生贄少女とヴァンパイア

秋ノ桜

文字の大きさ
上 下
87 / 471

しおりを挟む
sideリラ

ルディは私を物凄い力で先まで投げた。


私は森を抜け光のあるところに転がり落ちる。


「ルディ!!」


振り返ると茶色の大きな狼は倒れていた。


私は自分が投げられた意味も考えずに走る。



けど思うように体が動かない。


体に上手く力が入らなかった。


「リラ!!止まれ!!!」


後ろから大きな声が聞こえる。


ルシアス様の声だった。


けど私はそんな事は気にせずにルディの元へ駆けた。


「ルディ!!」


ようやくルディの側に駆け寄るとまたあの嫌な音がする。

プスッ!!プスッ!!


今度は黄色の羽が私の腕に二本刺さった。


途端に視界がおかしくなった。


世界がぐるぐる回り暗くなる。


「ル……」


ルディも完全に意識がない。


どんなに揺すってもルディは起きなかった。


ルディ…

プスッ!!プスッ!!


口が麻痺してきた。


呼吸するのも苦しい。


私は耐えきれず、ルディの上に倒れていた。


体が麻痺してもまだ目だけは開けられる。


瞬きをしたら辺り一面が虹色の炎に包まれていた。


綺麗な色だ。

ずっと眺めていたいほど何度見てもルシアス様の炎は綺麗だった。


「リラ!しっかりしろ!リラ!!」


ルシアス様は相当焦ってる。

声でわかるよ。


あれ?さっきまで虹色の炎が見えていたのに今はもう何も見えない。


「ルシアス、場所を変えた方がいい。」


ライアスの声も聞こえる。


私よりもルディをどうにかして。


そう言いたくても口が動かせない。


全ての感覚を手放すように、私はいつの間にか眠りに落ちていた。


*******************

sideルディ

気持ち悪い、ぐるぐるする、


眠っていても、自分だけがぐるぐると回っているみたいだ。


「うっ……」


嫌な感じがする。

この感覚は嫌だ。

これは夢か?それとも現実なのか?


「ルディ?…ねぇ、ラルフ!ルディ起きるかも!」


ダリアの声がする。

起きるかもってことは俺寝てるの?


こんなに気分悪いのに?


「もう3日経ってるんだ、起きてもらわなきゃ困る。」


ラルフの声もはっきり聞こえた。


俺はまさか3日も寝てたのか!?


それは起きないと。

3日はヤバい。


「骨の一本や二本折れば流石に起きるだろ。」
「そうだね、私も手伝う。」

本当に起きないと!!!

今まさにラルフとダリアに永眠させられるぞ!俺!!


「おはよーっ!!!!!!」


俺は根性と気合で完全に目を覚ました。


するとびっくり、目の前にはラルフの拳がある。

コイツ本当に俺の顔殴るつもりだったのか??

何年も相棒として群を引っ張って来たのに!?

最低か!!!


「ちっ。起きたか。」

は!?さらには舌打ち!?

コイツ本気か!?

「ただならぬ殺気を感じたから起きたんだよ!!全く油断も隙もない!!」

「うるさすぎ!寝てるくらいがちょうどいいからもう一回寝かそうよ!」


ダリア、お前は何年経っても失礼だな!


目が覚めて記憶がスッと頭に廻る。



「それより、リラは?リラはどうなった??」


確か木に吊るされてるリラを助けて、リラをかなり遠くに投げ飛ばした記憶がある……


俺の問いに2人が顔を見合わせた。


「リラは、その…。」

何だよ、その感じ。

まさか……


「死んだのか?」


心拍数が上がっていく。

嫌な上がり方だ。

答えが怖い。

もしもリラに何かあったのなら、俺はどう償えばいい?


「死んではないよ…死んでないけど…。」


ダリアの顔も途端に曇った。


「まさか目が覚めてない?」


俺が聞くとダリアは頷いた。


「そっか……。」

生きてはいるんだな。

少しだけ安心できた。



「それよりお前、何であの森入った?馬鹿なのか?」


そこを突っ込まれると思ってたよ、相棒。


「それがさ、あの恐怖の森だとは気付かずに入ったんだよな。」

俺が答えたら2人は黙って拳を握りはじめた。


「待て待て待て!!落ち着けよ!!あの時は3人から逃げてたんだ、方向なんて選んで逃げてたら捕まってた。」


これは本当だった。

相手はおそらくヴァンパイアだった、方向を選ぶ余裕がない程の足の速さだったからな。


「けど本当に俺馬鹿だったな。あの連中が引いた時に気づけばよかった。」


今更反省しても遅い。

リラを傷つけた。

守りきれなかったんだ、俺は。


「待て、ちょっと待て。引いた?何のことだ?」

猛反省している俺に突っかかって来たのはラルフ。


「だから、森に逃げ込んだ時あの連中は引いたんだよ。よっぽど入りたくなかったんだろうな。」


あの森に入りたくない気持ちはよく分かる。

捕まれば酷い目に遭うから。


「そんなのおかしいよ。だってアイツら、ルシアス様に迷わず向かっていくような連中だったよ?森なんか怖がる訳ないよ。」


ダリアの言う事に納得しかできない俺。


確かに考えてみれば妙な点が多い。


「お前さっき方向を選ぶ余裕がなかったって言ったな?」

ラルフの顔は真剣そのもの。

そんな顔は久しぶりに見た。


「あぁ、なかった。」


俺は馬鹿だけどここまで来たらさすがにわかる。


「でも、今になって考えたら俺はあの森にさりげなく追い込まれていた。」


よく思い出してみたらあの連中は狩の陣形だった。

怪我をして必死に逃げていた俺はそれに気がつかなかった。

完全に俺のミスだ。


「だろうな、このことを伝えてくる。お前はもう少し寝てろ。」

「あ、待って!私もいく!」


2人は俺の返事を聞くことなく出て行った。


別に構ってとか、心配してとかは言わないけどさ……


「普通、病人置いてけぼりにするか??」


俺はいまだにお前らがわからないよ。


まだ気持ち悪い。


少し寝てから合流するか。

こんなんじゃまともに走れない。


目を閉じてもう一度寝転がって森でのことを思い返す。


俺は確実に追い込まれた。

その後のことをよく思い出せ。


あのルシアスに歯向かう奴らだ。

ダリアの言う通り森なんか怖がる訳ない。


よく思い出せよ、俺。


何か森の中で違和感を感じただろ。


何か引っかかってたはずだ。


ダメだ思い出せない。


いや、落ち着いて最初から思い出そう。


あの時俺は森まで逃げ込んで、危うくリラに全裸を晒すところだった。

それをなんとか回避して、確か変な羽が首に刺さってたな。

リラが羽の色が珍しいとかなんとか呑気なこと言ってて、それから倒れてなんか見た気がする……


「っ!!!」


思い出した!

違和感の正体はこれだ!!


俺はある人物を見た。


それなりにいい服を着た顔に傷のある男だ。

林の影に隠れて確かに俺たちを見ていた奴がいた。


もしかしたら何か関係があるかもしれない。



寝てる場合じゃない!


俺は飛び起きてラルフとダリアの後を追った。


しおりを挟む

処理中です...