7 / 36
一章 五月の日常
6
しおりを挟む
カヨside
『やっぱり……茨水様に相談して良かった……! ありがとう、ありがとうございます!』
生徒会室へ続くドアを開けようとドアノブに手を置いた時に聞こえてきた声。
いつものようにシスイ様の元へ相談しに来た人のものだとすぐに気がついた私は、生徒会室に入らず来た道を戻る。相談役であるシスイ様以外の人間がいては話しづらいこともあるだろう、そんなちょっとした気使いで、だ。
「昨日のテレビ見た~?」
「あいつまじウザいと思わない?」
「あのコスメ可愛いよねー!」
「蛍涙病って知ってる?」
昼休み特有の喧騒を聞き流し、周りから冷たいと太鼓判を押された無表情で廊下を歩き続ける。その間考えるのはもちろんシスイ様のこと。
「……」
シスイ様はお優しい。どんな人にも寄り添い、時には手を差し伸ばして引っ張り上げてくれる。どこからその隣人愛が出てくるのか不思議なくらい誰に対してもお優しい。
『双高の生徒は、生徒会長である私が守らないといけませんから!』
とはシスイ様のお言葉だ──ああ、双高とは我が校、双葉高校の略称である──。実に逞しいお言葉だが、実際は双高の生徒でない人間も皆保護対象という認識らしい。皆に優しく出来なければ完璧ではない、と。
この間は道端で蹲っていたお婆さんを助けていたし、その何日か前は道に迷っている人に話しかけて案内していたし、私が幼い頃いじめられていた時も体を張って助けてくれた。
あとは私達が誘拐された時も……
嫌なことを思い出してしまい、無意識のうちに眉間の皺が寄っていたらしい。周りにいた生徒の肩が恐怖で震えたのを視界の端に捉え、いけないいけないと寄った皺を指で解す。
ふー、と息を吐き、生徒会室とは真逆の場所まで歩いてきていた。
だから私も、誰もかも、相談者が帰った後に呟かれたシスイ様の独り言には気がつけなかった。
「やっぱり……他の家で××というのは……ああいうものなのですね……」
『やっぱり……茨水様に相談して良かった……! ありがとう、ありがとうございます!』
生徒会室へ続くドアを開けようとドアノブに手を置いた時に聞こえてきた声。
いつものようにシスイ様の元へ相談しに来た人のものだとすぐに気がついた私は、生徒会室に入らず来た道を戻る。相談役であるシスイ様以外の人間がいては話しづらいこともあるだろう、そんなちょっとした気使いで、だ。
「昨日のテレビ見た~?」
「あいつまじウザいと思わない?」
「あのコスメ可愛いよねー!」
「蛍涙病って知ってる?」
昼休み特有の喧騒を聞き流し、周りから冷たいと太鼓判を押された無表情で廊下を歩き続ける。その間考えるのはもちろんシスイ様のこと。
「……」
シスイ様はお優しい。どんな人にも寄り添い、時には手を差し伸ばして引っ張り上げてくれる。どこからその隣人愛が出てくるのか不思議なくらい誰に対してもお優しい。
『双高の生徒は、生徒会長である私が守らないといけませんから!』
とはシスイ様のお言葉だ──ああ、双高とは我が校、双葉高校の略称である──。実に逞しいお言葉だが、実際は双高の生徒でない人間も皆保護対象という認識らしい。皆に優しく出来なければ完璧ではない、と。
この間は道端で蹲っていたお婆さんを助けていたし、その何日か前は道に迷っている人に話しかけて案内していたし、私が幼い頃いじめられていた時も体を張って助けてくれた。
あとは私達が誘拐された時も……
嫌なことを思い出してしまい、無意識のうちに眉間の皺が寄っていたらしい。周りにいた生徒の肩が恐怖で震えたのを視界の端に捉え、いけないいけないと寄った皺を指で解す。
ふー、と息を吐き、生徒会室とは真逆の場所まで歩いてきていた。
だから私も、誰もかも、相談者が帰った後に呟かれたシスイ様の独り言には気がつけなかった。
「やっぱり……他の家で××というのは……ああいうものなのですね……」
0
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
〈完結〉八年間、音沙汰のなかった貴方はどちら様ですか?
詩海猫(8/29書籍発売)
恋愛
私の家は子爵家だった。
高位貴族ではなかったけれど、ちゃんと裕福な貴族としての暮らしは約束されていた。
泣き虫だった私に「リーアを守りたいんだ」と婚約してくれた侯爵家の彼は、私に黙って戦争に言ってしまい、いなくなった。
私も泣き虫の子爵令嬢をやめた。
八年後帰国した彼は、もういない私を探してるらしい。
*文字数的に「短編か?」という量になりましたが10万文字以下なので短編です。この後各自のアフターストーリーとか書けたら書きます。そしたら10万文字超えちゃうかもしれないけど短編です。こんなにかかると思わず、「転生王子〜」が大幅に滞ってしまいましたが、次はあちらに集中予定(あくまで予定)です、あちらもよろしくお願いします*
許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください>
私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?
水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。
日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。
そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。
一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。
◇小説家になろう、ベリーズカフェにも掲載中です!
◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています
私は貴方を許さない
白湯子
恋愛
甘やかされて育ってきたエリザベータは皇太子殿下を見た瞬間、前世の記憶を思い出す。無実の罪を着させられ、最期には断頭台で処刑されたことを。
前世の記憶に酷く混乱するも、優しい義弟に支えられ今世では自分のために生きようとするが…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる