断罪(?)転生聖女はやさぐれる

ゆずみそ

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「ふーん、まあいいけど。ところでお前、旅費は持ってるのか?」

 未来の話で盛り上がる二人を大人しく見ていたラダが口を挟んだ。彼は場を盛り下げる天才だとエッタは思う。

「そりゃ少しは持ってるんだろ?」
「………………えへ?」
「エ、エッタちゃん!?」
「稼ぐ当てはあるのか?」
「えへへ??」

 この街に彼女が着いてから一夜明けても、当初の問題は全く解決していなかった。金が無い。

「狩りをするか、街中で何か仕事を探そうと思ってたんだけど……」

 それを聞いた二人は難しい顔をした。

「狩りが出来るのかい? でも一人で持てる荷の量なんて限られるよ。食い扶持を稼ぐのは厳しいんじゃないかね。第一危ない」

「そうだな。それに街でも成人前の子供の仕事は取り合いだ。紹介も無しじゃな……」

 エッタの顔色はどんどん悪くなっていった。
 こっそりと神力と符呪を利用して狩りをするつもりが、知り合いを作ってしまったせいで難しくなっていた。大きな力は人の欲望を引き寄せる。その為なるべく地味に過ごしたいところだが、この街の異分子であるエッタは目立つ。売った内容が彼等に伝わり、不審に思われるのは避けたい。

 そしてやはり年齢だ。それが仕事にこれほど影響するとは思わなかった。院では小さな子でも毎日何かしらの仕事をしている。十四歳のサイなら、街へのお使いも当たり前にこなしていた。
 限定された人間関係の中で育った為に、成年と未成年の扱いの差を実感する機会が無かったのだ。
 今はっきりと分かった。就職を前に、上に偽るならともかく敢えて下の年齢に誤魔化す奴などいない! すっかり大人の女性は(多分)別として!!

 年下なら聖女とバレ難いと安易に飛び付いたばかりに、いやその前に濡れるのを嫌って飛んできたから……

 脳内での反省会に、最も重大なミス『食欲に負けなければ』は出てこなかった。一片の悔いも無かったからだ。
 一通り反省したので、次の手を考える。『行動しなければ御まんまにはありつけない』――勿論院長の言葉だ。
 
 幸い彼女には、強力な特技があった。欠点もあるので、出来れば避けたかったが致し方ない。

「あの、簡単な符呪なら出来るんだけど……ダメかな?」

「なに!?」
「なんだって!?」
 
 テーブル越しにぐいぐい詰め寄られる。

「何が出来るの? 見せて見せて!」
「なんでそんな事が出来る。お前以外にも出来る奴がいるのか!?」
「一人ずつ! 一人ずつお願い」

 勢いに押されながらも伝えると、二人はハッとしたように引いてくれた。
 ラダが咳払いをしたが、先に話し出したのはマリーだった。

「ねえねえ。どんな風にやるの? 今すぐ出来る?」
 一宿二飯の恩がある。この程度の頼みなら否やはない。むしろ見聞して仕事を紹介して欲しい。

「じゃあ、火打ち石貸してください」
「え? マッチがあるけど」
「えっ」
「え?」
 顔を見合わせたあと、エッタは不思議そうに小首を傾げた。
「………………え?」
「…………なんかゴメン」
「なにやってんだお前達は」

 見兼ねたラダが、ベルトに付いた袋から火打ち石を取り出した。受け取って、マリーに断りカマドの煤を爪に付ける。

「いや~、マッチあるなら全然意味ない符呪なんで、ちょっと焦っちゃった。後でマッチ見せてくださいね~。見たことないんで」
 軽口を叩き、煤を付け直しては爪でカリカリと石に神代文字を書いていく。それを二人が覗き込む。

「出来た!」
 立ち上がって書き込んだ石を披露した。

「汚え字だな」
 顰めっ面でラダが評した。文字は読めなくとも、符呪された道具を見る機会はある。それらと比べると大分ガタガタしているように見えた。

「効果があればいいじゃないか。ねえ、それをどう使うんだい?」

 得意気に鼻の下を擦って説明する。指に付いていた煤でエッタの顔が汚れたが、興味が優っていた二人が指摘する事は無かった。

「コレは必ず火が出るようになりました!」
「――火打ち石だろ??」
「何も変わらねえな」
「あ、ちょ、ちょっと、違うんだって、こうやって使うの!」

 再びカマドの前にしゃがみ込んで打ち合わせる。

 カッカカカン――

 すると ボボッ と音がして幾つもの小さな火の玉が出て、そして消えていった。

「どうです! まず間違いなく着火出来ますぜ」

 マリーは「おー!」と拍手してくれたが、ラダは思案顔だ。

 エッタは内心焦っていた。思っていたのと違う効果が出たからだ。
 本当は少し大きめの火の玉が一つ出る筈だった。爪で細かい作業をしたので、ハッキリした字が書けなかったのがマズかった。元々手先も不器用で、普段は神力で刻んでいるのだ。

「なあ、コレ安全性はどうなんだ」
「さっきの拍子が鍵ですぜ! あの拍子で打つとあの火の玉になるんでさあ」

 彼女は動揺で、院の子供が真似する商人の口調になっている。

「打ってる最中にも火花が出るんじゃないのか?」
「軽い力でやりゃダイジョブじゃねえですかね……。火打ち石なんで火花が出て問題ねえですぜ」
「ふ~ん……。元に戻すのは?」
「こ、こすれて消えれば……」

 背を冷や汗が伝う。吸着の符呪効果で、消えるまでに時間がかかるのは――言わなくても良いだろう。

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