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二章 六月のほたるい

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シスイside

 先程までの言い合い『多数』対『個』で『個』の方だった……ええと、湖麦さんという名前の女生徒は私を見て固まっていた。

「湖麦さん……大丈夫ですか? もしかして怪我を?」
「……名前、」
「え?」
「何故茨水様が私の名前をご存知なの……ですか?」

「そんなことですか? もちろん双高の生徒は全員名前と顔は覚えていますよ。……思い出すのに少し時間はかかりますが。」
「え……」

 あれ、私、何かおかしいこと言いましたっけ? 湖麦さんが私の発言を聞いてより一層カチンと固まったのを見て、私は右に首を傾げる。

「……」
「……」
「……」
「……」

 無言の空間が出来上がった。あれ、これどうすれば? 何か話題を変えていけばいいのか?それとも……

 と、私がグルグルと考えていると湖麦さんはカタカタと震えだした。右耳の辺りで結ばれたサイドテールが震えに合わせてブルブルと揺れる。

「……シスイ様、多分コムギさん? はシスイ様が生徒全員の名前を把握していることに驚いているのでしょう。」
「そう、なんですか? しかし震えていますが……」
「むむむ武者震いでっす!」

 珈夜さんがこの状況を見ていられなくなってか助言してくれた。ふむ、それで驚いていたのか。でも武者震いはまた違うのでは、と考えてしまったが、まあそれは置いておこう。

「気持ち悪く思われたのならすみません。生徒会長として当たり前に出来て当然のことだと思っていまして。」
「あ、えと、大丈夫……です。あの、少し驚いただけで。でもすごい、ですね。生徒って言っても何百人いるか……」

「ええ、だから思い出すのに時間がかかります。まだまだですね。」
「はあ……なんか志が高い、ですね……」
「ほら言ったでしょう! シスイ様は頑張りすぎだって!」

「あれ、どうなってその結論になったんです? ……あ、取り敢えず場所移動してお茶でも飲みながらお話ししましょう?」

 これ以上ここで話していても埒もあかないので話題をグイッと変え、湖麦さんを連れて生徒会室へと向かうことにした。

 私が頑張りすぎウンヌンな話は聞かなくて良し、なのでね。私はもっと頑張らねばならないのだから!

 さて、この教室に置いていたボイスレコーダーも回収して、珈夜さんと湖麦さん、私の三人はこの空き教室を後にした。
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