25 / 36
二章 六月のほたるい
24
しおりを挟む
カヨside
女生徒に手を差し伸べるシスイ様。その光景を眺めていると、昔のことを思い出す。あの、誘拐された日のことを。
あれは曇りの日だった。あの頃は毎日シスイ様はお屋敷を抜け出して、私と公園で遊んでいた。その日も同様だったのだ。
あの頃の私はまだシスイ様のことを『いじめられていた私を救ってくれた王子様』として見ていた。実に夢見がちな少女だったと思う。まあ、それが変わったのもその日だったのだが。
その日は二人で鬼ごっこをしていた。そこまではいつもの日常だった。
しかしその日、黒い服を着た見知らぬ人が三人やって来たのが始まり。
『明鏡 茨水だな。』
『……お父様のお知り合い?』
『まぁそんなもんだ。お父様が呼んでるから付いてきてもらう。』
『分かりました。』
あの頃は私もシスイ様もおかしいと思わなかった誘い文句──今聞けばよくある誘拐犯のそれだったと思う──にシスイ様が了承してしまうと、ついでと言わんばかりに私も一緒に車に乗せられた。
そこでシスイ様は何かおかしいと気がついたようだった。シスイ様のお父様は私のことなんて視界にすら入れないようなお人だから。
『何故珈夜さんも連れて行くんですか?』
『騒がれちゃ困るからな。それなら子供が一人増える方が面倒は少ない。』
『……』
多分シスイ様はこの時にようやく『誘拐』の文字を頭に浮かべたのだろう。サァッと顔を青ざめさせていた。
私はこの時まだ状況をよく分かっていなかった。
私達は暗く狭い、ジメジメした小部屋に放り込まれた。もちろん、手足は縛られて。
『珈夜さんだけでも帰してあげて! 用があるのは私でしょう!』
『下手に騒がれちゃ困るっつったろ。』
『でもっ!』
バタン!
シスイ様のお言葉を聞くことなく、誘拐犯は小部屋唯一の扉を閉めていった。
窓すらない小部屋はとてもとても暗く、寒々しい場所だった。
女生徒に手を差し伸べるシスイ様。その光景を眺めていると、昔のことを思い出す。あの、誘拐された日のことを。
あれは曇りの日だった。あの頃は毎日シスイ様はお屋敷を抜け出して、私と公園で遊んでいた。その日も同様だったのだ。
あの頃の私はまだシスイ様のことを『いじめられていた私を救ってくれた王子様』として見ていた。実に夢見がちな少女だったと思う。まあ、それが変わったのもその日だったのだが。
その日は二人で鬼ごっこをしていた。そこまではいつもの日常だった。
しかしその日、黒い服を着た見知らぬ人が三人やって来たのが始まり。
『明鏡 茨水だな。』
『……お父様のお知り合い?』
『まぁそんなもんだ。お父様が呼んでるから付いてきてもらう。』
『分かりました。』
あの頃は私もシスイ様もおかしいと思わなかった誘い文句──今聞けばよくある誘拐犯のそれだったと思う──にシスイ様が了承してしまうと、ついでと言わんばかりに私も一緒に車に乗せられた。
そこでシスイ様は何かおかしいと気がついたようだった。シスイ様のお父様は私のことなんて視界にすら入れないようなお人だから。
『何故珈夜さんも連れて行くんですか?』
『騒がれちゃ困るからな。それなら子供が一人増える方が面倒は少ない。』
『……』
多分シスイ様はこの時にようやく『誘拐』の文字を頭に浮かべたのだろう。サァッと顔を青ざめさせていた。
私はこの時まだ状況をよく分かっていなかった。
私達は暗く狭い、ジメジメした小部屋に放り込まれた。もちろん、手足は縛られて。
『珈夜さんだけでも帰してあげて! 用があるのは私でしょう!』
『下手に騒がれちゃ困るっつったろ。』
『でもっ!』
バタン!
シスイ様のお言葉を聞くことなく、誘拐犯は小部屋唯一の扉を閉めていった。
窓すらない小部屋はとてもとても暗く、寒々しい場所だった。
0
あなたにおすすめの小説
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
【3月中――完結!】
積み上がった伏線の回収目前!!
夫にも子どもにも、私は選ばれなかった。
長年の裏切りを抱え、離縁状を置いて家を出た――。
待っていたのは、凍てつく絶望。
けれど同時に、それは残酷な運命の扉が開く瞬間でもあった。
「夫は愛人と生きればいい。
今さら縋られても、裏切ったあなたを許す力など残っていない」
それでも私は誓う――
「子どもたちの心だけは、必ず取り戻す」
歪で、完全な幸福――それとも、破滅。
“石”に翻弄された者たちの、狂おしい物語。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
【完結】お父様に愛されなかった私を叔父様が連れ出してくれました。~お母様からお父様への最後のラブレター~
山葵
恋愛
「エリミヤ。私の所に来るかい?」
母の弟であるバンス子爵の言葉に私は泣きながら頷いた。
愛人宅に住み屋敷に帰らない父。
生前母は、そんな父と結婚出来て幸せだったと言った。
私には母の言葉が理解出来なかった。
6年前の私へ~その6年は無駄になる~
夏見颯一
恋愛
モルディス侯爵家に嫁いだウィニアは帰ってこない夫・フォレートを待っていた。6年も経ってからようやく帰ってきたフォレートは、妻と子供を連れていた。
テンプレものです。テンプレから脱却はしておりません。
許すかどうかは、あなたたちが決めることじゃない。ましてや、わざとやったことをそう簡単に許すわけがないでしょう?
珠宮さくら
恋愛
婚約者を我がものにしようとした義妹と義母の策略によって、薬品で顔の半分が酷く爛れてしまったスクレピア。
それを知って見舞いに来るどころか、婚約を白紙にして義妹と婚約をかわした元婚約者と何もしてくれなかった父親、全員に復讐しようと心に誓う。
※全3話。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
わたしのことがお嫌いなら、離縁してください~冷遇された妻は、過小評価されている~
絹乃
恋愛
伯爵夫人のフロレンシアは、夫からもメイドからも使用人以下の扱いを受けていた。どんなに離婚してほしいと夫に訴えても、認めてもらえない。夫は自分の愛人を屋敷に迎え、生まれてくる子供の世話すらもフロレンシアに押しつけようと画策する。地味で目立たないフロレンシアに、どんな価値があるか夫もメイドも知らずに。彼女を正しく理解しているのは騎士団の副団長エミリオと、王女のモニカだけだった。※番外編が別にあります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる