生贄少女とヴァンパイア

秋ノ桜

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取引

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sideライアス


「っ…」


こんなに血を流すのは珍しい。


顔から頭からものすごい血が垂れてくる。


左足が折れていて右肩も外れてる、もうボロボロだ。

だけどそれは相手も同じ。

僕ら2人は大怪我をしたけど、何とか王を押さえ込んでいた。

「いいか….?いつまでもくだらねぇ玉座に座りたけりゃ、アイツに手を出すな、今日生かしてやるのはアイツの手切金みたいなもんだからな?」


ルシアスも頭と顔を血だらけにしている。

そこらかしこの骨が折れているだろうに、ルシアスは王の髪を掴み上げていた。


いくら王でも2対1はキツかったみたいだね。


「お前、なんか言うことあるか?」


ルシアスは僕に振った。

そうだね、言いたいことはそれなりに言わせてもらったと思うけど最後に一言くらい言っておこうか。


「僕は、必ず王座に着く。だから、二度とあの子に手を出さないようにね?あの子の命はお前の命も同然。長生きしたければ関わるな。」


これくらいかな。


僕らが言いたいことを言い終わったら、王の間の扉が激しく開かれた。


そこにいるのはシャドウ達。


ざっと10人はいる。


「チッ、面倒なのが湧いてきた。」


ルシアスの言う通り、今は面倒だね。

シャドウの1番の腕利き、アルテが出てきた。

僕らは怪我をしていて分が悪い。


「ルシアス王子、その手をお離しにならないのであればそのお命、このアルテが頂戴いたします。」


ルシアスはアルテを鼻で笑い、王を床に放り投げた。


「そう吠えるな、こいつはちゃんと返してやる。」


ルシアスの行動にシャドウのメンバーがざわついた。


*******************

sideアルテ

ルシアス王子が陛下を床に転がした直後、俺の左右に恐ろしい気配が過ぎる。


強者の気配だ。


「そう言えばアルテ。この間は僕の可愛い連れが世話になったね?」


左耳の近くでライアス王子が俺に囁いた。


「取引をしようか。」


ライアス王子が悪魔のような笑みを浮かべる。


ライアス王子の化けの皮はかなり分厚かったようだ。

こんな顔は見たことがない。


「もちろんするよな?しなけりゃバカだ。」

俺のすぐ右隣にはルシアス王子がいて、いつの間にか首を掴まれていた。


「今、王と君達の命を握っているのは僕たちだ。今回は見逃してあげる上にあの森での出来事も忘れるよ。だから、もう二度とあの子に干渉するな。」


人間などに味方するとは。


ご兄弟揃って狂っている。


「禁断の果実を側に置く王族など、誰が信用するでしょうか?」

口約束だけでは到底信用できない。


今逃せばあの禁断の果実を喰らい明日にでも攻めてくるかもしれない。


「信用なら僕らもしていないよ。今ここで口約束だけして帰ってもお前達は僕らを殺しにくるかもしれない。そんな事は分かった上での取引だよ。」


「仰っている意味が分かりません。」

分かっているならなぜそんな上っ面だけの取引をする?


「互いにリスクがあるってことだ。この取引に応じなければまた俺らは面倒ごとに巻き込まれるわ逃亡生活強いられるわ、とにかく最悪だ。でもお前らはこの首が繋がっている上に手出ししなけりゃ元の生活に戻れる。」


ルシアス王子は喋りながら俺の首をグッと絞めた。


「互いにリスクはデカいが、うまくやればそれぞれの守りたいものを確実に守れる。どうする?」


ルシアス王子は選択肢を与えているようで与えていない。


爪が食い込み、俺の首から血が垂れた。


「何を迷うことがあるの?前回から今回のことまで水に流すだけだよ?僕達は優しいからね。」


ライアス王子は悪魔の顔を捨ていつもの作り笑いを浮かべていた。


どうする…。


今ここで下手なことをすれば俺は死ぬ。

運良く生き残っても致命傷だ。

そうなれば、俺の部下も殺される。

この2人には太刀打ちできない、王も死んでしまう。


だったら殺さないと言うこの薄っぺらい条件を互いに飲んで、体制を整えた方が俺たちは有利だ。


幸い、王も生きている。


今は王の救護が最優先、死なせるわけにはいかない。


「分かりました、今日のところはその条件を飲ませていただきます。このままお帰りください。」


俺がそう言うと、ルシアス王子は意外にも俺の首をパッと離した。


「懸命な判断だ、アルテ。」

隣を通り過ぎる時に、ルシアス王子は俺の方をポンポンと叩く。


根負けしたような気もするが、今はいい。



「直ちに王の治療に当たり、客人を返せ。」


束の間の平和を利用させてもらおう。
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