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今日も目立っています
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立っているだけで注目を浴びてしまうのは、なにも彼女が侯爵令嬢だからという訳ではない。
手元の皿にパーティー料理が山と積まれているからでもない。いや、これは理由の一つかもしれない。現在も、彼女の友人を名乗るダティという伯爵令嬢が、せっせと盛り付けているのだ。
この小さい皿にどうやってと思う程、多種多様な料理が載っている。
給仕の真似事をする皿盛り令嬢の技術が頭抜けているのは間違いないが、そんな令嬢よりも彼女が注目される理由――それは、彼女が美しいから。
「はぁ、今日もハーディ様はお美しくいらっしゃるわ」
「真珠のように輝く肌、髪は日の光のように金色輝いて……唇は食べ頃のベリーのように瑞々しいわ」
「ウエストは、いやだ私の半分しかないわ。あしらわれた宝石にも負けない、見事なスタイルねえ」
「ちょっとした動きまで白鳥のように優美で……ああ、いつまでも見ていられるわ……」
そこかしこから、賛辞の声が聞こえてくる。因みに男性からは睨め付くような視線と、仲間内での品定めのやり取りが。品定めといっても、賛美の声のみだ。
仕方がない事だ。本当に美しいものを見たのだから。
そして話題の中心であるハーディは、目の前の令嬢ダティを凄いと思っていた。腰程に持っている皿の上には、既に顎近くまで様々な料理が載せられていた。彼女の腕は、重さでプルプルしている。
「ダティさん」
彼女は声も美しい。
「はいっ、何でしょう」
キラキラした目でハーディを見た。
「私、こんなに食べられないわ」
分かりやすくショックを受けている。この令嬢は、一体何を考えているのか。ドレスを着て腹の出るまで食事をする女性はいない。そしてトイレも面倒なので、飲み物も然程取らない。
そっとテーブルの上に皿を戻そう――と思ったが、塔がグラグラと揺れるので令嬢に手渡す。
両手で受け取った彼女は身動きが取れなくなってアワアワと周りを見回しているが、自分で責任を取ってもらおう。
テーブルから離れれば、あっという間に男性陣に囲まれる。
何処かで聞いたような褒め言葉に適当に返し、夜の海を泳ぐ――――。
「で、なんだか疲れちゃって。この美貌は隠しようがないけど、もう少し息のつける時間が欲しいわ」
「………………隠せますよ」
「え?」
庭の散歩に付いてきていた侍女のジーミが言う。
「どんなに綺麗な方でも、化粧で地味に出来ますよ」
「なんですって?!」
「髪型や仕草でも可能です」
「それは私でも『普通』になれるって事?!」
「普通以下も可能です」
晴天の霹靂だ。珍獣キウイの中に紛れ込んだ白鳥並みに目立つのが当たり前で生きてきたが…………
「お願いするわ! 私を『普通』にして頂戴」
『普通以下』でなくていい。むしろ嫌だ。第一逆に目立つだろう。
「じゃあ早速試してみましょう」
「そうしましょう!」
喜び勇んで部屋へと戻るが、普通への道のりが意外と厳しい事を知るのは、そのすぐ後の事だった。
手元の皿にパーティー料理が山と積まれているからでもない。いや、これは理由の一つかもしれない。現在も、彼女の友人を名乗るダティという伯爵令嬢が、せっせと盛り付けているのだ。
この小さい皿にどうやってと思う程、多種多様な料理が載っている。
給仕の真似事をする皿盛り令嬢の技術が頭抜けているのは間違いないが、そんな令嬢よりも彼女が注目される理由――それは、彼女が美しいから。
「はぁ、今日もハーディ様はお美しくいらっしゃるわ」
「真珠のように輝く肌、髪は日の光のように金色輝いて……唇は食べ頃のベリーのように瑞々しいわ」
「ウエストは、いやだ私の半分しかないわ。あしらわれた宝石にも負けない、見事なスタイルねえ」
「ちょっとした動きまで白鳥のように優美で……ああ、いつまでも見ていられるわ……」
そこかしこから、賛辞の声が聞こえてくる。因みに男性からは睨め付くような視線と、仲間内での品定めのやり取りが。品定めといっても、賛美の声のみだ。
仕方がない事だ。本当に美しいものを見たのだから。
そして話題の中心であるハーディは、目の前の令嬢ダティを凄いと思っていた。腰程に持っている皿の上には、既に顎近くまで様々な料理が載せられていた。彼女の腕は、重さでプルプルしている。
「ダティさん」
彼女は声も美しい。
「はいっ、何でしょう」
キラキラした目でハーディを見た。
「私、こんなに食べられないわ」
分かりやすくショックを受けている。この令嬢は、一体何を考えているのか。ドレスを着て腹の出るまで食事をする女性はいない。そしてトイレも面倒なので、飲み物も然程取らない。
そっとテーブルの上に皿を戻そう――と思ったが、塔がグラグラと揺れるので令嬢に手渡す。
両手で受け取った彼女は身動きが取れなくなってアワアワと周りを見回しているが、自分で責任を取ってもらおう。
テーブルから離れれば、あっという間に男性陣に囲まれる。
何処かで聞いたような褒め言葉に適当に返し、夜の海を泳ぐ――――。
「で、なんだか疲れちゃって。この美貌は隠しようがないけど、もう少し息のつける時間が欲しいわ」
「………………隠せますよ」
「え?」
庭の散歩に付いてきていた侍女のジーミが言う。
「どんなに綺麗な方でも、化粧で地味に出来ますよ」
「なんですって?!」
「髪型や仕草でも可能です」
「それは私でも『普通』になれるって事?!」
「普通以下も可能です」
晴天の霹靂だ。珍獣キウイの中に紛れ込んだ白鳥並みに目立つのが当たり前で生きてきたが…………
「お願いするわ! 私を『普通』にして頂戴」
『普通以下』でなくていい。むしろ嫌だ。第一逆に目立つだろう。
「じゃあ早速試してみましょう」
「そうしましょう!」
喜び勇んで部屋へと戻るが、普通への道のりが意外と厳しい事を知るのは、そのすぐ後の事だった。
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