生贄少女とヴァンパイア

秋ノ桜

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新しい遊び

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sideリラ


私たちはそろそろ限界を迎えていた。


「じゃあ、第1087回ジェスチャーゲームは俺の優勝。」


この1087回目のジェスチャーゲームに。


「ルーカス…一旦休憩しよう?」


私、頭がおかしくなりそうだよ。


「わかった。」


よかった、分かってくれた。


「少し休んだら狩りに行こう。腹が減った。」


ルーカスは人間だからお腹が空くに決まっている。


「私が何か狩って来ようか?」


気晴らしにもなる。



「小娘、お前は何があっても私と待機だ。自分の立場を忘れたか?」



すかさずロレンジアさんに止められる私。



「…す、すみません。」



そうだった、私はこの中で1番の問題児だった。



「狩りはそこの小僧に任せろ。」

「…はい。」


私はこのまま退屈が続くみたい。


あまりの退屈さに奇行に走りそう。


気をつけないと。



そんなことより、ルシアスは今何をしているんだろう。


心配だな、会いたいな…。



ふと、左手の指輪に触れた。



きっとこの指輪に語りかければルシアスは会いにきてくれる。



だけど、今はそんな我儘を聞いてもらっている暇はない。



長く会わない間にルシアスの気持ちが離れてしまわないだろうか。



そんな無駄な心配をしてしまう程、私は弱っていて何よりも暇だ。


その心に邪悪な魔女は付け込む。


付け入る隙を与えたが最後、私の心の奥深くにいたあの女がほんの少しだけ顔を出した。



*******************

sideルーカス


少し休憩をして狩りをした。


獲れたのは、兎3羽と鹿1匹。


これだけあれば足りる。


さっさと帰ってリラに食わせてやろう。


俺だけが腹が減っているわけじゃない。



「っ。」


鹿は結構重い…。


引きずって行こうか迷っていると…



ドーン!!!!!



いきなり爆音がした。


「っ!」


リラ達がいた方向だ。


煙が出てる。


俺は獲った獲物を全て捨てて走った。


こんな時にクロウさんがいれば。


俺は空間魔法が使えるけど安定しない。


よっぽど慣れた場所じゃないとおかしなところへ飛んで行ってしまう。


未熟だ。


未熟者は何も守れない。


人を守るだなんて夢のまた夢。


一つだけ不安があった。


ロレンジアが約束を律儀に守らないかもしれないからだ。


もしも、ロレンジアが俺たちの意図しない方法でリラからあの魔女を抜き取ったとして、リラの身が無事で済む保証がない。


最悪、俺が見ていないのをいい事にリラを殺すかも。


忘れるな、ロレンジアはライアスをよく思っていない。


ライアスの命を奪おうとさえしていた男だ。


人間は恨みを晴らす時、相手の弱点をよく狙う。


その人の大切にしている物や、最愛の人を狙う事が多い。



ライアスの最愛の人は言うまでもなくリラだ。



そのリラを守れるのは、今は俺しかいない。


俺そのものがリラの命綱なんだ。


早く!とにかく早く、1秒でも早く、リラの元へ。



















「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…」


ようやく着いた頃には…



「何をそんなに慌てている?」


全て片が付いていた。


「……リラ。」


リラはロレンジアが伸ばした植物の蔓で逆さ吊りにされている。


しかも血だらけで意識はない。


息をしているから死んではないか。



「相手がこの小娘でよかった。他愛もない。」


リラは一応ヴァンパイアなのに、その力を他愛もないと言えるなんて。



「もう気絶してる、離せ。」


必要以上に手を挙げる必要はない。



「このまま少し血を抜いておく。体力を奪っておいた方が扱いやすい。」



「そんな拷問みたいな真似…」



自分の言動に吐き気がした。


俺だって同じことをしたじゃないか。


リラに手を上げた。


あの時は仕方のない事だと思っていたけど、こうしてよく知りもしない相手がリラに危害を加えているのは見ていられない。


とんだ偽善者だ、俺は。


 
「半人前、いいことを思いついた。お前、魔法使いのくせに空間魔法をうまく使えないんだろう?
走って帰ってきたのがその証拠だ。
丁度、くだらんジェスチャーゲームも飽きていたことだ。
私が直々に教えてやろう。」



俺は何なんだ。


友達を守りきれずさらには馬鹿にされてる。



本当に情けない。




それでも男か、そんな言葉が聞こえてきそうなほど。



「お前に教わるのは心底嫌だ。……だけど、肝心な時に必要な魔法が使えないのはもっと嫌だ。」



残念ながら教えてもらうしかない。


この、ロレンジアという男は相当優秀だ。


見ていればわかる。


木にされていると言うのに完璧な魔力操作をしているから。



「では、お前が空間魔法を習得するまでこの小娘を吊るしているとしよう。
早めに身につけた方がいいぞ?
この小娘は、砂時計のようにひっくり返して血液が戻るわけではないからな。」



リラを人質に取ったロレンジアは俺を嘲笑うかのように口角を上げた。
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