生贄少女とヴァンパイア

秋ノ桜

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水音

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sideライアス

リラを連れて子の家に帰るのはかなり久々だ。


いつもの場所じゃないから、ソワソワしたり落ち着きがなくなったりするかもと道中心配したけど…


「リラ、帰っていきなり…」


僕の首に噛み付いてきた。


「全く…勝手に噛み付いたらいけないよ。」


僕がリラを離そうとしても、リラは頑なに離れない。


僕の腰に足を絡めてしがみつき、後ろ髪を荒々しく掴まれている。



いつになっても変わらないね、この足は。


前までは僕がリラの血をもらっていたけど今は逆だ。


因果応報かな。


「んっんく……ん…」


相当お腹が空いていたみたいだ。



僕の血をたくさん飲んで自我を取り戻せるならそれは構わないけど。


「っ…リラ…/////」


明らかに、毒の強さが増してる。


誰かに噛まれるとこんな風になるんだ…


初めて人に噛ませたからわからなかった。


この毒は危険だね。


2人きりで部屋にいるのはまずいかもしれない。


僕の理性が飛んでしまいそうだ。


「リラ……」


僕だって男だ。


こんな抱きつかれ方をされた上に、体が喜ぶ毒まで回されて、僕だってきついよ。


もう一つのことしか考えられない。


頭がクラクラする。


甘い痺れが全身に回って、頭までおかしくなる。


体温が上がってきた。

 

「リラ……」


気が付けば僕はリラをベッドに押し倒していた。



「あぁ……本当、これじゃあ間男になっちゃうね。」


僕に押し倒されて、リラは驚いたのか僕の首から牙を抜く。


僕の血で汚れた口元から見えるのは幼い牙。


「可愛い牙だね。」


牙だけじゃなくて、全部可愛いけど。


顔も声も仕草も全部。


そしてその全部が僕のものになってしまえばいいのに。



抱きたい。


そんな思いがジリジリと僕を焼くように攻め立てる。


僕がいろいろと葛藤しているのも知らずに、リラは僕の頬に触れてきた。


小さい手だね…これも欲しい。


「リラ……」


今のリラを抱くのは簡単なことだ。


リラに今まともな理性はないし、ヴァンパイアになったにしても僕の方が何倍も力は強い。


僕がその気になれば簡単に犯すことはできる。


でもそれをしないのは…



「愛してるよ、リラ。」



誰よりも大切だからだ。


自我が目覚めた時に、憎まれるのは嫌だしね。


どうせ抱くなら全てはっきりした時じゃないと。


曖昧になんてさせないよ。


あの時は理性がなかったとか、自我がなかったとか、そんな言い訳で逃げられたらたまらないからね。



「ふふ/////」


そうは言っても…脅威的だね、その笑顔は。



今の考えが全部吹っ飛びそうなくらい、リラの笑った顔が可愛い。


リラが笑うたびに僕は切なくなる。


本当に好きで仕方ない、そう思い知らされるからだ。


「リラ…」


偽物だったけど、僕に愛を向けてくれたことは本当に嬉しかった。


あの時たくさん言っておけばよかったのに。


僕は本物の馬鹿だ。


「愛してるよ。」


************************

sideリラ

「愛してるよ。」



その言葉はそんなに悲しいものだった?


もっといい言葉だった気がする。


もっと、暖かくなる言葉だった気がするのに。


私にはよくわからない。


分からないけど、ライアスは悲しそう。


可哀想に。


痛かったのかな?


私が噛み付いたから、それで悲しいの?

 
髪を引っ張ってごめんね、優しく噛めなくてごめんね。


ライアスの首筋にをする。


「リラは本当に優しいね。僕はすぐ治るから平気なのに。」


ライアスは難しいことを言ってる気がする。


それでも私はライアスが大好き。


「ふふ//////」


だって、こうしてギュッとくっついていたら暖かい。



ずっとずっと前からそうだった気がする。


これもよく分からないけど。


*******************

sideライアス

リラは僕に抱きついたまま寝落ちしてしまう。

どこまでも僕を置いていく天才だね。


リラの口元を綺麗にして、僕もリラを抱きしめたまま寝転がった。


小さくて暖かい。

ずっとこうしていたい……











ポタッ….ポタッ……


おかしな音で目が覚めた。


そこで自分が深い眠りについていたと知る。


「よくも……私の……果実を………」


フードを被った女が立っていた。


「この女は私のために死ぬはずだったのに!!!」


ただ泣いているだけじゃない。


血を流しながら泣いている。


僕の屋敷に張り巡らされた罠にかかってきたらしい。


本当はルシアス用だったのに。


でも、あの罠を掻い潜ってこんなに元気ならこの女も相当な手練れ。


リラを見て果実と呼ぶとこらからして、当てはまるのは1人。


「こんばんは、タランテラ。」


まさかこんな所で会えるとはね。


その見た目からして300歳超えには見えない。


綺麗な金髪に赤い瞳。


その赤い瞳からは狂気が滲み出ている。


「君を殺したくて殺したくてたまらなかったよ。」


僕の言葉にタランテラの目がぎょろっと動く。


「私を殺す…?何を言っているの?生意気な男ね?」


カッとなりやすい性格みたいだね。

それよりもリラ…こんな状況で寝ていられるなんて、僕はリラの呑気さが1番怖いよ。


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