああ、それがいい。
「早く帰らないと。」
あいさんを抱えたまま走って寮まで戻る。
「ただいまー! ねー、誰かバスタオル二枚持ってきてちょうだーい!」
僕の声はいつも五月蝿い……と自分でも分かっている。その五月蝿い声がここで役に立つとは。
多分僕の頭にも雪が積もってるからこのまま寮の中を歩くと廊下が水浸しになりそうだものね。まずは拭かないと。
「はい、バスタオ、ル……どういう状況ですか?」
「りんどうくんありがとう! まずは拭いてから説明するから! あいさんのこと任せたよ!」
「分かりました。」
あいさんのことをりんどうくんに任せて僕は自分の頭やら服やらを拭く。うう、寒い。
「っ! 桃、藍さんは何故ここまで冷たくなっているんですか?」
「なんか公園のベンチに座ってぼーっとしてたんだよ。全く反応も見せないし……どうしちゃったんだろ。」
「……後で見てみますね。今は体を温めるのが先。桃はシャワーでも浴びてきた方がいいですよ。」
「オーケー!」
ある程度拭いたら風呂場へ直行!
竜胆side
桃が帰ってきて早々叫んでいるな、とは思ったがまさかこんなことになっているとは。藍さんの頭をタオルで拭いているが、拭かれている本人は未だに反応を見せない。
幸いにもコートの下に着ていた服は濡れていなかったのでコートだけを脱がせる。ここには女の人がいないから着替えさせなくてもいいならよかった。
ある程度拭き終えたらすぐにリビングへ連れていく。
リビングには藤がいる。ちょうどいい。
「藤、確か空木さんの連絡先知ってますよね?」
「ああうん。……あれ、藍ちゃんどしたの?」
藤と話しながらソファに座り、私の膝の上に藍さんを乗せる。
「私にも分かりません。連れて帰ってきてくれた桃がシャワーを浴び終えたら問い詰めます。」
「そっか。じゃあ空木ちゃんに連絡して、来れそうなら来てもらえばいい?」
「はい。同性でないといけない部分もあると思いますから。」
「オーケー。ちょいまち。」
「いや、それは悪手だ。」
「茜?」
ガチャ、と毛布を持ってリビングに入ってきた茜。悪手とは?
「今の藍を見たら空木自身も参ってしまう。だからどうしても、という時までは呼ばない方がいいだろう。」
と言いながら私に毛布を手渡す茜。きっと桃の声を聞いて未来を見たのだろう。
「そう?」
それを受け取って私ごと藍さんを包む。人間湯たんぽになろうかと思ってね。私はずっと家にいたからこの方が早く温まるだろうし。
「ああ。まさかこんなことになるとは思ってなかったが……朝の時点で未来を見ておくんだったな。本当に一人で気分転換しに行ったと思ってたから……。」
それは確かに私もそうだと思っていた。まさかこうなるとは……
思い込みは視界を狭めるとことを思い知った。
「桃が叫んでたから何かおかしいと未来を見たんだが……遅かったな。」
悔やみきれない様子だ。
しかし起こってしまったことは取り返せないのだから、これからどう動くか、が重要だ。
人間湯たんぽだけでは温まるのも限度があるだろうからお湯を沸かしてもらおう。何か温かい飲み物を……
「あかね。」
「……分かった。」
「え、名前呼んだだけで分かんの?」
「ああ。お湯を沸かして温かいもん作れ、だろ?」
「はい。」
「おお……すごい。さすが双子。」
「ではお願いしますね。私はここから動けないので。」
「おうよ。」
と、頼んだ直後にふと思った。反応も見せない藍さんに何か飲食させるのって無理では?
「蒸しタオル作るからそれを当てとけ。寮に湯たんぽないだろ?」
「ないですね。」
「んんー? この二人何言ってんの? 会話成立してなくない?」
「成立してますよ?」
「な。」
昔に戻ったような感覚。なんか不思議だ。またあかねとこうやって話せるとは思っていなかったから。
あの日から全てに手を抜き、不良チックな見た目になり。どこか私と一線を引いていたようにも思う。
一体あかねにどんな心境の変化があったのだろうか。
道場からの帰り道。雪が降る中傘をさして歩いていると、公園のベンチに座る白い人が見えた。
白いし、こんな雪の日に傘もささずにいるなんて幽霊か何か……
「あれ?」
よく見てみるとベンチに座っているのはあいさんだった。幽霊じゃなかった。でもなんか魂が抜けたかのような座り方と表情。
あと髪の色と同化しているけど頭に雪が積もっていることが分かった。どれくらいの間そこにいたのだろう。
なんか放っておいたら雪と共に溶けていなくなってしまいそう。それくらい儚かった。
「あいさーん!」
そんな儚さを吹き飛ばすように元気よく声を掛けながら駆け寄る。しかし、反応はない。瞬きと息はしているけど。心ここに在らず、みたいな感じ。
頭に乗った雪を払ってやり、あいさんに傘をさす。
「あいさん?」
顔を覗き込んでみるが、まだ僕には気が付いていない様子。焦点が合っていない。
あれ、本当に魂抜き取られちゃったのかな!? え、どうしよう! 僕バカだからどうすればいいか分かんない!
「あわわわわ……」
み、脈! 脈測ろう!
パニクった頭で考えついたのはそれだった。あいさんの手首を掴んで……
「冷たっ!?」
どれくらいの間ここにいるんだろう。手首も冷たくなってるし、頭に雪も積もってたし……
「脈は……あるけど……」
でもここにずっといたら絶対風邪引くよね? というかもう風邪引いてそう。
「うーん、うーん……。」
よし、まずは寮まで運ぶか。ここで考えていてもいい案出なそうだし!
傘を仕舞い、あいさんを抱き上げる。まだ放心状態が続いているようで、反応がない。
「僕バカだからなー。どうしてこうなったか検討もつかないや!」
りんどうくんに過去を見てもらえばいいんじゃない? ああ、それがいい。
「早く帰らないと。」
あいさんを抱えたまま走って寮まで戻る。
「ただいまー! ねー、誰かバスタオル二枚持ってきてちょうだーい!」
僕の声はいつも五月蝿い……と自分でも分かっている。その五月蝿い声がここで役に立つとは。
多分僕の頭にも雪が積もってるからこのまま寮の中を歩くと廊下が水浸しになりそうだものね。まずは拭かないと。
「はい、バスタオ、ル……どういう状況ですか?」
「りんどうくんありがとう! まずは拭いてから説明するから! あいさんのこと任せたよ!」
「分かりました。」
あいさんのことをりんどうくんに任せて僕は自分の頭やら服やらを拭く。うう、寒い。
「っ! 桃、藍さんは何故ここまで冷たくなっているんですか?」
「なんか公園のベンチに座ってぼーっとしてたんだよ。全く反応も見せないし……どうしちゃったんだろ。」
「……後で見てみますね。今は体を温めるのが先。桃はシャワーでも浴びてきた方がいいですよ。」
「オーケー!」
ある程度拭いたら風呂場へ直行!
竜胆side
桃が帰ってきて早々叫んでいるな、とは思ったがまさかこんなことになっているとは。藍さんの頭をタオルで拭いているが、拭かれている本人は未だに反応を見せない。
幸いにもコートの下に着ていた服は濡れていなかったのでコートだけを脱がせる。ここには女の人がいないから着替えさせなくてもいいならよかった。
ある程度拭き終えたらすぐにリビングへ連れていく。
リビングには藤がいる。ちょうどいい。
「藤、確か空木さんの連絡先知ってますよね?」
「ああうん。……あれ、藍ちゃんどしたの?」
藤と話しながらソファに座り、私の膝の上に藍さんを乗せる。
「私にも分かりません。連れて帰ってきてくれた桃がシャワーを浴び終えたら問い詰めます。」
「そっか。じゃあ空木ちゃんに連絡して、来れそうなら来てもらえばいい?」
「はい。同性でないといけない部分もあると思いますから。」
「オーケー。ちょいまち。」
「いや、それは悪手だ。」
「茜?」
ガチャ、と毛布を持ってリビングに入ってきた茜。悪手とは?
「今の藍を見たら空木自身も参ってしまう。だからどうしても、という時までは呼ばない方がいいだろう。」
と言いながら私に毛布を手渡す茜。きっと桃の声を聞いて未来を見たのだろう。
「そう?」
それを受け取って私ごと藍さんを包む。人間湯たんぽになろうかと思ってね。私はずっと家にいたからこの方が早く温まるだろうし。
「ああ。まさかこんなことになるとは思ってなかったが……朝の時点で未来を見ておくんだったな。本当に一人で気分転換しに行ったと思ってたから……。」
それは確かに私もそうだと思っていた。まさかこうなるとは……
思い込みは視界を狭めるとことを思い知った。
「桃が叫んでたから何かおかしいと未来を見たんだが……遅かったな。」
悔やみきれない様子だ。
しかし起こってしまったことは取り返せないのだから、これからどう動くか、が重要だ。
人間湯たんぽだけでは温まるのも限度があるだろうからお湯を沸かしてもらおう。何か温かい飲み物を……
「あかね。」
「……分かった。」
「え、名前呼んだだけで分かんの?」
「ああ。お湯を沸かして温かいもん作れ、だろ?」
「はい。」
「おお……すごい。さすが双子。」
「ではお願いしますね。私はここから動けないので。」
「おうよ。」
と、頼んだ直後にふと思った。反応も見せない藍さんに何か飲食させるのって無理では?
「蒸しタオル作るからそれを当てとけ。寮に湯たんぽないだろ?」
「ないですね。」
「んんー? この二人何言ってんの? 会話成立してなくない?」
「成立してますよ?」
「な。」
昔に戻ったような感覚。なんか不思議だ。またあかねとこうやって話せるとは思っていなかったから。
あの日から全てに手を抜き、不良チックな見た目になり。どこか私と一線を引いていたようにも思う。
一体あかねにどんな心境の変化があったのだろうか。
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