生贄少女とヴァンパイア

秋ノ桜

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ヤケ

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sideルシアス

追い詰められてこそ、獣は本性をむき出しにするものだ。



俺とライアスの炎の攻撃はアイツにとっては厄介なものらしい。


残念ながら全部避けられているけどな。


裏を返せばそれ程食らいたくないってことだ。


「ライアス!!」

「分かってる。」



何年ぶりだ?

これは小さい時によくやっていた狩に似ている。


基本は二段攻撃で、俺が獲物に直接攻撃をし、ライアスが獲物の追い込みをしていた。


まさか自分の父親を狩ることになるとは思っていなかったけどな。


俺が再び連続で攻撃をして、ライアスがアイツの逃げ場を無くすように嫌な攻撃をする。


キジャとルルドは度々くる薔薇の攻撃を防いでくれた。


「くそっ!!デカい図体してるくせにちょこまかと!!」


圧倒的に動きが速い。


同じヴァンパイアなのに速さに追いつけないなんて。


禁断の果実の力は異常だ。


「ルシアス、当たらなければその攻撃は意味ないぞ。」
「っ!!」



突然目の前に現れた男に反応ができない。


ただひたすら、狂気に溺れた目が俺の目を覗き込んでいる。



「この程度で俺に挑むなんてバカも大概にしろ。」


掴まれた腕がびくともしない。


「くっ!!」


殴ろうと力を入れても結果は同じ。


もう片方の手が俺の首をガッチリ掴む。


「ぅっ…!!!」


どんな馬鹿力だよ、コイツは!


息ができない、このままだと窒息させられる。


いや、この馬鹿力だ。


首の骨を折られる方が早い。



まずい。


この感覚は久しぶりだ。





死ぬかもしれない。




******************

sideリラ


私たちは必死に戦っていた。


アルテが呼び寄せた騎士たちはほぼ制圧したけど、肝心のアルテ自身はまだ。


アルテは格が違う。


「全員、近くに!」


ルディに呼ばれて私たち4人は固まって集合する。


「やることは全部やった、残念ながら歯が立たない。攻撃を分散させても俺らの体力を削るだけだ。」


ルディの見立ては正しかった。


たしかにこのまま攻撃を続けたところでアルテには届かない。


「昔ながらで、半分勢だけどもうこれしか残ってない。」


ルディは呆れたように自分自身を笑っている。



だいたい何を考えているかわかったし、私も少しは考えたよ。


あまりいい策とは言えない。


けどこのまま消耗していくよりかは……でしょ?



「あんた本当に馬鹿ね。まぁ、今回だけは大賛成だけど。」


ラルフは狼の姿だけど、いつもの呆れ顔を浮かべていた。


「リラはどう?」


私の意見も聞いてくれるんだ。



ちゃんと答えないと。



「もちろん、大賛成だよ。ルディ。」


むしろ、初めからそうしていた方が良かったんじゃない?


「よし、じゃあ決定だ。」


私たちは一斉に身構えた。


「チーム☆ゴースト……突撃ー!!!!!」


「わぁぁぁぁああ!!!!!」
「あぁぁぁあああ!!!!!」



私とダリアちゃんは大声を上げ、ラルフとルディは意外と静かにアルテに立ち向かう。


こうなったらヤケだ。


こうして4人で突っ込めば誰かの攻撃が当たるかもしれない。



頭を使うのはもうやめた。



頭だけじゃ勝てない。


そもそも、私たちの作戦は全てアルテに読まれている。



これほど意味のない作戦があるだろうか。


それより何よりこっちの方が性に合ってるしね。


「俺らをなめんなよ!!!」


先制攻撃をしたのはルディ。


ルディは大胆にもアルテの顔を狙って拳を振り上げた。


アルテが上半身を庇った隙に、すかさずラルフがアルテの右足に噛み付く。



ルディもラルフも今は手が空いていない。


思ったより上手く行ったこのヤケクソ作戦。


アルテの腹がガラ空きだ。


あの腹に一発でも強烈なのを入れたら勝ち目はあるかも。


強烈な一撃をかませる人はもう残っていない。


「ダリアちゃん!よろしく!!」


私よりもはるかに強いダリアちゃんに任せるしかない。


私はすぐにアルテの左足にまとわりついた。


「やれ!!!ダリア!!!」


ルディがダリアちゃんを勢いづけた。


「やってやるわよ!!!」


ダリアちゃんは走りながら拳を握る。


確信した。



あの拳が当たるとタダでは済まない。



「上半身、バッキバキにね!!!」


ダリアちゃんは素敵な笑みを浮かべてガラ空きだったアルテの腹に一発入れた。



バキバキバキッ!!!!



めり込む拳と、痛そうな音が響き、アルテの口からは血が吹き出す。



これは作戦大成功。



そもそも頭を使うことが私たちらしくなかったね。


これで行こう。



アルテを追い詰め、最後はこの手で殺すために。
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