生贄少女とヴァンパイア

秋ノ桜

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偽物さん

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sideリラ

「自己紹介お願いします、偽物さん。」

キジャさんはそう言いながら私を背に隠した。


「キジャ、お前何言ってるんだ?おかしいぞ。」


ルルドさんは本当に困ってる。


「キジャさん、どうしたんですか、本当に。」

こんな時に冗談なんて洒落にならない。


「どう考えても匂いが違う、クセも表情の作り方も何もかも。お前、そこの通路から出てきた時俺に少し笑いかけただろ?ルルドが俺に笑いかける事なんてまずない。」


え?判断基準そこ??

ルルドさん、普段どれだけ無愛想なの??



「見ていて無愛想な奴だとは思っていたが、まさかそこまでとはな。」



ルルドさんの表情がガラッと変わる。


その変わりようには不気味さを覚えた。


「あぁ、ご名答だ。ヴァンパイアのお坊ちゃん。大人しくこちらへ渡してくれないか?怪我はさせたくない。」


キジャさんが一歩下がったから私も合わせて一歩下がる。


空気が凍っているように冷たい。


「やっぱり偽物か。ルルドは?殺したのか?」


キジャさんは剣を抜き、偽物に向ける。


「殺してない。けど、ここに来れるような状態ではないな。」


この偽物はルルドさんに何をしたんだろう。

嫌な想像しかできない。


「へぇ、それなら気合入れないとねー。」


偽ルルドさんの顔から笑みが消えた。


「お手並み拝見といこうか。」


私が緊張していると、目の前から急にキジャさんが消えた。


「悪くはない、が…」

「っ!!!」

「まだまだ甘い。」

「うっ!!!」


キジャさんの剣は偽ルルドさんには届かず、跳ね返されてしまった。


キジャさんが吹っ飛ばされて私の真横を通り過ぎる。

「キジャさん!!」

私が駆け寄ろうとしたら…


「っ!!」


偽ルルドさんが私の右腕を掴み上げた。


「待て、少し落ち着け。」

「嫌!!離して!!!」


私が大暴れしているのに、偽ルルドさんの手は緩まない。


「暴れるな、怪我するぞ?」


何言ってんのよ!!コイツ!!


「離して!!」


もう片方の手で偽ルルドさんの胸を殴る。

かなり強い一撃だと思ったけど、全く効いていない。


「いいからついて来い。お前はここにいたら殺される。」

え??


「リラ!!走れ!!」


上から声が聞こえた。


何かと思えば、傷だらけのキジャさんが空中で剣を構えている。



「ちっ。」


偽ルルドさんは舌打ちをして私を思い切り押して、自身も後方に飛び退いた。


私は地面に転がって状況がよく理解できていない。


けど、キジャさんに走れと言われた。

それはきっと私1人で逃げろということ。

私がここにいたら足手まといになるのは目に見えてる。


それならキジャさんが戦いやすいように私は視界から消えていたほうがいい。


「後で必ず保護する!今は逃げろ!」


やっぱりそう言うことだ。


「はい!」


今は逃げよう、邪魔にならないように。


私は全速力でこの場を離れて、城外の森へ逃げ込んだ。


*******************

sideキジャ

とりあえずリラは場外に逃した。

後は俺がこいつを倒すか、それが無理なら引き止めて時間を稼がないと。

団長たちもそろそろ終わる頃だから、きっとすぐにこっちに合流できるだろう。


「悪いがお前に構っている暇はない。」


偽物はそう言うと、目の前に手を翳し何かを唱え始めた。

すると俺の少し前におかしな光の割れ目が入る。

空間魔法だ、何か来る!

飛び退いて距離を取ると、その割れ目から手が出てきた。


「おいおいおい、マジか。」

その手は随分と見覚えがある。

さらにその捩れた空間を無理矢理広げるようにもう片方の手と頭が出てきた。


これは厄介だ。

まさか相手がを出してくるなんて。


「こっちに来れる状態じゃないって言ってたよな…。」


普通に血だらけのルルド出てきたけど…。 


「あぁ、もちろん自分来れる状態じゃない。」


なるほど。

操ってる訳だ。

 
本物のルルドを見るとかなり出血してる。


相当弱らせてから催眠状態にしたってことか。


気絶させるか催眠を解かないとルルドの命が危ないな。


くそ….俺は1秒でも早くリラを追わないといけないのに。


「楽しそうなことをしているね。」


いきなり背後からした声に驚き振り向いた。


「ライアス様……」

顔と頭は血だらけ、関節の向きはおかしい。


「僕の騎士に酷いことをするのはやめてもらいたいね。」


ライアス様が自分で関節の位置を元に戻すと、一瞬で団長も現れた。

「リラは?」

団長は俺に聞いた。


「森の中に逃しました。」


一言だけで全てを理解して、森へ駆ける団長。


次に視線をルルドに戻したけど…


「あれ?」

ルルドは?


「あまり動かさない方がいいね、かなり出血している。」


驚くことに、ライアス様はルルドを既に取り返して気絶させていた。

今の一瞬の間に?

やっぱり速さが尋常じゃない、さすがは王族だ。

足元にも及ばない……


あれ?偽物のルルドの方も既に消えている。



「ルルドに治癒魔法を使うから手伝ってくれる?」


呆然とする俺にライアス様が話しかけた。


「はい…。」


俺、役に立ってんのかね……。
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