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番外編
桃のバースデー(二年目)
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僕は音霧メンバーの中で一番能力の開花が遅かった。
あれは僕が花学中等部に入学して少し経ったとある日のこと。僕は剣道部に入ろうと思って、体験入部に行ったんだ。
この時はまだ茶髪茶目のどこにでもいる人だった。寮だって募希寮だったし、普通に友達と喋って悪ふざけもして、先生に怒られて……
あ、でもここ最近になってようやくまたそんな日常が戻りつつあるんだけど、まあ、それは置いておくね。
で、話を戻すね。あの体験入部の日。僕は友達と一緒に剣道場に行った。僕は経験者だと言うと『少しやってみる?』と先輩に言われ、その問いかけに僕は頷いて先輩と向かい合った。
お互い竹刀を構えたその時、何故か急に僕の竹刀がずしんと重くなった。そして目も熱くなった。
「うぁ……ぁ……」
先輩に向けて待ったをかける。目の熱さに耐えられなくてね。
蹲って数分すると、だんだん目の熱さも引いていった。
「ふー……」
「雪柳、大丈夫か?」
「う、うん……なんとか……」
友達に背中を摩られ、なんとか気持ちを落ち着けさせる。
「えーと、雪柳、だっけか。」
「は、はい。」
「少し休んでろ。もしあれなら保健室行くか?」
「あー、大丈夫です。治りました。多分。」
「何があったんだ?」
「め、目が……熱くなって……」
「目? 大丈夫かそれ。どれ、見せてみろ。」
先輩に言われるまま僕は防具を脱ぎ、クリアになった視界で先輩を見ると……
「おまっ……!」
「雪柳っ! 目が赤いぞ!」
「ええ? 目? 赤い?」
ものもらいとかそういうやつだろうか、とこの時は呑気に考えていた。
「雪柳、お前のそれ、カラコンか?」
「ええっ!? 何言ってんの! 僕カラコンとか怖くて無理無理無理!」
「え……じゃあそれは……なんだ?」
もうこの時には目が赤く変わっていたんだろうね。でも僕はそんなこと微塵も考えていなかったから、何故周りの人達が驚いているか分からなかった。
目が赤いのも、白目が充血して赤いんだろう程度にしか考えていなかったからね。
僕の頭上にハテナがたくさん飛び、何も誰も状況を把握出来ずにいた。その時にあの人が慌てて剣道場に入ってきた。そう、学園長だ。
「この中で何か起きたよね? 誰か……ええと、目の色が変わったりした子はいるかい?」
「学園長、それ、雪柳です!」
友達が僕を指差してそう言う。それを聞いた学園長は僕に駆け寄った。
「君、名前は?」
「雪柳 桃。中等部一年生です。」
「そっか。目の色……虹彩の色は元々何色?」
「茶色です。」
「目が熱くなったり、普段とは違うことが起きていないかい?」
「ありました。目が熱くなって、あと、持っていた竹刀が重くなって……」
「ふむふむ……」
そんな風に、学園長に聞かれたことを答えていった。それはこの日に限らず、しばらくの間続いた。色々質問されて、僕は答えたり、言われたことを実践してみたりして……。そして、ゆっくりと僕がエートスであると知っていった。
この時に僕は力加減を間違えてしまい、学園の物を色々と壊して回っていった。だからこそ、音霧寮イコール怖い、という等式を確立させてしまったのだろう。
「君は……言葉に落とすなら、身体能力強化かな?」
「身体能力強化?」
「そう。何かしら武器を持っている時だけみたいだけど。」
「へぇ……」
学園長と話すのは慣れたが、御伽噺の世界に片足踏み込んだ気分だった。まだこの時は実感は湧いていなかった。
「ねぇ、雪柳くん。」
「はい?」
「君、音霧寮に移動しない?」
「音霧寮……」
今まで湧かなかった実感は、音霧寮に入る時に湧いたわけなのだが。
確か僕の学年では一人、不良みたいな人がその寮生だったなぁ、と思い出した。 だからはっきり言って気は進まなかった。
「そう。君もエートスとなったわけだから言うけど、音霧寮の人間は皆エートスなんだよ。あ、これ他の皆には秘密ね?」
「ほへぇ……?」
そんな感じで気が進まないまま、トントン拍子で音霧寮に移動することになった。そして今に至るんだー。
今となっては移動して良かったと思ってるよ。だって皆といるの楽しいし!
あれは僕が花学中等部に入学して少し経ったとある日のこと。僕は剣道部に入ろうと思って、体験入部に行ったんだ。
この時はまだ茶髪茶目のどこにでもいる人だった。寮だって募希寮だったし、普通に友達と喋って悪ふざけもして、先生に怒られて……
あ、でもここ最近になってようやくまたそんな日常が戻りつつあるんだけど、まあ、それは置いておくね。
で、話を戻すね。あの体験入部の日。僕は友達と一緒に剣道場に行った。僕は経験者だと言うと『少しやってみる?』と先輩に言われ、その問いかけに僕は頷いて先輩と向かい合った。
お互い竹刀を構えたその時、何故か急に僕の竹刀がずしんと重くなった。そして目も熱くなった。
「うぁ……ぁ……」
先輩に向けて待ったをかける。目の熱さに耐えられなくてね。
蹲って数分すると、だんだん目の熱さも引いていった。
「ふー……」
「雪柳、大丈夫か?」
「う、うん……なんとか……」
友達に背中を摩られ、なんとか気持ちを落ち着けさせる。
「えーと、雪柳、だっけか。」
「は、はい。」
「少し休んでろ。もしあれなら保健室行くか?」
「あー、大丈夫です。治りました。多分。」
「何があったんだ?」
「め、目が……熱くなって……」
「目? 大丈夫かそれ。どれ、見せてみろ。」
先輩に言われるまま僕は防具を脱ぎ、クリアになった視界で先輩を見ると……
「おまっ……!」
「雪柳っ! 目が赤いぞ!」
「ええ? 目? 赤い?」
ものもらいとかそういうやつだろうか、とこの時は呑気に考えていた。
「雪柳、お前のそれ、カラコンか?」
「ええっ!? 何言ってんの! 僕カラコンとか怖くて無理無理無理!」
「え……じゃあそれは……なんだ?」
もうこの時には目が赤く変わっていたんだろうね。でも僕はそんなこと微塵も考えていなかったから、何故周りの人達が驚いているか分からなかった。
目が赤いのも、白目が充血して赤いんだろう程度にしか考えていなかったからね。
僕の頭上にハテナがたくさん飛び、何も誰も状況を把握出来ずにいた。その時にあの人が慌てて剣道場に入ってきた。そう、学園長だ。
「この中で何か起きたよね? 誰か……ええと、目の色が変わったりした子はいるかい?」
「学園長、それ、雪柳です!」
友達が僕を指差してそう言う。それを聞いた学園長は僕に駆け寄った。
「君、名前は?」
「雪柳 桃。中等部一年生です。」
「そっか。目の色……虹彩の色は元々何色?」
「茶色です。」
「目が熱くなったり、普段とは違うことが起きていないかい?」
「ありました。目が熱くなって、あと、持っていた竹刀が重くなって……」
「ふむふむ……」
そんな風に、学園長に聞かれたことを答えていった。それはこの日に限らず、しばらくの間続いた。色々質問されて、僕は答えたり、言われたことを実践してみたりして……。そして、ゆっくりと僕がエートスであると知っていった。
この時に僕は力加減を間違えてしまい、学園の物を色々と壊して回っていった。だからこそ、音霧寮イコール怖い、という等式を確立させてしまったのだろう。
「君は……言葉に落とすなら、身体能力強化かな?」
「身体能力強化?」
「そう。何かしら武器を持っている時だけみたいだけど。」
「へぇ……」
学園長と話すのは慣れたが、御伽噺の世界に片足踏み込んだ気分だった。まだこの時は実感は湧いていなかった。
「ねぇ、雪柳くん。」
「はい?」
「君、音霧寮に移動しない?」
「音霧寮……」
今まで湧かなかった実感は、音霧寮に入る時に湧いたわけなのだが。
確か僕の学年では一人、不良みたいな人がその寮生だったなぁ、と思い出した。 だからはっきり言って気は進まなかった。
「そう。君もエートスとなったわけだから言うけど、音霧寮の人間は皆エートスなんだよ。あ、これ他の皆には秘密ね?」
「ほへぇ……?」
そんな感じで気が進まないまま、トントン拍子で音霧寮に移動することになった。そして今に至るんだー。
今となっては移動して良かったと思ってるよ。だって皆といるの楽しいし!
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