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少年の悩み
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先を行くロミアがふと立ち止まり、靴の踵を数回打ち合わせる。歩き出した時にはまたコツコツという靴音がするようになっていた。
サイが思わず凝視すると振り返ったロミアはニヤリと笑った。
「この靴には符呪を施してある。段々と足音が消えるんだ」
悪ガキ用に考案したんだよと言うが、いくらでも悪用出来そうな恐ろしい物だと思う。
「内緒だよ」
一も二もなく頷いた。
連れてこられた夜の院長室は、昼間と違った顔を見せていた。
日の光に暴かれた時の建物や家具の物悲しさが薄れ、代わりに畏怖を感じる。伸びる影から化け物でも出てきそうだ。
テーブルの上には、何かの草から抽出した薄いお茶が出された。ニオイからして通じが良くなるお茶だ。別に便秘じゃないのに……と微妙な顔になってしまった。
「何か溜め込んでいるんだろ? 出した方が良い」
「…………」
「そんな『便秘じゃない』みたいな顔をするな。分かってる。茶は今これしかないんだ」
沈黙が流れる。
「先生……」
「ん?」
「おれ……」
膝に置いた手が、キュッとズボンを握り締めた。そして何かを振り払うかのように顔をしっかりと上げ、ロミア目を真っ正面から捉えた。
「おれ…………俺、この院を出ようと思うんです」
「私を見捨てるのか!!」
「え?」
「あんなクソガキ共を私一人で見られる訳ないだろう!?」
「いや、先生なら――」
「嫌だ! 無理無理! お前は絶対離さない!!」
突然の保護者の乱心に、たかが十四歳の少年に何が出来るだろうか。
頭を掻き毟る彼女を、怯えながらただ茫然とみていた。
するとピタっと動きが止まる。
「さあどうだい。世の中は色んな人が居るんだ。良く知っていると思っていた人間だって、状況次第でいくらでも変わる。先程の態度は冗談だが、九割は本気だ。君にはまだまだ学ぶべき事がある」
「あの、さっきのほぼ本気っていってませんか?」
「バカだな。日中手本になろうと努力して丁寧に話しているのに、普段から丁寧語が使えるのはサイだけなんだぞ。私の指導力の低さが分かるというものだ。一人じゃ無理!」
「それは、よくボロが出ているからじゃ……」
それに言葉以外はかなり優秀な保護者だと思うのだ。
サイはエッタとは違い、街にお使いに行く機会もある。そこで見かける子供達と院の子を比べると、彼等は色々な面で脆弱な感じがした。しかし街の子と話した事がある訳ではないので実際のところはわからないが。
「まあ私の事はどうでもいい」
ボサボサの髪のまま深く椅子に座り直し、真剣な面持ちになった。
「サイ、何故そんなに急ぐんだ。あと二年じゃないか。今は長いように感じても実際には瞬く間だ。学べるうちに出来る限り学んでおきなさい」
「…………それでは遅いんです」
「君がそう思うだけだろう? 私が聞けば、また違う答えになるかもしれない」
「…………」
「話してごらん。なんの為に私がいると思っているんだい? 私が君を知るように、君も私を知っている。どんな結論に達したとしても、私のサポートがあった方がいいだろう?」
「…………はい、先生……ごめんなさい……!」
そしてサイが全てを話した後、ロミアは院を離れる事になった。
サイが思わず凝視すると振り返ったロミアはニヤリと笑った。
「この靴には符呪を施してある。段々と足音が消えるんだ」
悪ガキ用に考案したんだよと言うが、いくらでも悪用出来そうな恐ろしい物だと思う。
「内緒だよ」
一も二もなく頷いた。
連れてこられた夜の院長室は、昼間と違った顔を見せていた。
日の光に暴かれた時の建物や家具の物悲しさが薄れ、代わりに畏怖を感じる。伸びる影から化け物でも出てきそうだ。
テーブルの上には、何かの草から抽出した薄いお茶が出された。ニオイからして通じが良くなるお茶だ。別に便秘じゃないのに……と微妙な顔になってしまった。
「何か溜め込んでいるんだろ? 出した方が良い」
「…………」
「そんな『便秘じゃない』みたいな顔をするな。分かってる。茶は今これしかないんだ」
沈黙が流れる。
「先生……」
「ん?」
「おれ……」
膝に置いた手が、キュッとズボンを握り締めた。そして何かを振り払うかのように顔をしっかりと上げ、ロミア目を真っ正面から捉えた。
「おれ…………俺、この院を出ようと思うんです」
「私を見捨てるのか!!」
「え?」
「あんなクソガキ共を私一人で見られる訳ないだろう!?」
「いや、先生なら――」
「嫌だ! 無理無理! お前は絶対離さない!!」
突然の保護者の乱心に、たかが十四歳の少年に何が出来るだろうか。
頭を掻き毟る彼女を、怯えながらただ茫然とみていた。
するとピタっと動きが止まる。
「さあどうだい。世の中は色んな人が居るんだ。良く知っていると思っていた人間だって、状況次第でいくらでも変わる。先程の態度は冗談だが、九割は本気だ。君にはまだまだ学ぶべき事がある」
「あの、さっきのほぼ本気っていってませんか?」
「バカだな。日中手本になろうと努力して丁寧に話しているのに、普段から丁寧語が使えるのはサイだけなんだぞ。私の指導力の低さが分かるというものだ。一人じゃ無理!」
「それは、よくボロが出ているからじゃ……」
それに言葉以外はかなり優秀な保護者だと思うのだ。
サイはエッタとは違い、街にお使いに行く機会もある。そこで見かける子供達と院の子を比べると、彼等は色々な面で脆弱な感じがした。しかし街の子と話した事がある訳ではないので実際のところはわからないが。
「まあ私の事はどうでもいい」
ボサボサの髪のまま深く椅子に座り直し、真剣な面持ちになった。
「サイ、何故そんなに急ぐんだ。あと二年じゃないか。今は長いように感じても実際には瞬く間だ。学べるうちに出来る限り学んでおきなさい」
「…………それでは遅いんです」
「君がそう思うだけだろう? 私が聞けば、また違う答えになるかもしれない」
「…………」
「話してごらん。なんの為に私がいると思っているんだい? 私が君を知るように、君も私を知っている。どんな結論に達したとしても、私のサポートがあった方がいいだろう?」
「…………はい、先生……ごめんなさい……!」
そしてサイが全てを話した後、ロミアは院を離れる事になった。
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