88 / 471
親友の涙
しおりを挟む
sideルシアス
「そうか、やっぱりアイツは簡単にくたばらんな。」
睡眠作用のある毒矢をあれだけの食らっても3日経てば目を覚ますとは。
「おそらく毒の免疫があったんだろ。アイツは2回目だからな。」
ラルフは淡々と答える。
取り乱さないところがお前の長所だ、この年にしては落ち着きがある。
「免疫があったとしても、呼吸困難になって死んでもおかしくない毒の量だ。」
かなりの生命力だな。
「それよりリラは?」
ラルフはチラッと二階を見た。
「ダリアが騒いでないってことはまだ寝てるって事だろうな。」
きっと、目の前でリラが目を覚ませばお祭り騒ぎになるに決まってる。
「そうか。連れて帰らないのか?」
リラはあの日からライアスの屋敷で匿っていた。
今回リラを狙ったのは俺らの父親だ。
あの強欲な男はおそらくリラの正体に辿り着きつつある。
その辺の敵ならともかく、全権力から守らないといけない。
そう考えたら、俺の家より人手の多いここの方が安全だった。
「もう少し様子見してからだ。人手が多い所じゃないと匿えない。」
この騒動が収まればもちろん連れて帰る。
ずっとここに置いておく気は毛頭ない。
「あぁ、肝心なことを言い忘れていた。ルディの事だ。さっき話を聞いたら妙なことを言っていた。」
妙なこと?
「なんだ?」
アイツはまともなこと言ってる方が珍しい気がするが?
「あの森に入った途端、連中はルディとリラを追うのをやめたらしい。考えすぎかもしれないが、意図的に追い込まれたのなら何か裏があるだろう。」
追い込まれた、か。
「で?ルディはどう思ってるんだ?追われていた本人が1番よくわかるだろ。」
俺がそう言うと、いきなり部屋のドアが開いた。
噂をすればだな。
「ちょうど今お前の話をしてた。」
ルディ、さっき目が覚めてもう動けるとは。
本当にその生命力には感心する。
「知ってるよ。それにあの連中のことは俺が話した方がいいと思って来た。」
目が覚めたら途端に賢くなってるじゃないか。
これから定期的にあの毒矢を打った方がいいんじゃないか?
「話してみろ。」
ちゃんと聞いてやる。
リラに関係のあることだしな。
「まず今回のことはリラが狙われたのは間違いない。俺は逃げているうちにあの森に追い込まれた。森に入ってからも不自然な点がいくつもある。」
ただで捕まった訳じゃないらしいな。
「洗いざらい全て話せ。」
事によってはリラを遠くへ逃さないといけないかもしれない。
「まずおかしな点は俺が血抜きされてない事。吊るされはしたけど、普通どんなバカでもデカい方から弱らせるだろ。それともう一つはリラの手の斬り方が甘かった事。あんな切り方じゃ出る血なんてたかが知れてる。まるで生かしておきたいみたいだった。それと…これは俺の見間違いかも知れないけど、変な男がいた。」
話を聞けば聞くほど状況はよくない。
「どんな男だ?」
あの男だけでないことを願う。
もしもあの男なら今すぐにでもリラ遠くにやらないと。
「灰色の髪で左頬に3本線の傷がある奴。でも一瞬で消えたから俺の幻覚かもしれない。」
あぁ…ダメだ。
あの男だ……。
今すぐにリラを逃さねぇと。
今回は完全にしてやられた。
おそらく国王はリラの存在に気付いている。
俺が拷問した奴は完全に劣りだった。
俺とライアスが違う事に目を向けている隙に、あの男はリラの血を国王に届けたんだろう。
国王は禁断の果実の味を知っている。
きっともうリラが何者かは分かったはずだ。
どうして気がつかなかった…
この3日間を完全に無駄にした。
「ルディ、ラルフ、お前ら今すぐこの国を出ろ。もちろんダリアも連れて行け、家には絶対に帰るな、金とその他諸々は俺が用意する。」
今回のことに巻き込まれたルディは特に消されやすい。
あの状況でリラと一緒にいてさらにあの男の存在まで知ってしまった。
直前まで一緒にいたダリアとラルフも消されるだろう。
「なんで?」
ラルフは冷静に俺に聞いた。
「そうだよ!そうやってリラ独り占めする気かよ!」
このルディの馬鹿はさっきまで賢かったと思ったが俺の間違いだ。
「いいか、よく聞け。単刀直入に言うぞ。お前らの味方は今この屋敷にいる奴だけだ。誰も信用するな、お前らは今この国の秘密を唯一知る奴らだ。もちろんそんなガキ3人を殺すのなんて簡単なんだ、分かったらさっさとダリア連れてこい。」
俺がどんなに丁寧に説明しても…
「え、俺そんな秘密いつ知った?」
ルディには関係ない。
「後は俺に任せてくれ、話はわかった。」
ラルフは本当に頭が切れる。
これなら大丈夫だ、狙われても逃げ切れる。
「あぁ、頼んだぞ。」
俺はとりあえず、ライアスにこのことを話すか。
・
・
・
「ライアス。」
リラのいる部屋にライアスとダリアがいた。
「ルシアス様…。」
リラは相変わらず眠っていた。
「ダリア、今の話聞こえてたよな?」
ダリアは俯いて頷いた。
「ルディとラルフとしばらく身を隠します。でも一つだけ教えてください。…どうしてリラちゃんなんですか?」
ダリアの目からは涙が一つ溢れた。
「どうして…?なんでリラちゃんが?こんなにいい子がどうして…?」
もう気付いていたか。
そりゃそうだ、俺らの次に一緒にいるのはお前だからな。
「いつ気付いた?」
ダリアは顔を上げた。
「リラちゃんが前に言ったんです、私はライアス様の餌になるつもりだって。その時から何となく……」
「気付いていて黙っていてくれたの?」
ライアスがダリアに聞いた。
ダリアは声にならないらしく一度頷いた。
「殺さないでください、私の友達なんです。私の大切な親友なんです。」
ダリアの目から数え切れないほどの涙が溢れた。
「ライアス様、王になりたいですか?リラちゃんを殺してまでそんなくだらないものになりたいですか?」
今までここまでライアスを貶した女を見たことがない。
むしろもっと言ってくれ、俺が許す。
「王にはなりたいよ。でも、リラを殺さないとなれないようなくだらない王になる気はない。」
ライアスはそう言って眠っているリラの頭を撫でた。
「安心して、ダリア。僕はリラを殺す気なんて微塵もないよ。それより早く逃げた方がいい。リラが起きた時に、君に何かあれば逆に僕がリラに殺されかねない。リラは怒ると怖いからね。」
ライアスがそう言うと、ダリアは少し笑った。
「そうですね……リラちゃんのためにも私は身を隠します。ライアス様、ルシアス様、どうかリラちゃんを守ってください。約束ですよ。」
ダリアの真剣な眼差しに俺たちは頷いた。
「そうか、やっぱりアイツは簡単にくたばらんな。」
睡眠作用のある毒矢をあれだけの食らっても3日経てば目を覚ますとは。
「おそらく毒の免疫があったんだろ。アイツは2回目だからな。」
ラルフは淡々と答える。
取り乱さないところがお前の長所だ、この年にしては落ち着きがある。
「免疫があったとしても、呼吸困難になって死んでもおかしくない毒の量だ。」
かなりの生命力だな。
「それよりリラは?」
ラルフはチラッと二階を見た。
「ダリアが騒いでないってことはまだ寝てるって事だろうな。」
きっと、目の前でリラが目を覚ませばお祭り騒ぎになるに決まってる。
「そうか。連れて帰らないのか?」
リラはあの日からライアスの屋敷で匿っていた。
今回リラを狙ったのは俺らの父親だ。
あの強欲な男はおそらくリラの正体に辿り着きつつある。
その辺の敵ならともかく、全権力から守らないといけない。
そう考えたら、俺の家より人手の多いここの方が安全だった。
「もう少し様子見してからだ。人手が多い所じゃないと匿えない。」
この騒動が収まればもちろん連れて帰る。
ずっとここに置いておく気は毛頭ない。
「あぁ、肝心なことを言い忘れていた。ルディの事だ。さっき話を聞いたら妙なことを言っていた。」
妙なこと?
「なんだ?」
アイツはまともなこと言ってる方が珍しい気がするが?
「あの森に入った途端、連中はルディとリラを追うのをやめたらしい。考えすぎかもしれないが、意図的に追い込まれたのなら何か裏があるだろう。」
追い込まれた、か。
「で?ルディはどう思ってるんだ?追われていた本人が1番よくわかるだろ。」
俺がそう言うと、いきなり部屋のドアが開いた。
噂をすればだな。
「ちょうど今お前の話をしてた。」
ルディ、さっき目が覚めてもう動けるとは。
本当にその生命力には感心する。
「知ってるよ。それにあの連中のことは俺が話した方がいいと思って来た。」
目が覚めたら途端に賢くなってるじゃないか。
これから定期的にあの毒矢を打った方がいいんじゃないか?
「話してみろ。」
ちゃんと聞いてやる。
リラに関係のあることだしな。
「まず今回のことはリラが狙われたのは間違いない。俺は逃げているうちにあの森に追い込まれた。森に入ってからも不自然な点がいくつもある。」
ただで捕まった訳じゃないらしいな。
「洗いざらい全て話せ。」
事によってはリラを遠くへ逃さないといけないかもしれない。
「まずおかしな点は俺が血抜きされてない事。吊るされはしたけど、普通どんなバカでもデカい方から弱らせるだろ。それともう一つはリラの手の斬り方が甘かった事。あんな切り方じゃ出る血なんてたかが知れてる。まるで生かしておきたいみたいだった。それと…これは俺の見間違いかも知れないけど、変な男がいた。」
話を聞けば聞くほど状況はよくない。
「どんな男だ?」
あの男だけでないことを願う。
もしもあの男なら今すぐにでもリラ遠くにやらないと。
「灰色の髪で左頬に3本線の傷がある奴。でも一瞬で消えたから俺の幻覚かもしれない。」
あぁ…ダメだ。
あの男だ……。
今すぐにリラを逃さねぇと。
今回は完全にしてやられた。
おそらく国王はリラの存在に気付いている。
俺が拷問した奴は完全に劣りだった。
俺とライアスが違う事に目を向けている隙に、あの男はリラの血を国王に届けたんだろう。
国王は禁断の果実の味を知っている。
きっともうリラが何者かは分かったはずだ。
どうして気がつかなかった…
この3日間を完全に無駄にした。
「ルディ、ラルフ、お前ら今すぐこの国を出ろ。もちろんダリアも連れて行け、家には絶対に帰るな、金とその他諸々は俺が用意する。」
今回のことに巻き込まれたルディは特に消されやすい。
あの状況でリラと一緒にいてさらにあの男の存在まで知ってしまった。
直前まで一緒にいたダリアとラルフも消されるだろう。
「なんで?」
ラルフは冷静に俺に聞いた。
「そうだよ!そうやってリラ独り占めする気かよ!」
このルディの馬鹿はさっきまで賢かったと思ったが俺の間違いだ。
「いいか、よく聞け。単刀直入に言うぞ。お前らの味方は今この屋敷にいる奴だけだ。誰も信用するな、お前らは今この国の秘密を唯一知る奴らだ。もちろんそんなガキ3人を殺すのなんて簡単なんだ、分かったらさっさとダリア連れてこい。」
俺がどんなに丁寧に説明しても…
「え、俺そんな秘密いつ知った?」
ルディには関係ない。
「後は俺に任せてくれ、話はわかった。」
ラルフは本当に頭が切れる。
これなら大丈夫だ、狙われても逃げ切れる。
「あぁ、頼んだぞ。」
俺はとりあえず、ライアスにこのことを話すか。
・
・
・
「ライアス。」
リラのいる部屋にライアスとダリアがいた。
「ルシアス様…。」
リラは相変わらず眠っていた。
「ダリア、今の話聞こえてたよな?」
ダリアは俯いて頷いた。
「ルディとラルフとしばらく身を隠します。でも一つだけ教えてください。…どうしてリラちゃんなんですか?」
ダリアの目からは涙が一つ溢れた。
「どうして…?なんでリラちゃんが?こんなにいい子がどうして…?」
もう気付いていたか。
そりゃそうだ、俺らの次に一緒にいるのはお前だからな。
「いつ気付いた?」
ダリアは顔を上げた。
「リラちゃんが前に言ったんです、私はライアス様の餌になるつもりだって。その時から何となく……」
「気付いていて黙っていてくれたの?」
ライアスがダリアに聞いた。
ダリアは声にならないらしく一度頷いた。
「殺さないでください、私の友達なんです。私の大切な親友なんです。」
ダリアの目から数え切れないほどの涙が溢れた。
「ライアス様、王になりたいですか?リラちゃんを殺してまでそんなくだらないものになりたいですか?」
今までここまでライアスを貶した女を見たことがない。
むしろもっと言ってくれ、俺が許す。
「王にはなりたいよ。でも、リラを殺さないとなれないようなくだらない王になる気はない。」
ライアスはそう言って眠っているリラの頭を撫でた。
「安心して、ダリア。僕はリラを殺す気なんて微塵もないよ。それより早く逃げた方がいい。リラが起きた時に、君に何かあれば逆に僕がリラに殺されかねない。リラは怒ると怖いからね。」
ライアスがそう言うと、ダリアは少し笑った。
「そうですね……リラちゃんのためにも私は身を隠します。ライアス様、ルシアス様、どうかリラちゃんを守ってください。約束ですよ。」
ダリアの真剣な眼差しに俺たちは頷いた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
58
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる