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お披露目しているはずだった王子様

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 彼女は会場に入る為踏み出した足で、ドレスを踏ん付けて転んだ。
 私は思った。ピコピコを忘れてきたからだなと。勿論そんな訳はないが。

「大丈夫かい」
 手を取って立たせる。介添人が慌ててチェックするが、繊細なレースの一部が破れ、衣裳は勿論、髪型も崩れている。絶望的な表情で、何とか見られるようにしようとしているが……ここでは無理だ。

「一度着替えてくるしかないだろう」
 マックスの指示で周囲が慌ただしく動く。私は暫く待機かな。

「ミハイルは私達と一緒に先に入場だ。簡単な説明をしておこう。彼女が戻ったらエスコートすれば良い」
「了解」

 カーシャが去る前に、一瞬だけこちらを向いた。泣きそうな顔だった。

 挨拶を交わしながら婚約者を待っていると、いつの間にか斜め後ろにドレスを着たぷるぷる侍女エレーナがいた。今日は招待客として参加していたのか。まあ他に優先すべき人はまだまだ残っている。挨拶を受けた訳でもない。そのまま社交に精を出す。

「可愛らしい婚約者殿ですな」
「は?」

 話していた侯爵がおかしな事を言う。すると私の腕にそっと触れてくる者が……エレーナではないか。俯向き加減で、ぷるぷる震えている。なにをやっているんだ。

「いえ、彼女は」
「エレーナと申します。どうぞよろしくお願いします」
「ハハハ! いや、実に初々しい」
「いえそんな事は……」
 勝手に話を進めるな!
 徐々に視線が集まるのが分かる。

 焦りを隠し、侯爵を誤魔化しながら二人で会場の隅へ移動する。

「君は何を考えているんだ」
 向き合えば体を強張らせてぷるぷるする。それはもういいから!

「何故誤解されるような行動をとったんだ」
「そっその、それは……あ、…の……わたし…………」

「わたし?」

「………………あ……その……ただっ……」

 ――――我慢だミハイル。

 表情だけは優しく続きを促す。
「……………ひ…まが……って……」
 うん?
「うんうん。落ち着いて。ちゃんと聞いてるよ。大丈夫。もう一度言えるね?」

「……………………………………………おうひさまが…………」

 うん?

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