『あなた次第』 【本編は完結】

君影 ルナ

文字の大きさ
84 / 127
14章 目覚め

84

しおりを挟む
 次の日。朝起きて一階に降りると茜さんが既に起きていて、ソファに座ってスマホを弄っていた。

「はよ。」
「おはようございます。」

「ん。……あ、そうだ。藍と竜胆は特に色々あったから数日学校休んでもいいと学園長から連絡が来た。と、藤が起きてきたら言うだろう。だから今日藍はゆっくり飯食えるぞ。」
「そ、そうなんですか。分かりました。ゆっくりご飯食べます。」

 また未来を見たのだろう。しかしゆっくり食べるとは言ったが、どうしても早く食べ終えて竜胆さんの様子を見に行きたいと思ってしまう。学校を休んでもいいと言うなら尚更。

「藍、りんが心配なのは全員同じこと。あまり焦りすぎるなよ。」
「……はい。」

 一度深呼吸し、気持ちを落ち着かせようと試みる。しかし一向に気持ちは落ち着かない。心配しすぎて胃がぐるぐるするのはあまりいい感じではないな……

 胃のあたりを摩ってみるが、よくなることはなかった。














 結局いつもよりも少ない量のご飯を食べた。食欲がなくて……ね。

 皆さんは学校へと行ってしまったので寮の中に一人ぽつんと残されるが、先程から心配が不安となって私を襲う。

「……早く病院行こ。」

 竜胆さんの顔を見れば少し落ち着くかもしれない。そう考えて出掛ける準備を進める。

「髪、は……」

 テラス団の人に持っていかれてそのままなので、黒いウィッグはもう手元にない。仕方ない、白髪で行くか。

 コートを着てマフラーを巻いて靴を履いて。いざ行かん。














 竜胆さんが眠る病室は相変わらず静かだった。ベッドの近くにある椅子に座り、竜胆さんの様子を伺う。

「私のせいで……すみません。」

 目覚めたらまずは謝ろう。私のお母さんがそもそもの切っ掛けだったのだから。

「早く目を覚まして……竜胆さん。」

 あなたが笑いかけてくれない。そう考えるだけで心がぎゅっと掴まれたように苦しくなる。だからお願い、早く目を覚まして……

「ここか!」
「りん!」

 パタパタと足音を立てて病室に入ってきたのは山吹さん竜胆さん達のお父さんと小雪さん。邪魔にならないようにと椅子から立ち上がると山吹さんは私を視界に入れ、激怒する。

「やっぱりお前か!!」
「……。」
「お前のせいだ! だから花蘇芳からは離れろと言ったんだ!」
「……すみませんでした。私が……」

 私が生きていたから、お母さんが私を始末しようと動いた訳で。それに皆さんを巻き込んでしまった。

 山吹さんは右手を振りかぶる。きっと打たれるんだろうなと理解したが、自業自得なので目を閉じて痛みに備える。

「やめて!」

 しかし痛みはいつまでたっても来ない。小雪さんの声だけが響く。恐る恐る目を開けると私と山吹さんの間に小雪さんが立ち塞がっていた。

「あなた、もうやめて。藍ちゃんは確かに花蘇芳の子だけれども、それ苗字がその人の全てではないでしょう。」
「だが……」

「それにあなたも昨日聞いたでしょう? 今回の件は鈴さんがテラス団に依頼したものだったって。藍ちゃんも等しく被害者よ。」
「……。」
「だからほら、謝る!」

 す、と小雪さんは移動し、私の肩に手を置く。その手はとても暖かくて優しくて、思わず泣きそうになってしまった。ぐっと目に力を入れて涙は零さないようにしないと。

「……すまなかった。」
「……いえ、こちらこそすみませんでした。」
「もう、藍ちゃんは何もしていないでしょう?」


「でも……それでも、私も悪いんです。行動を起こしたのは母ですが、突き詰めて行った先にあるそもそもの原因は……私が生きているせいですから。」


 事実とは言え、それを肯定するのは苦しいものだった。私の死を望む人がいるだなんて考えるだけで……

 ぎゅっと心臓の辺りの服を掴んで苦しさを逃がそうと試みる。














小雪side

「突き詰めて行った先にあるそもそもの原因は……私が生きているせいですから。」

 本当にそうだと信じて疑っていない声色と表情。生きているのが悪いだなんて考えてしまうような環境で育ったのだろうことが伺えた。

 もう、鈴さんは何をやっていたのかしら?

 私が最後に鈴さんに会ったのは……それこそ花蘇芳家に行く前のことだったわね。あの頃の鈴さんはとても幸せそうに笑っていたのを未だに覚えているわ。

 それなのに娘の藍ちゃんはこの状態。(悪い意味で)一体どういう心境の変化があったのかしら?

「藍ちゃん……」

 そう思うと藍ちゃんが可哀想で、不憫で。思わず抱き締めてしまったわ。でも抱き締めた瞬間、藍ちゃんはビクッと肩を震わせたの。その反応はどんな意味があったのかしら……。嫌でなかったのならいいけど……

 あなた父さんも藍ちゃんの言動に動揺しているようね。親目線で見て、藍ちゃんの言葉に何か思うところがあったのでしょう。

「……すまない。私が悪かった。」

 あ、これは心からそう思っている時の表情ね。ふふ、ちゃんと謝れるじゃない。この調子でりんやあかねともコミニュケーションを取っていければいいのだけれども……なかなか難しいのかしらね。

 一方私の腕の中でもぞもぞと動いている藍ちゃんは不安そうにしていた。何が不安なのかしら?

 でも不安を取り除くのもそうだけど、それより言いたいことがあるのよね。笑顔を封印し、真面目な顔で言葉をかける。

「私は藍ちゃんに出会えて良かったと思うわ。だから藍ちゃん、生きているのが悪いみたいに言わないで?」
「……わ、かりました。すみません。」

 あまり納得している表情ではないわねー。でも一応分かったと言ったのだから大丈夫……かな?

 まあ、何かあっても音霧の皆が止めてくれるでしょう。そこに期待ね。

「さ、しんみりした話は終わり! そんな暗い顔をしていたら目覚めたりんが心配するわ。」
「……そう、ですね。」

 そう言ってぎこちなく笑った藍ちゃんに私も笑い返す。

「じゃあ気分を変えてお茶にしましょう?」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

この世界、イケメンが迫害されてるってマジ!?〜アホの子による無自覚救済物語〜

具なっしー
恋愛
※この表紙は前世基準。本編では美醜逆転してます。AIです 転生先は──美醜逆転、男女比20:1の世界!? 肌は真っ白、顔のパーツは小さければ小さいほど美しい!? その結果、地球基準の超絶イケメンたちは “醜男(キメオ)” と呼ばれ、迫害されていた。 そんな世界に爆誕したのは、脳みそふわふわアホの子・ミーミ。 前世で「喋らなければ可愛い」と言われ続けた彼女に同情した神様は、 「この子は救済が必要だ…!」と世界一の美少女に転生させてしまった。 「ひきわり納豆顔じゃん!これが美しいの??」 己の欲望のために押せ押せ行動するアホの子が、 結果的にイケメン達を救い、世界を変えていく──! 「すきーー♡結婚してください!私が幸せにしますぅ〜♡♡♡」 でも、気づけば彼らが全方向から迫ってくる逆ハーレム状態に……! アホの子が無自覚に世界を救う、 価値観バグりまくりご都合主義100%ファンタジーラブコメ!

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...