『あなた次第』 【本編は完結】

君影 ルナ

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番外編

福寿 椿のバースデー

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今日だと思ったら先週だったんだね!(忘れてて)ごめんね椿!by作者

───
福寿 椿side

 俺は酸漿と違って誕生日に何かがあったわけではない。だが、誕生日と聞いただけで憂鬱になるのは酸漿と同じだった。

 四歳の時、俺は龍彦さんに……花学の学園長に引き取られた。その後酸漿が来るまで毎年龍彦さんが誕生日を祝ってくれた。

 しかし俺の心が晴れることはなかった。俺は生まれながらにして化け物であり、人を傷つけてしまえる力を持つ。そんな俺は生まれてこない方が断然良いと思うのは何ら不思議ではない。

 それなのに龍彦さんは俺の誕生日を毎年祝った。嬉しそうに笑った。その笑顔を見て後ろめたい気持ちになってしまうのは恒例行事の如く。

「つーくん、お誕生日おめでとう。」
「……。」

 そして今年、あーちゃんもまるで自分が誕生日なのではと思う程嬉しそうに笑っていた。

 それがあまりにも眩しくて俺は目をそらしてしまう。今までアプリオリは俺一人だと思っていた。だからこそ音霧の皆ともどこか違うと線を引いていた。だがあーちゃんもアプリオリ。それなのに俺とは全く違う。人を傷つけない能力だから。

「……何かあった?」
「……俺は生まれてこない方が良かったと毎年この日は憂鬱になる。」
「何故?」
「……俺は、俺の能力は人を傷つけてしまう。野菜相手なら別に良いが、無意識のうちに人を傷つけてしまわないかと怯えていなければならない。だから……」

 俺の能力、切裂。何故俺はこれなのだろう。もう少しで良いから殺傷能力の低い能力が欲しかった。それかせめてアポステリオリなら良かった。何かしら制限があれば無意識のうちに人を傷つけることも無かっただろうに。

「つーくん、私の能力も使い方によっては殺傷能力あるよ?」
「……物を浮かせるだけだろう?」
「……分かった。今から実演してあげる。ちょっと待ってて。」

 多分俺の発言にカチンと来たのだろう。あーちゃんはいつもより低い声で、そして足音を立ててキッチンへ向かった。

 だが、俺の能力に比べれば断然殺傷能力は無いだろうに。何故そこを張り合おうと思ったのか……。

「つーくん、今から実演するけど、一ミリも動いちゃ駄目だからね? そうじゃないと本当に死ぬ可能性あるから。既で止めるつもりだけど。」

 分かった、と頷くと『じゃあ行くよ』とあーちゃんは呟く。

 あーちゃんは能力を使って、キッチンにあるありとあらゆる刃物を、固くて重そうな物を、自由自在に操り俺に向ける。確かにこれらが俺に向かって飛んで来たら、刺されるなり殴られるなりするだろうことが余裕で理解出来た。

 その中で包丁が一本勢い良く飛んで来て俺の首を掠める程に近づいて来た。成る程、動くなというのはこれ故か。

「今は首が切れないように動きを調節したけど、このまま首を落とすことも出来る。どんなに力がいる作業でも、いとも容易く出来る。ね、ものは使いようだよ。」

 そう言ってあーちゃんは今俺に向けている全ての物を元の場所へ戻しに行く。

「ね、使い方によっては私もつーくんも殺傷能力高いでしょ? 特にアプリオリだから制限なんて無いし。だから使い方を良く良く考えていかなきゃいけないのはつーくんも私も同じ。意識的無意識的関係なく。」
「……ごめん。」
「うん、許す!」

 そう言って破顔するあーちゃんは俺の手を取る。

「それに私は今も、それから昔公園でお話していた頃も、つーくんがいてくれて良かったと思ってる。特に昔なんて、つーくんとお話している時だけが安らげる場所だったし。」
「……それは、俺も。」
「うん。だから生まれてきてありがとう。私と出会ってくれてありがとう。」
「……。」
「あ、ほら、そろそろ夕飯じゃない? それにほら、学園長からケーキが届いたじゃない? それもデザートで食べよ? すぐに考えを変えるのは大変だけど、気持ちを逸らすことは出来るからね!」
「……うん。」

 掴まれた手をそのまま引かれ、ダイニングテーブルへと向かう。



 毎年誕生日に感じていた憂鬱感は、この時ほんの少しだけ薄れていたのに後から気がついた。
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