『あなた次第』 【本編は完結】

君影 ルナ

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番外編

バレンタイン

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藍ちゃんに恋人が出来た後、学園でのお話。
──

 バレンタイン前の休日。いちごちゃんに連れられて学園の外に遊びに来ている。

「藍ちゃん、来週はバレンタインだね!」

 いちごちゃんはとても楽しそうに話す。

「バレンタインね……」

 まさか私がマスター以外の人にチョコをあげる日が来るとは思わなかったので、まだチョコをあげるんだという実感がない。

「今日はその材料を買う為に藍ちゃんを連れてきたってわけ!」
「材料……? 包装されたチョコを買ってくるんじゃなくて?」
「まあ、友チョコくらいなら買ってもいいだろうけど、藍ちゃんには本命がいるでしょ?」

 本命、その言葉であの人を思い出し、かぁっと全身が熱くなる。

「ね、作ってみようよ。多分あの人藍ちゃんの手作りチョコを期待していると思うし。」
「……な、なら……作る。」
「その意気だ! じゃあ何を作るかだけど……」







 二月十三日の夜。皆が寝静まった後、私は一人台所に立っていた。

「さて、いちごちゃんから借りたこの本に載ってるチョコクッキーをいざ作らん!」

 初心者でも作れるレシピ、と書かれた本を開き、えいえいおー、と小声で気合いを入れる。



「ええと、まずは……チョコを包丁で刻む……だと……?えっ、包丁……」

…………
……

「あれっ、湯煎? ってなんだ……?」

…………
……

「むっ、意外と難しいなっ……」

…………
……





 バレンタイン当日。朝ご飯を食べる前に、皆さんにチョコを渡す。


 桃さんは目をキラキラさせてその場で一口食べ、

 つーくんは朝なのに昼間のテンションまで上がり、

 藤さんはチョコを見せた瞬間目をかっ開き、

 茜さんは『サンキューな』と言ってニヒヒと笑い、

 竜胆さんはいつもの笑顔で『有難く頂きます』と言ってくれた。


 取り敢えず音霧メンバーにチョコを渡せてホッと胸を撫で下ろす。あとはクラスの友達と、いちごちゃん達に渡して……

 と、渡すメンバーを今一度頭に思い浮かべる。







 放課後になり、寮に帰ってきた。ちゃんと渡すメンバー全員にチョコを渡せたので良かったです。私もたくさんチョコ貰えました。

 貰ったチョコをソファに座って広げていると、竜胆さんが私の隣に座った。

「ねぇ、藍さん。」
「はい?」
「私にあげるもの、まだあるのではないですか?」
「ひょっ……な、何のことですかな~?」

 動揺で声が裏返ってしまった。目も泳ぐ。

 まさか私がチョコクッキー(?)を作ったと知っているとは思わなかったからね。

「昨日の夜、一人で台所にいましたよね?」
「さ、さぁ~……し、ししし知らないですねぇぇ~。」

 竜胆さん用にも皆さんと同じチョコを買ってきていたので、それを渡して終わりになると思ったんだけど……

「まさか私以外の誰かに作ったんですか? 彼氏の私を差し置いて?」
「な、ななな何のことですかな~?」
「チョコクッキー、ください。藍さんの手作りも欲しいです。」

 竜胆さん、引く気は無いらしい。ぐぬぬ、料理上手の竜胆さんに出せるものは無いのに……

「藍さんの手作りなら毒が入っていても食べたいです。」
「どっ、毒は入れませんよ!」
「ならください。」
「うっ……」

 十秒程考え込み、仕方ないと腹をくくる。竜胆さんがこうなったら意見を曲げないと知っているから。

「じ、じゃあちょっと待っててください。」
「はい。」

 一応包装したものがあるといえばある。包装した後に余ったものを試食して……渡すのをやめたのだ。あれはさすがに美味しくなかった。何が悪かったかは分からないけど。

 自室に戻り、包装されたそれを持ってリビングに戻る。

「こ、これ……ですけど……本当に欲しいんですか?」
「もちろん。」
「……こう言ってはなんですけど、美味しくないですよ?」

 捨てるのはもったいないので、後で少しずつ自分が食べようと思っていたそれ。竜胆さんはその包装されたものをキラキラした目で見つめる。

「藍さんが作ったものだからこそ価値があるというものです。」

 竜胆さんが差し出した手にそれを乗せると、その場で包装を開けてクッキーを一つ食べる。

「な、何故か上手くいかなかったんです。だから……」
「美味しいですよ。」
「っ……」
「やっぱり手作りは美味しいです。特にそれが私の好きな人なら尚更。」
「っ……」
「藍さん。この手作りクッキーは私用なのであげませんけど、朝に貰ったチョコ、一緒に食べません? その方が美味しく食べられると思うので。」

 ぐっ……な、何故竜胆さんはサラッとそういうこと言えるかな!

 手作りを美味しいと言ってくれた嬉しさ、竜胆さんの格好良さを改めて感じた悶え、などなど色々な気持ちが綯い交ぜになって顔が……いや、全身が熱くなる。多分顔は真っ赤だろう。頬も膨れる。

 それを見られたくなくてふいっと顔を逸らす。

「じ、じゃあ……一つだけ貰います。」

 絞り出したその言葉に、竜胆さんのフッと笑う声が聞こえた気がした。竜胆さんにはいつまで経っても叶わないな。
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