生贄少女とヴァンパイア

秋ノ桜

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迷子

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sideリラ

夜の森は怖い。


暗くて前がよく見えないし、フクロウの鳴き声も不気味だ。


「っ…はぁ…はぁ…はぁ…」


息が続かない、キツい…


1人だからしっかりしないと。


自分の身は自分で守らなくちゃいけないのに。

ガサガサガサッ!!


「っ!!」


私は目の前からした音に足を止めた。


明らかに何か来る音だ。

まさか追手?

でもそんなはずはない、キジャさんが引き止めていてくれていたから。


じゃあ何が来るの…?


「ひっ…」


こんな時に冗談じゃない。


「く…クマ?」


私の目の前には大きなクマが現れた。


これには何があっても勝てない。


大丈夫、冷静になって、泣いちゃダメ。


冷静に、落ち着いて、絶対切り抜けられる。


私は何度も自分に言い聞かせて、ゆっくりと後ろに下がった。

幸い、クマも興奮状態ではない。

大丈夫、このままゆっくり変な動きをせずに距離を取ればいい。


かなり時間をかけてゆっくり動いて、クマの視線から逃げ切る事ができた。


クマの視線から外れた途端、私は信じられないくらいの勢いで駆け出す。

恐怖が爆発していた。


心臓の音が頭の中で響くみたいだった。


「はぁ、はぁ…はぁ…」


さらにどこを走っているかもわからない。


来た道を戻っている?

それとも進んでる?


わかんない…!


私どっちに走ったの?

この方向であってる?


どうしよ…!


泣いちゃダメなのに!


泣いたら前が見えない!


泣くな!こんな事で泣いてたらいつまで経っても私は弱いままだ!


涙を拭って走っていたら…

ドン!!
「うっ!」


何かにぶつかった。

結構硬い何かだ。


その硬い何かは私の方をガッチリ掴み転ばないようにしてくれていた。


目を開けると……

「まさか自分から来てくれるとはな。」


知らない男の人がいる。

白い短髪に、青いピアス、紫色の瞳、背はルシアス様くらい?


しかもこの声すごく聞き覚えがある…なんで?


「や…やだ…」


私のか細い声を聞いて男は笑った。


「俺は何もしていない。」


まだってことは絶対何かする気だ。


逃げなきゃ。


私は男を突き放した後、背を向けて走り出した。


もう私には逃げるしか生き延びる方法がない。


生き延びないとルシアス様に会えなくなる。


死んだらもう二度と会えない。


…ルシアス様、大丈夫かな。

もしも…

いや、だめよ、こんな時に弱気になるなんて。


ルシアス様は絶対に生きているし、私だって生き延びる。



絶対、そうに決まってるんだから。


大丈夫、キジャさんが後で必ず保護すると言っていた。

きっとキジャさんは強いから必ず来てくれる。


「リラ!!!聞こえたら返事しろ!!」


聞こえたのは意外な人物の声。


だけど私が心底望んでいた声でもあった。


「ルシアス様ー!!!」


早く来て、私だけじゃ逃げきれない、私なんかじゃ勝てないよ…。


私の叫び声はちゃんと届いているの?


「ゔっ!!」


いつの間に追いつかれたのか、私はさっきの男に首を掴まれていた。


「どうするかは自分で決めろ。」


それだけ囁いた男は私の首を掴んでいる手に力を込めた。


異様なまでに首の後ろが熱い…

「あ゛っ…つい……!!!」


首は締まるし、熱いし、気分が悪い…!



「リラ!」


私が抵抗できずにいたらルシアス様が現れた。


「リラに触るな!!」


怒声が聞こえたと思ったら、ルシアス様が一瞬で目の前に来て私を取り返す。


「っ!」

「逃げ足の早い奴だ。」


ルシアス様はどうやら取り逃したらしい。


「ルシアス様……」


もうあの男はいない。


私達、2人だけだ。


「大丈夫か?怪我は?何かされたか?」

ルシアス様は心配そうに私の顔を覗き込む。
  

「大丈夫です、ルシアス様は?血がたくさん出て…」


ルシアス様は顔中血だらけだ。


「俺は大丈夫だから泣くな、そんな顔されたらたまらない。」


ルシアス様はそう言って私を抱きしめてくれた。


「大丈夫、何もかも終わった。これで国中から命を狙われることはまずない。しばらくは安心して暮らせるから、帰ったら好きなことさせてやるよ。」


私は嬉しさとか安堵とか愛しさとかが溢れかえってルシアス様にしがみついた。


「一緒にいたいです…ルシアス様と、一緒に…それだけでいい…それだけで幸せです。」


心の中の恐怖が解けて愛しさに変わって行く。


こんなに温かい気持ちを抱くのは初めてだ。


「あぁ、ずっと一緒にいてやるよ。」

結局私はルシアス様がそばにいてくれたらどんな状況でも幸せを感じれるらしい。


「とりあえず合流するか。多分、向こうも終わってる頃だ。」


ルシアス様に抱きしめられないのは名残惜しいけど、キジャさんが怪我をしていないか気になる。


「はい。」


私が返事をすると、ルシアス様が私を抱き上げて一気にみんながいるところへ連れて行ってくれた。
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