106 / 127
番外編
福寿 椿のバースデー
しおりを挟む
今日だと思ったら先週だったんだね!(忘れてて)ごめんね椿!by作者
───
福寿 椿side
俺は酸漿と違って誕生日に何かがあったわけではない。だが、誕生日と聞いただけで憂鬱になるのは酸漿と同じだった。
四歳の時、俺は龍彦さんに……花学の学園長に引き取られた。その後酸漿が来るまで毎年龍彦さんが誕生日を祝ってくれた。
しかし俺の心が晴れることはなかった。俺は生まれながらにして化け物であり、人を傷つけてしまえる力を持つ。そんな俺は生まれてこない方が断然良いと思うのは何ら不思議ではない。
それなのに龍彦さんは俺の誕生日を毎年祝った。嬉しそうに笑った。その笑顔を見て後ろめたい気持ちになってしまうのは恒例行事の如く。
「つーくん、お誕生日おめでとう。」
「……。」
そして今年、あーちゃんもまるで自分が誕生日なのではと思う程嬉しそうに笑っていた。
それがあまりにも眩しくて俺は目をそらしてしまう。今までアプリオリは俺一人だと思っていた。だからこそ音霧の皆ともどこか違うと線を引いていた。だがあーちゃんもアプリオリ。それなのに俺とは全く違う。人を傷つけない能力だから。
「……何かあった?」
「……俺は生まれてこない方が良かったと毎年この日は憂鬱になる。」
「何故?」
「……俺は、俺の能力は人を傷つけてしまう。野菜相手なら別に良いが、無意識のうちに人を傷つけてしまわないかと怯えていなければならない。だから……」
俺の能力、切裂。何故俺はこれなのだろう。もう少しで良いから殺傷能力の低い能力が欲しかった。それかせめてアポステリオリなら良かった。何かしら制限があれば無意識のうちに人を傷つけることも無かっただろうに。
「つーくん、私の能力も使い方によっては殺傷能力あるよ?」
「……物を浮かせるだけだろう?」
「……分かった。今から実演してあげる。ちょっと待ってて。」
多分俺の発言にカチンと来たのだろう。あーちゃんはいつもより低い声で、そして足音を立ててキッチンへ向かった。
だが、俺の能力に比べれば断然殺傷能力は無いだろうに。何故そこを張り合おうと思ったのか……。
「つーくん、今から実演するけど、一ミリも動いちゃ駄目だからね? そうじゃないと本当に死ぬ可能性あるから。既で止めるつもりだけど。」
分かった、と頷くと『じゃあ行くよ』とあーちゃんは呟く。
あーちゃんは能力を使って、キッチンにあるありとあらゆる刃物を、固くて重そうな物を、自由自在に操り俺に向ける。確かにこれらが俺に向かって飛んで来たら、刺されるなり殴られるなりするだろうことが余裕で理解出来た。
その中で包丁が一本勢い良く飛んで来て俺の首を掠める程に近づいて来た。成る程、動くなというのはこれ故か。
「今は首が切れないように動きを調節したけど、このまま首を落とすことも出来る。どんなに力がいる作業でも、いとも容易く出来る。ね、ものは使いようだよ。」
そう言ってあーちゃんは今俺に向けている全ての物を元の場所へ戻しに行く。
「ね、使い方によっては私もつーくんも殺傷能力高いでしょ? 特にアプリオリだから制限なんて無いし。だから使い方を良く良く考えていかなきゃいけないのはつーくんも私も同じ。意識的無意識的関係なく。」
「……ごめん。」
「うん、許す!」
そう言って破顔するあーちゃんは俺の手を取る。
「それに私は今も、それから昔公園でお話していた頃も、つーくんがいてくれて良かったと思ってる。特に昔なんて、つーくんとお話している時だけが安らげる場所だったし。」
「……それは、俺も。」
「うん。だから生まれてきてありがとう。私と出会ってくれてありがとう。」
「……。」
「あ、ほら、そろそろ夕飯じゃない? それにほら、学園長からケーキが届いたじゃない? それもデザートで食べよ? すぐに考えを変えるのは大変だけど、気持ちを逸らすことは出来るからね!」
「……うん。」
掴まれた手をそのまま引かれ、ダイニングテーブルへと向かう。
毎年誕生日に感じていた憂鬱感は、この時ほんの少しだけ薄れていたのに後から気がついた。
───
福寿 椿side
俺は酸漿と違って誕生日に何かがあったわけではない。だが、誕生日と聞いただけで憂鬱になるのは酸漿と同じだった。
四歳の時、俺は龍彦さんに……花学の学園長に引き取られた。その後酸漿が来るまで毎年龍彦さんが誕生日を祝ってくれた。
しかし俺の心が晴れることはなかった。俺は生まれながらにして化け物であり、人を傷つけてしまえる力を持つ。そんな俺は生まれてこない方が断然良いと思うのは何ら不思議ではない。
それなのに龍彦さんは俺の誕生日を毎年祝った。嬉しそうに笑った。その笑顔を見て後ろめたい気持ちになってしまうのは恒例行事の如く。
「つーくん、お誕生日おめでとう。」
「……。」
そして今年、あーちゃんもまるで自分が誕生日なのではと思う程嬉しそうに笑っていた。
それがあまりにも眩しくて俺は目をそらしてしまう。今までアプリオリは俺一人だと思っていた。だからこそ音霧の皆ともどこか違うと線を引いていた。だがあーちゃんもアプリオリ。それなのに俺とは全く違う。人を傷つけない能力だから。
「……何かあった?」
「……俺は生まれてこない方が良かったと毎年この日は憂鬱になる。」
「何故?」
「……俺は、俺の能力は人を傷つけてしまう。野菜相手なら別に良いが、無意識のうちに人を傷つけてしまわないかと怯えていなければならない。だから……」
俺の能力、切裂。何故俺はこれなのだろう。もう少しで良いから殺傷能力の低い能力が欲しかった。それかせめてアポステリオリなら良かった。何かしら制限があれば無意識のうちに人を傷つけることも無かっただろうに。
「つーくん、私の能力も使い方によっては殺傷能力あるよ?」
「……物を浮かせるだけだろう?」
「……分かった。今から実演してあげる。ちょっと待ってて。」
多分俺の発言にカチンと来たのだろう。あーちゃんはいつもより低い声で、そして足音を立ててキッチンへ向かった。
だが、俺の能力に比べれば断然殺傷能力は無いだろうに。何故そこを張り合おうと思ったのか……。
「つーくん、今から実演するけど、一ミリも動いちゃ駄目だからね? そうじゃないと本当に死ぬ可能性あるから。既で止めるつもりだけど。」
分かった、と頷くと『じゃあ行くよ』とあーちゃんは呟く。
あーちゃんは能力を使って、キッチンにあるありとあらゆる刃物を、固くて重そうな物を、自由自在に操り俺に向ける。確かにこれらが俺に向かって飛んで来たら、刺されるなり殴られるなりするだろうことが余裕で理解出来た。
その中で包丁が一本勢い良く飛んで来て俺の首を掠める程に近づいて来た。成る程、動くなというのはこれ故か。
「今は首が切れないように動きを調節したけど、このまま首を落とすことも出来る。どんなに力がいる作業でも、いとも容易く出来る。ね、ものは使いようだよ。」
そう言ってあーちゃんは今俺に向けている全ての物を元の場所へ戻しに行く。
「ね、使い方によっては私もつーくんも殺傷能力高いでしょ? 特にアプリオリだから制限なんて無いし。だから使い方を良く良く考えていかなきゃいけないのはつーくんも私も同じ。意識的無意識的関係なく。」
「……ごめん。」
「うん、許す!」
そう言って破顔するあーちゃんは俺の手を取る。
「それに私は今も、それから昔公園でお話していた頃も、つーくんがいてくれて良かったと思ってる。特に昔なんて、つーくんとお話している時だけが安らげる場所だったし。」
「……それは、俺も。」
「うん。だから生まれてきてありがとう。私と出会ってくれてありがとう。」
「……。」
「あ、ほら、そろそろ夕飯じゃない? それにほら、学園長からケーキが届いたじゃない? それもデザートで食べよ? すぐに考えを変えるのは大変だけど、気持ちを逸らすことは出来るからね!」
「……うん。」
掴まれた手をそのまま引かれ、ダイニングテーブルへと向かう。
毎年誕生日に感じていた憂鬱感は、この時ほんの少しだけ薄れていたのに後から気がついた。
0
あなたにおすすめの小説
この世界、イケメンが迫害されてるってマジ!?〜アホの子による無自覚救済物語〜
具なっしー
恋愛
※この表紙は前世基準。本編では美醜逆転してます。AIです
転生先は──美醜逆転、男女比20:1の世界!?
肌は真っ白、顔のパーツは小さければ小さいほど美しい!?
その結果、地球基準の超絶イケメンたちは “醜男(キメオ)” と呼ばれ、迫害されていた。
そんな世界に爆誕したのは、脳みそふわふわアホの子・ミーミ。
前世で「喋らなければ可愛い」と言われ続けた彼女に同情した神様は、
「この子は救済が必要だ…!」と世界一の美少女に転生させてしまった。
「ひきわり納豆顔じゃん!これが美しいの??」
己の欲望のために押せ押せ行動するアホの子が、
結果的にイケメン達を救い、世界を変えていく──!
「すきーー♡結婚してください!私が幸せにしますぅ〜♡♡♡」
でも、気づけば彼らが全方向から迫ってくる逆ハーレム状態に……!
アホの子が無自覚に世界を救う、
価値観バグりまくりご都合主義100%ファンタジーラブコメ!
男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)
大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。
この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人)
そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ!
この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。
前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。
顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。
どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね!
そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる!
主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。
外はその限りではありません。
カクヨムでも投稿しております。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜
のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、
偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。
水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは――
古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。
村を立て直し、仲間と絆を築きながら、
やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。
辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、
静かに進む策略と復讐の物語。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる