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14章 目覚め
83 椿side
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俺達も寮に戻ってきた。夕飯を食べ終え、皆リビングに集まる。これから今日のことについて話すのだろう。憂鬱だ。
「で、椿。話してくれるよな?」
「………………………………ああ。」
あまり話したくないが、そうも行かないだろう。嫌われる覚悟は決めたんだ。話さないと。
一度深呼吸し、話し始める。
「……俺は、嘘看破の能力持ちではない。」
「えっ、」
あーちゃんは何故か驚いている。目の前で能力使ったのにも関わらず、あれを俺がやったとは思っていなかったらしい。
「あれ、あいさん見てなかったっけ?」
「何をですか……?」
「つばっちがザックリ殺る所。」
「いや椿は殺ってないよ。ちょこーっと切っただけ。」
殺ってはいない。死なない程度に抑えておいたからな。
「……俺の本当の能力は『切裂』。強く意識したものを切ることが出来る。」
「なるほどな。だから一瞬のうちに大勢が血を流して倒れたし、藍にナイフを当てていたやつの腕を切断出来たんだな。」
「……ああ。」
あーちゃんがナイフを突き立てられている場面を見て思わず感情が顕になってしまった。
藤があの後一応腕をくっつけてくれたが、まさか腕がボットンと切れ落ちるとは思わなかった。
やっぱり俺は感情を表に出してはいけないんだな。じゃないと自分の能力すらコントロール出来ない。あの時だって……
『あーちゃん? あんたと話してくれる人なんているわけないじゃない! その子もあんたの化け物具合に引いたから会えなくなったんでしょ!!?』
『そんなわけない!!!』
自分の中にあった怒りが表面化し、バキバキと家全体が傷つき、もちろん今まで話していた母親も怪我をした。血を流しながらも俺を恐れた。
小さかったあの頃の俺は、あーちゃんと会えなくなったことで精神的に不安定になり、そこに母親のあの言葉。まるで俺はこの世で独りだとでも言わんばかりな様子だった。
あの時のことは、きっと一生忘れないだろう。
「それにしてもつばっちがいてくれたおかげであいさんもりんどうくんも生きて連れ帰れたんだし、つばっち様様だよね!」
桃の(五月蝿い)声が俺をふっと現実に押し戻してくれる。
「だな。」
確かに今回は俺の能力が役に立ったが、俺はやはり人を傷つけてしまう……
「……俺は……」
「椿、そんなに思い詰めなくていいんじゃない? もし椿が意図せずに人を切ってしまった時は俺が治すからさ。」
「酸漿……」
だが……だが……
「つばっちがどんな能力を持っていようと、一人になんてしてあげなーい! だって一人になりたくないって顔してるもん!」
「そうだな。椿は考えすぎだ。俺達は使える能力だから傍にいるわけじゃあない。椿だから傍にいるんだ。」
「……だが、俺の近くにいるといつかは傷つけてしまうかも……」
「福寿さ……つーくん。」
懐かしい呼び名にふっとあーちゃんの方を向くと、あーちゃんは薄く笑っていた。
「つーくんも私に言ってくれたじゃない。『花蘇芳』の私と離れないって。私だって人と一緒にいるとその人を傷つけてしまう可能性があるんだよ? だからそれと似たような感じじゃないかな。」
「……いいの、だろうか。こんな俺だが、ここにいても。」
「悪いわけないじゃん。」
「……っ、」
駄目だ、感情が顕になってしまっては……。湧き上がる嬉しさが表に出てしまいそうだ。胸の辺りの服をぐしゃりと掴み、平静を保とうと試みる。
「つーくん、もしかして感情を抑えているのって能力に関係してる?」
「…………。」
この話の流れだと分かってしまうか。能力もろくにコントロール出来ない所を見せてしまった。ああ、ああ、落ち着け俺……
「全ての感情を抑えないといけないの?」
「……分からない。ただ、初めて能力を使った時は『怒り』が爆発した感じだった。」
「そう……」
「……それ以降で能力使ったのは今回が初めてだから検証の仕様もない。」
今回は仕方なかったとは言え、なるべくこの能力を使わない日常を過ごしていきたいものだ。検証すらやりたくない。
「そっか。……つーくん、私に出来ることがあれば言ってね。」
出来ること、か。
「……じゃあ、また昔みたいに色々お喋りして欲しい。」
「もちろんいいよ。何から話そっか。」
あの頃とは全く違う、あーちゃんの自然な笑み。それを見た瞬間、ドクンと胸が高鳴る。これは……
ああ、そうなのか。俺はあーちゃんが好きなのか。
感情を殺そうと思っていたが無理そうだ。だがこの高揚感、悪くない。
「……じゃあ……」
穏やかな時間が過ぎていく。
藍side
皆でお喋りしたのは楽しかったが、やっぱり今日は色々ありすぎて心身共に疲れた。
皆さんも同じような感じだったので夕ご飯を食べ終えた辺りでお喋りはおしまいにし、各々早めに部屋に戻ることにした。
さしみを抱きしめながらぽふんとベッドに倒れ込む。ふかふかな布団の心地良さに瞼が落ちてくるのが自分でも分かった。
「竜胆さん……」
竜胆さんのことが心配で今日はあまりいい夢は見られないだろう。でも、まずは今日寝てまた明日様子を見に行こう。
それだけを決めてふっと目を閉じた。
「で、椿。話してくれるよな?」
「………………………………ああ。」
あまり話したくないが、そうも行かないだろう。嫌われる覚悟は決めたんだ。話さないと。
一度深呼吸し、話し始める。
「……俺は、嘘看破の能力持ちではない。」
「えっ、」
あーちゃんは何故か驚いている。目の前で能力使ったのにも関わらず、あれを俺がやったとは思っていなかったらしい。
「あれ、あいさん見てなかったっけ?」
「何をですか……?」
「つばっちがザックリ殺る所。」
「いや椿は殺ってないよ。ちょこーっと切っただけ。」
殺ってはいない。死なない程度に抑えておいたからな。
「……俺の本当の能力は『切裂』。強く意識したものを切ることが出来る。」
「なるほどな。だから一瞬のうちに大勢が血を流して倒れたし、藍にナイフを当てていたやつの腕を切断出来たんだな。」
「……ああ。」
あーちゃんがナイフを突き立てられている場面を見て思わず感情が顕になってしまった。
藤があの後一応腕をくっつけてくれたが、まさか腕がボットンと切れ落ちるとは思わなかった。
やっぱり俺は感情を表に出してはいけないんだな。じゃないと自分の能力すらコントロール出来ない。あの時だって……
『あーちゃん? あんたと話してくれる人なんているわけないじゃない! その子もあんたの化け物具合に引いたから会えなくなったんでしょ!!?』
『そんなわけない!!!』
自分の中にあった怒りが表面化し、バキバキと家全体が傷つき、もちろん今まで話していた母親も怪我をした。血を流しながらも俺を恐れた。
小さかったあの頃の俺は、あーちゃんと会えなくなったことで精神的に不安定になり、そこに母親のあの言葉。まるで俺はこの世で独りだとでも言わんばかりな様子だった。
あの時のことは、きっと一生忘れないだろう。
「それにしてもつばっちがいてくれたおかげであいさんもりんどうくんも生きて連れ帰れたんだし、つばっち様様だよね!」
桃の(五月蝿い)声が俺をふっと現実に押し戻してくれる。
「だな。」
確かに今回は俺の能力が役に立ったが、俺はやはり人を傷つけてしまう……
「……俺は……」
「椿、そんなに思い詰めなくていいんじゃない? もし椿が意図せずに人を切ってしまった時は俺が治すからさ。」
「酸漿……」
だが……だが……
「つばっちがどんな能力を持っていようと、一人になんてしてあげなーい! だって一人になりたくないって顔してるもん!」
「そうだな。椿は考えすぎだ。俺達は使える能力だから傍にいるわけじゃあない。椿だから傍にいるんだ。」
「……だが、俺の近くにいるといつかは傷つけてしまうかも……」
「福寿さ……つーくん。」
懐かしい呼び名にふっとあーちゃんの方を向くと、あーちゃんは薄く笑っていた。
「つーくんも私に言ってくれたじゃない。『花蘇芳』の私と離れないって。私だって人と一緒にいるとその人を傷つけてしまう可能性があるんだよ? だからそれと似たような感じじゃないかな。」
「……いいの、だろうか。こんな俺だが、ここにいても。」
「悪いわけないじゃん。」
「……っ、」
駄目だ、感情が顕になってしまっては……。湧き上がる嬉しさが表に出てしまいそうだ。胸の辺りの服をぐしゃりと掴み、平静を保とうと試みる。
「つーくん、もしかして感情を抑えているのって能力に関係してる?」
「…………。」
この話の流れだと分かってしまうか。能力もろくにコントロール出来ない所を見せてしまった。ああ、ああ、落ち着け俺……
「全ての感情を抑えないといけないの?」
「……分からない。ただ、初めて能力を使った時は『怒り』が爆発した感じだった。」
「そう……」
「……それ以降で能力使ったのは今回が初めてだから検証の仕様もない。」
今回は仕方なかったとは言え、なるべくこの能力を使わない日常を過ごしていきたいものだ。検証すらやりたくない。
「そっか。……つーくん、私に出来ることがあれば言ってね。」
出来ること、か。
「……じゃあ、また昔みたいに色々お喋りして欲しい。」
「もちろんいいよ。何から話そっか。」
あの頃とは全く違う、あーちゃんの自然な笑み。それを見た瞬間、ドクンと胸が高鳴る。これは……
ああ、そうなのか。俺はあーちゃんが好きなのか。
感情を殺そうと思っていたが無理そうだ。だがこの高揚感、悪くない。
「……じゃあ……」
穏やかな時間が過ぎていく。
藍side
皆でお喋りしたのは楽しかったが、やっぱり今日は色々ありすぎて心身共に疲れた。
皆さんも同じような感じだったので夕ご飯を食べ終えた辺りでお喋りはおしまいにし、各々早めに部屋に戻ることにした。
さしみを抱きしめながらぽふんとベッドに倒れ込む。ふかふかな布団の心地良さに瞼が落ちてくるのが自分でも分かった。
「竜胆さん……」
竜胆さんのことが心配で今日はあまりいい夢は見られないだろう。でも、まずは今日寝てまた明日様子を見に行こう。
それだけを決めてふっと目を閉じた。
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