上 下
35 / 36
三章 七月の平穏

34

しおりを挟む
カヨside

 あの『シスイ様、ストレス自覚しようぜ!』の話し合い(?)が行われてから少し経ち、シスイ様は少しだけ態度が変わった。グレンさんやミドリさんには悟られない程小さく、だが。

 ジッといつも観察している私だからこそ気がつけたそれ。

「おい、茨水。この資料はどこいった?」
「……それはあの棚の上から二番目の引き出しにあると思います。」

 ほんの少し、ほんの少しだけ話しかけられてから返事をするまでに一瞬の間が出来るようになったのだ。

 何かを押し殺すかのような、飲み込むような。そんな間が。

「ああ、これだ。感謝する。」
「……ええ。」

「茨水さん、お茶どうぞ。」
「……あ、りがとうございます。いただきます。」

「茨水様! この書類はこの机に置いていて良いですか?」
「……ありがとうございます。そこにお願いします。」

 コムギちゃんも仮生徒会メンバーから正規の生徒会メンバーに昇格し──コムギちゃんの昇格に反発する人もいたが、さすがと言わざるを得ない手腕でシスイ様が鎮めたなんてこともあったな──、五人で生徒会の活動を行なっている。

「……」

 生徒会自体にそんな変化があったにも関わらず、全く変わらないこともあった。シスイ様の目の下のクマさんだ。化粧で隠しているようだが、一向に改善される気配もないらしい。

 シスイ様の仕事量は明らかに減った。それなのに変わらないそれに私は焦燥感を覚える。睡眠の質が悪い、または眠れていないのは仕事量が原因ではないとすると……なんだろうか。単に眠れないだけだろうか?

「……あ、そうでした。忘れるところでした。皆さん。休日に息抜き、行きませんか?」
「息抜き、というと?」

 シスイ様らしくない提案に、私は思わず質問を質問で返してしまった。

「あ、えと、うーんと、そうですねぇ……どこか遊びにでも行きませんか、というお誘いなのですが……私、あまりどこに何があるか分からないものでして……」

「いえ、ただシスイ様にしては珍しい提案だな、と思っただけですよ。責めてるわけではないです。」
「確かに茨水様ってこう、遊んだりとかしないで勉強とかに没頭してそうですよね!」
「あ、それ分かるかも~」

 コムギちゃんもミドリさんも私の返答に同調する。やっぱり私だけが珍しいと思っていた訳では無さそうだ。

 その様子を見たシスイ様はほんの小さな動揺をその目に写した。これに気が付いたのも多分私だけだろう。他の皆はいつも通りだから。

「面倒くさい」
「紅蓮く~んそんなこと言って~実は興味あるんでしょ~?」
「……フン」

 あ、グレンさんは面倒くさいと言いながらソワソワしているのが私でも分かった。

 ソワソワしているグレンさん、珍しすぎて面白い。

「皆さん……どう、ですか?」

 グレンさんを観察している間に、不安そうにこちらを窺い見てそう尋ねるシスイ様のなんと麗しいことか。

 勿論満場一致で可決されたに決まっているでしょう!
しおりを挟む

処理中です...