森のクェマさん

さかな〜。

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森の中?

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 パンネが目を開けると、視界を大きな緑色の物が覆っています。目が合いました。
 叫ぼうとしたパンネの口を、ティコが素早く塞ぎました。

「オレは経験を活かせるナイスガイなんだぜ。ゲッゲッゲッ」

 ぺとっと張り付く手に、震えるパンネの涙がポタポタと落ちていきました。

「グェエ! ど、ど、どうしよーう。なんか泣いてるー。クェマァー! クェェーマァー!」

「はーい」

 ドアを開けて青年が入ってきました。もう三角巾はとっています。ミルクをたっぷり入れた紅茶のような髪が似合う、柔らかな雰囲気の青年でした。

 青年の目に泣いているパンネと口を押さえるティコの姿が映ると、彼は手にしていた粉を勢いよくティコにぶつけました。

「グエッ! 乾いちゃう、乾いちゃう」

「大丈夫かい娘さん」

 駆け寄った青年は、心配そうにパンネの顔を覗き込みました。
 巻き添えで頭から粉を被ったパンネはあまり大丈夫とは言えませんでした。でも優しそうな青年と、手足をワタワタさせるティコを見ていたらなんだか可笑しくなって、ケタケタ笑い出しました。
 ホッと肩の力を抜いた青年は、まだワタワタしているティコに声をかけました。

「ティコ。粉だけ吸い込めば良いんだよ。彼女の分も頼むよ」

「あ、そーかー。ちょっと面倒だけどゲゲ」

 ティコは腕を広げて大きく息を吸いました。

 するとシュルシュルと体に付いた粉も、散らばった粉も、粉はみんな吸い込まれていきました。

 ぐふっとティコが息を漏らすと、白い粉が口からバフっと煙のように出ました。パンネはまた笑いました。

 もう大丈夫だろうと思った青年は、ティコとパンネに言いました。

「今、娘さんのご飯を作ってくるからね。娘さん、このティコは良いヤツだからね。なにかあったら彼(?)に言うんだよ。私も隣の部屋に居るからね」

「グエエ。オレはいい奴だぜー。魔物じゃないぜゲゲゲ」

 敢えて言う所がかえって魔物っぽいなとパンネは思いました。青年もそう思いましたが、じゃよろしくと言って部屋を出て行きました。
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