ほたるいはシスイを照らす光となり得るか

君影 ルナ

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三章 七月の平穏

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コムギside

 茨水様から息抜きと言う言葉を聞いたとき、私は驚いてしまいました。それと同時に嬉しくもありました。あれだけストレスに疎くていらっしゃったのに、息抜きと言う言葉を覚え、さらには実践なさるそのご成長ぶりに……!

 差し出がましいと言われてしまいそうな感想を、しかし私は心の中に留めておくことにした。

 これをきっかけに、少しずつでもいいので、ストレスを発散していただきたい。そう願いながら、私は息抜きと称したお出かけの待ち合わせ場所に向かう。まさに今日はその日なのだから!

「あ、緑先輩! おはようございます! お早いですね!」
「おはよう~、湖麦ちゃんも早いねぇ~。まだ約束の三十分前だよ?」

 待ち合わせ場所である駅の時計台前には、既に緑先輩がいた。あれ、待ち合わせの時間、間違えたわけでは……なさそうか。良かった、まだ三十分前か。ホッとした。

「ええ、ちょっと緊張やら興奮やらで眠れなくって。それで気を紛らわすために準備をしていたら、それも早く終わってしまって……そのまま来てしまいました。」
「ああ、分かる分かる。僕もこのメンバーで出歩くのは初めてだし、すごく楽しみでね~」

 緑先輩も同じ気持ちだったことに安堵する。どうしても『空気が読めない』と言われがちな私は、人と同じであることに敏感だった──まあ、あまりそうしても意味はなかったみたいだけど──。その癖が抜けないらしい。

 その点、緑先輩はマイペースだけれども、彼の周りは穏やかでゆっくりとした空気が流れていて、さらには自分の空気に人を巻き込める才能を持っていて、私は羨ましくて仕方がなかった。憧れの人その二だ。もちろんその一は茨水様。

「おはようございます」
「珈夜さんおはよう~」
「おはようございます、珈夜先輩」

 そうこうしているうちに現れたのは珈夜先輩だった。

 茨水様以外には無表情しか向けない冷たい人、と思われがちであるが、生徒会に入ってから分かった。意外と面倒見がいいことに。私も何度も助けられた。そんな珈夜先輩が私は好ましいと思う。憧れの人その三。

「お、三人とも早いな。」

 と、そんな回想を脳内で繰り広げられている間に、紅蓮先輩がやってきた。この人も第一印象が怖い、だったのはここだけの秘密だ。でも、自分の内側に入れた人に対してはとても義理堅い。憧れの人その四。

「あとはシスイ様だけですね」

 そう呟いたのは珈夜先輩。いつもよりそわそわしているように見えるのはきっと見間違いではないだろう。珈夜先輩の茨水様崇拝は相変わらずだ。

 他の二人もうんうんと頷き、世間話に花を咲かせ始めた。どうやら今年の受験の話題らしい事は、なんとなく耳に入った単語から察せられる。

 ソワソワとしていた珈夜先輩が、急にパッと視線を上げる。その勢いに私も、緑先輩も紅蓮先輩も驚いて肩を揺らした。

「シスイさ……ま?」
「すみません、遅れました。」

 珈夜先輩は茨水様を目にした瞬間、カチンと体が固まった。なんだろう、もしかして茨水様の私服姿にびっくりしたのかな?
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