『あなた次第』 【本編は完結】

君影 ルナ

文字の大きさ
99 / 127
番外編

よし、刈ろう!

しおりを挟む
「髪の毛伸びてきたな……」

 そう呟いて自分の白い髪を摘む。最近暑くなってきたので髪を切りたい所ではあるが、この色を他人に見せたくないと今までマスターに切ってもらっていた。だが今ここにマスターはいない。それに忙しいだろうから今すぐ切ってもらうことは出来ないだろう。

 自分で切ろうとした時もあったが、そこまで器用ではないのでガタガタになってしまう。それならどうするか……

「よし、刈ろう。」

 思い立ったが吉日、今から髪を刈ろうと決めた。














「今お風呂場使う方いませんよね?」

 リビングで寛いでいた竜胆さんに一応聞いてみてから作業に移ろうと思う。

「多分いないと思いますが……」
「あ、あとバリカンってどこにあります?」

 髪を刈るならやっぱりバリカンでしょう! 自分では持っていないけれども、きっと寮にならある……と思いたい。

「……は? バリカン? ありますけど……藍さん、一体何に使おうと思ってたんです?」
「自分の髪を刈ろうと思って。」
「…………は!?」

 そこまで驚くことだろうか。いつもの穏やかな竜胆さんは鳴りを潜め、ただひたすらに目を見開いて驚いていた。あと声が大きい。

「ゆ、ゆ、ゆ……」
「ゆ?」
「許しませんっ! お母さんは許しませんよ!」

 どうしよう、何故か分からないけれども竜胆さんは混乱しているらしい。あんなに地雷だったはずのお母さん発言を自らするなんて。

「竜胆さん、少し休まれた方が……」
「もう少し自分の髪の毛を大事にしてあげてくださいよ!」
「えー?」

 そこー?

「えー、じゃありませんよ! 仮にもあなたは女の子でしょう!?」
「だってこの髪色嫌いなんですもの。どうせなら刈り上げて坊主にしていた方が周りに溶け込めるかと思いまし……」
「許しませんっ!」

 竜胆さんは叫ぶ。えー? そこまで必死になることかなぁ?

「おーおー、珍しくりんが五月蝿え。」

 その時、そっとリビングに入ってきた茜さんは耳を塞いで五月蝿え五月蝿えと騒ぐ。この際茜さんにこの(五月蝿い)竜胆さんを押し付けて、私は髪を刈ろう。

「茜さん、バリカンどこにあります?」
「却下。」
「えー。まだ何も言っていないのに。」
「この状況がおかしかったから未来を見たが、丸刈りになんてさせねぇからな。」
「えー。じゃあどうしろと言うんです?」

 今までなら自分で切ってもウィッグで隠せたからガタガタでも良かったけど、今は白髪が露わになっている。さすがにガタガタのまま生活はしたくない。だから丸刈りにしようと思ったのだが……そう言われたらどうすれば?

「俺が切ってやるから刈るのはやめろ。」
「それが良いですね。茜なら酷くはならないでしょうし。」

 いつも通りの竜胆さんが戻ってきたのはいいけど、そんな、茜さんの手を煩わせなくても……

「おーい、さっさと髪切るぞ。早く来い。」
「およよ?」

 迷っている間に茜さんに背中を押され、二人でお風呂場へ向かった。














「おぉー!」

 綺麗に肩の辺りで切り揃えられた自分の髪の毛を鏡越しに眺める。それを見て、茜さんは意外と器用なんだなぁ……と感心する。

「ほれ、こんなもんでいいだろ。」
「ありがとうございます!」
「ん。」

 お礼を言うと茜さんにぽふぽふと頭を撫でられた。

「これで丸坊主にしなくてもいいだろ?」
「はい! ……なんだか少しだけ自分の髪が好きになれそうです。」
「それは何より。だがお前の髪は綺麗なんだからもっと自信持てな。」
「それは……善処します。」
「ん。」

 もう一度ぽふぽふと頭を撫でられた。私は目を細めてそれを享受するのだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

この世界、イケメンが迫害されてるってマジ!?〜アホの子による無自覚救済物語〜

具なっしー
恋愛
※この表紙は前世基準。本編では美醜逆転してます。AIです 転生先は──美醜逆転、男女比20:1の世界!? 肌は真っ白、顔のパーツは小さければ小さいほど美しい!? その結果、地球基準の超絶イケメンたちは “醜男(キメオ)” と呼ばれ、迫害されていた。 そんな世界に爆誕したのは、脳みそふわふわアホの子・ミーミ。 前世で「喋らなければ可愛い」と言われ続けた彼女に同情した神様は、 「この子は救済が必要だ…!」と世界一の美少女に転生させてしまった。 「ひきわり納豆顔じゃん!これが美しいの??」 己の欲望のために押せ押せ行動するアホの子が、 結果的にイケメン達を救い、世界を変えていく──! 「すきーー♡結婚してください!私が幸せにしますぅ〜♡♡♡」 でも、気づけば彼らが全方向から迫ってくる逆ハーレム状態に……! アホの子が無自覚に世界を救う、 価値観バグりまくりご都合主義100%ファンタジーラブコメ!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

処理中です...