107 / 127
番外編
バレンタイン
しおりを挟む
藍ちゃんに恋人が出来た後、学園でのお話。
──
バレンタイン前の休日。いちごちゃんに連れられて学園の外に遊びに来ている。
「藍ちゃん、来週はバレンタインだね!」
いちごちゃんはとても楽しそうに話す。
「バレンタインね……」
まさか私がマスター以外の人にチョコをあげる日が来るとは思わなかったので、まだチョコをあげるんだという実感がない。
「今日はその材料を買う為に藍ちゃんを連れてきたってわけ!」
「材料……? 包装されたチョコを買ってくるんじゃなくて?」
「まあ、友チョコくらいなら買ってもいいだろうけど、藍ちゃんには本命がいるでしょ?」
本命、その言葉であの人を思い出し、かぁっと全身が熱くなる。
「ね、作ってみようよ。多分あの人藍ちゃんの手作りチョコを期待していると思うし。」
「……な、なら……作る。」
「その意気だ! じゃあ何を作るかだけど……」
二月十三日の夜。皆が寝静まった後、私は一人台所に立っていた。
「さて、いちごちゃんから借りたこの本に載ってるチョコクッキーをいざ作らん!」
初心者でも作れるレシピ、と書かれた本を開き、えいえいおー、と小声で気合いを入れる。
「ええと、まずは……チョコを包丁で刻む……だと……?えっ、包丁……」
…………
……
「あれっ、湯煎? ってなんだ……?」
…………
……
「むっ、意外と難しいなっ……」
…………
……
バレンタイン当日。朝ご飯を食べる前に、皆さんに買ってきたチョコを渡す。
桃さんは目をキラキラさせてその場で一口食べ、
つーくんは朝なのに昼間のテンションまで上がり、
藤さんはチョコを見せた瞬間目をかっ開き、
茜さんは『サンキューな』と言ってニヒヒと笑い、
竜胆さんはいつもの笑顔で『有難く頂きます』と言ってくれた。
取り敢えず音霧メンバーにチョコを渡せてホッと胸を撫で下ろす。あとはクラスの友達と、いちごちゃん達に渡して……
と、渡すメンバーを今一度頭に思い浮かべる。
放課後になり、寮に帰ってきた。ちゃんと渡すメンバー全員にチョコを渡せたので良かったです。私もたくさんチョコ貰えました。
貰ったチョコをソファに座って広げていると、竜胆さんが私の隣に座った。
「ねぇ、藍さん。」
「はい?」
「私にあげるもの、まだあるのではないですか?」
「ひょっ……な、何のことですかな~?」
動揺で声が裏返ってしまった。目も泳ぐ。
まさか私がチョコクッキー(?)を作ったと知っているとは思わなかったからね。
「昨日の夜、一人で台所にいましたよね?」
「さ、さぁ~……し、ししし知らないですねぇぇ~。」
竜胆さん用にも皆さんと同じチョコを買ってきていたので、それを渡して終わりになると思ったんだけど……
「まさか私以外の誰かに作ったんですか? 彼氏の私を差し置いて?」
「な、ななな何のことですかな~?」
「チョコクッキー、ください。藍さんの手作りも欲しいです。」
竜胆さん、引く気は無いらしい。ぐぬぬ、料理上手の竜胆さんに出せるものは無いのに……
「藍さんの手作りなら毒が入っていても食べたいです。」
「どっ、毒は入れませんよ!」
「ならください。」
「うっ……」
十秒程考え込み、仕方ないと腹をくくる。竜胆さんがこうなったら意見を曲げないと知っているから。
「じ、じゃあちょっと待っててください。」
「はい。」
一応包装したものがあるといえばある。包装した後に余ったものを試食して……渡すのをやめたのだ。あれはさすがに美味しくなかった。何が悪かったかは分からないけど。
自室に戻り、包装されたそれを持ってリビングに戻る。
「こ、これ……ですけど……本当に欲しいんですか?」
「もちろん。」
「……こう言ってはなんですけど、美味しくないですよ?」
捨てるのはもったいないので、後で少しずつ自分が食べようと思っていたそれ。竜胆さんはその包装されたものをキラキラした目で見つめる。
「藍さんが作ったものだからこそ価値があるというものです。」
竜胆さんが差し出した手にそれを乗せると、その場で包装を開けてクッキーを一つ食べる。
「な、何故か上手くいかなかったんです。だから……」
「美味しいですよ。」
「っ……」
「やっぱり手作りは美味しいです。特にそれが私の好きな人なら尚更。」
「っ……」
「藍さん。この手作りクッキーは私用なのであげませんけど、朝に貰ったチョコ、一緒に食べません? その方が美味しく食べられると思うので。」
ぐっ……な、何故竜胆さんはサラッとそういうこと言えるかな!
手作りを美味しいと言ってくれた嬉しさ、竜胆さんの格好良さを改めて感じた悶え、などなど色々な気持ちが綯い交ぜになって顔が……いや、全身が熱くなる。多分顔は真っ赤だろう。頬も膨れる。
それを見られたくなくてふいっと顔を逸らす。
「じ、じゃあ……一つだけ貰います。」
絞り出したその言葉に、竜胆さんのフッと笑う声が聞こえた気がした。竜胆さんにはいつまで経っても叶わないな。
──
バレンタイン前の休日。いちごちゃんに連れられて学園の外に遊びに来ている。
「藍ちゃん、来週はバレンタインだね!」
いちごちゃんはとても楽しそうに話す。
「バレンタインね……」
まさか私がマスター以外の人にチョコをあげる日が来るとは思わなかったので、まだチョコをあげるんだという実感がない。
「今日はその材料を買う為に藍ちゃんを連れてきたってわけ!」
「材料……? 包装されたチョコを買ってくるんじゃなくて?」
「まあ、友チョコくらいなら買ってもいいだろうけど、藍ちゃんには本命がいるでしょ?」
本命、その言葉であの人を思い出し、かぁっと全身が熱くなる。
「ね、作ってみようよ。多分あの人藍ちゃんの手作りチョコを期待していると思うし。」
「……な、なら……作る。」
「その意気だ! じゃあ何を作るかだけど……」
二月十三日の夜。皆が寝静まった後、私は一人台所に立っていた。
「さて、いちごちゃんから借りたこの本に載ってるチョコクッキーをいざ作らん!」
初心者でも作れるレシピ、と書かれた本を開き、えいえいおー、と小声で気合いを入れる。
「ええと、まずは……チョコを包丁で刻む……だと……?えっ、包丁……」
…………
……
「あれっ、湯煎? ってなんだ……?」
…………
……
「むっ、意外と難しいなっ……」
…………
……
バレンタイン当日。朝ご飯を食べる前に、皆さんに買ってきたチョコを渡す。
桃さんは目をキラキラさせてその場で一口食べ、
つーくんは朝なのに昼間のテンションまで上がり、
藤さんはチョコを見せた瞬間目をかっ開き、
茜さんは『サンキューな』と言ってニヒヒと笑い、
竜胆さんはいつもの笑顔で『有難く頂きます』と言ってくれた。
取り敢えず音霧メンバーにチョコを渡せてホッと胸を撫で下ろす。あとはクラスの友達と、いちごちゃん達に渡して……
と、渡すメンバーを今一度頭に思い浮かべる。
放課後になり、寮に帰ってきた。ちゃんと渡すメンバー全員にチョコを渡せたので良かったです。私もたくさんチョコ貰えました。
貰ったチョコをソファに座って広げていると、竜胆さんが私の隣に座った。
「ねぇ、藍さん。」
「はい?」
「私にあげるもの、まだあるのではないですか?」
「ひょっ……な、何のことですかな~?」
動揺で声が裏返ってしまった。目も泳ぐ。
まさか私がチョコクッキー(?)を作ったと知っているとは思わなかったからね。
「昨日の夜、一人で台所にいましたよね?」
「さ、さぁ~……し、ししし知らないですねぇぇ~。」
竜胆さん用にも皆さんと同じチョコを買ってきていたので、それを渡して終わりになると思ったんだけど……
「まさか私以外の誰かに作ったんですか? 彼氏の私を差し置いて?」
「な、ななな何のことですかな~?」
「チョコクッキー、ください。藍さんの手作りも欲しいです。」
竜胆さん、引く気は無いらしい。ぐぬぬ、料理上手の竜胆さんに出せるものは無いのに……
「藍さんの手作りなら毒が入っていても食べたいです。」
「どっ、毒は入れませんよ!」
「ならください。」
「うっ……」
十秒程考え込み、仕方ないと腹をくくる。竜胆さんがこうなったら意見を曲げないと知っているから。
「じ、じゃあちょっと待っててください。」
「はい。」
一応包装したものがあるといえばある。包装した後に余ったものを試食して……渡すのをやめたのだ。あれはさすがに美味しくなかった。何が悪かったかは分からないけど。
自室に戻り、包装されたそれを持ってリビングに戻る。
「こ、これ……ですけど……本当に欲しいんですか?」
「もちろん。」
「……こう言ってはなんですけど、美味しくないですよ?」
捨てるのはもったいないので、後で少しずつ自分が食べようと思っていたそれ。竜胆さんはその包装されたものをキラキラした目で見つめる。
「藍さんが作ったものだからこそ価値があるというものです。」
竜胆さんが差し出した手にそれを乗せると、その場で包装を開けてクッキーを一つ食べる。
「な、何故か上手くいかなかったんです。だから……」
「美味しいですよ。」
「っ……」
「やっぱり手作りは美味しいです。特にそれが私の好きな人なら尚更。」
「っ……」
「藍さん。この手作りクッキーは私用なのであげませんけど、朝に貰ったチョコ、一緒に食べません? その方が美味しく食べられると思うので。」
ぐっ……な、何故竜胆さんはサラッとそういうこと言えるかな!
手作りを美味しいと言ってくれた嬉しさ、竜胆さんの格好良さを改めて感じた悶え、などなど色々な気持ちが綯い交ぜになって顔が……いや、全身が熱くなる。多分顔は真っ赤だろう。頬も膨れる。
それを見られたくなくてふいっと顔を逸らす。
「じ、じゃあ……一つだけ貰います。」
絞り出したその言葉に、竜胆さんのフッと笑う声が聞こえた気がした。竜胆さんにはいつまで経っても叶わないな。
0
あなたにおすすめの小説
この世界、イケメンが迫害されてるってマジ!?〜アホの子による無自覚救済物語〜
具なっしー
恋愛
※この表紙は前世基準。本編では美醜逆転してます。AIです
転生先は──美醜逆転、男女比20:1の世界!?
肌は真っ白、顔のパーツは小さければ小さいほど美しい!?
その結果、地球基準の超絶イケメンたちは “醜男(キメオ)” と呼ばれ、迫害されていた。
そんな世界に爆誕したのは、脳みそふわふわアホの子・ミーミ。
前世で「喋らなければ可愛い」と言われ続けた彼女に同情した神様は、
「この子は救済が必要だ…!」と世界一の美少女に転生させてしまった。
「ひきわり納豆顔じゃん!これが美しいの??」
己の欲望のために押せ押せ行動するアホの子が、
結果的にイケメン達を救い、世界を変えていく──!
「すきーー♡結婚してください!私が幸せにしますぅ〜♡♡♡」
でも、気づけば彼らが全方向から迫ってくる逆ハーレム状態に……!
アホの子が無自覚に世界を救う、
価値観バグりまくりご都合主義100%ファンタジーラブコメ!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜
のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、
偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。
水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは――
古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。
村を立て直し、仲間と絆を築きながら、
やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。
辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、
静かに進む策略と復讐の物語。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)
大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。
この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人)
そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ!
この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。
前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。
顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。
どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね!
そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる!
主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。
外はその限りではありません。
カクヨムでも投稿しております。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる