『あなた次第』 【本編は完結】

君影 ルナ

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番外編

にゃんにゃんにゃん

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ギリギリ猫の日ー!

─────

客観side



「にゃーん」

 灰色の目を持つ白猫が一つ鳴く。

 さて、音霧寮では何が起こったのでしょう。事の始まりは数日前に戻る。

















「これ、あげるから週末使って寮の皆で行っておいで。」

 そんな言葉と共に藤は学園長から紙切れを渡された。

「え、龍彦さん、これ何?」
「植物園の招待券だよ。貰い物なんだけど私は行けそうにないからね。あげる。」
「はあ……そういうことなら貰っとくよ。」
「良かった。それ、ちゃんと六人分あるから皆で行っておいで。それで感想聞かせてよ。」
「分かったー。」

 そんなことで、音霧メンバー全員で植物園に行くことになったのだった。




















 週末になり、植物園に行く日。その道中で事件は起こった。ぞろぞろと六人で植物園に向かって歩いていると、見知らぬ女の人の声が聞こえてきた。

「あら白いあなた、一体何股しているのかしらー?」

 もしかしたら声の主は一人の彼女と五人の彼氏、という風に音霧メンバーを見たのかもしれない。寮の仲間、というのが事実であるが。

 藍に向かっての言葉らしいそれを聞いた音霧メンバーは表情を怒りに変える。

「おい誰だ今の言ったやつ。出て来いや。」

 茜は普通の人が見たら卒倒しそうな怖い表情を浮かべてそんな風に呼び掛ける。他のメンバーも何も言わないが臨戦態勢を取る。しかし姿は見えない。

「いやん、怖い。でも怒るってことは図星なのかしらー?」
「んなわけないだろ。」
「そんな悪い子にはお仕置きよー!」

 人の話を聞かない声がそう言った瞬間、藍の周りが光る。

 あまりの眩しさに皆が皆目を閉じて光をやり過ごす。すると数秒でその光も止み、各々が目を開けると……

「にゃーん」
「……はぁ!?」

 真っ白な猫が、藍がいた場所で座っていた。もちろん、藍は消えていたのだった。

 もしかして先程まで聞こえていた声は猫に姿を変える能力を持つエートスだったのか……? 音霧メンバーはそう考えたようだった。

「へぇ、白い髪って地毛だったんだー。まあどうでもいいけどね! じゃ、ばいばーい」
「おいおいちょっと待て! どうやったら戻んだよ!」
「いい加減姿を現したらどうなんですか?」
「あちゃー、俺の能力じゃ戻らんねー。」
「あいさん可愛いー!」
「……。」

 三者三様の反応をするが、しかし問題は解決しない。

「明日か明後日くらいになればきっと戻るよー。じゃ、ばいばーい!」

 その声を最後に、同じ声が聞こえることはなくなった。

「明日か明後日か……」
「……取り敢えずこのままじゃ駄目じゃない?」
「まず帰るか。」
「賛成ー。」

 まあ、そんなこんなで植物園には行かずにを竜胆が抱っこして寮に戻ってきたのだった。
















「さて、どうする。」

 猫をリビングに放ち自由にさせておく。その間に皆で話し合うことにしたのだが……

「その前に、この中で猫を飼ったことがある人はいますか? それと、猫アレルギー持ってる人も。」
「俺と椿はどっちもないねー。」
「僕も飼ったこともアレルギーもないよ。」
「俺達もねぇよな。」
「じゃあアレルギーの問題はないですね。しかしお世話の面では問題ありですね。」

 この猫のお世話をどうしようかと皆で悩む。ああでもない、こうでもないと知恵を振り絞ってみるが、いい案は出てくることもなかった。

「……ねえ、そういえば藍ちゃんどこ行った? 物音一つしないんだけど。」
「あれ、いない?」
「どこ行った?」

 物音一つしないことに心配した皆はどこ行ったどこ行ったと探してみると、部屋の隅で縮こまっているのを藤が見つけた。ぷるぷると震えてもいる。

「藍ちゃーん、怖がらなくても大丈夫だよー。」

 藤が手を伸ばすと藍はシャーッと威嚇する。

「ええー? 俺威嚇されてる?」
「みたいですね。ほら、藍さん。こっちおいで。」

 竜胆には威嚇しなかったが、やはりまだ縮こまったまま。

 茜はそれを見て、双子の俺ももしかしたら威嚇されないんじゃないかと淡く期待する。しかし茜は元来動物に好かれないタイプだったのだ。それが今回も発揮された。

 茜が抱き上げると藍は暴れ出す。

「にゃー!」
「ああもう暴れんなよ。帰りにりんが持ってた時は大人しかったのに……!」
「あかねくん、もしかして動物に嫌われるタイプ?」
「ふしゃー!」
「あかねは昔からそうですからね。」
「こいつなら大丈夫なんじゃないかって思ったのに!」
「……離してやった方がいいんじゃないか?」

 椿にまでそう言われ、茜はしゅんと落ち込む。仕方ないと手を離してやると藍はトンと綺麗に着地した。

「あかねくんもこんなに落ち込むことあるんだね。」
「びっくりだね。意外な一面ってやつじゃない?」

 藍はまた同じ場所で縮こまる。初めての場所に馴染めない猫のようだ。……まあ、今は本当に猫だけど。

「とりあえず腹が減っては戦ができぬと言いますし、昼ご飯にしましょうか。」

 竜胆の一声でご飯の準備を始めることにしたらしい。皆が台所へ向かうのだった。















 その後もお世話をどうするか話し合ったり調べてみたりして一日はパッと過ぎ去った。

 昼間と違うのは、ご飯をあげた竜胆が藍に懐かれたということだけ。今もソファに座る竜胆の膝の上でゴロゴロと喉を鳴らしている。

「戻るのは明日か明後日か……どうなるんでしょうね。」
「にゃーん」

 どうだろうね、そう藍も言ったようだった。





 結局、次の日には人間に戻っていた。朝いつも通り竜胆がリビングに入ると人間の姿の藍がソファで寝ていたのだ。

 茜だけが戻った藍を見て少し寂しそうにしていたのはここだけの秘密。
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