生贄少女とヴァンパイア

秋ノ桜

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弱者の気持ち

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sideライアス


浅い眠りを何度も繰り返し、痛みに悶えながら目を覚ます。



「うっ…」


臓器がズタズタになっているのが見なくてもわかる、



一瞬でも自分の体を手放すとこうなるんだね。


恐ろしいことだよ。


リラの中に後一分でもいたら本当に死んでたんじゃないかな。


そう思えば、リラが僕を助けてくれた。


あの時、リラが僕を追い出さなかったら僕は本当に死んでいただろうね。


「っ……うっ……!!!」


血管に棘でも入っているんだろうか。


全身が痛い。


熱も出てきた。


流石に堪えるよ。


僕は今まで病気になったことがほぼない。


熱を出すのは何年振りだろう。


寂しい、なんて。


僕は子供じゃないのにね。


こんな所、リラには見られたくないな。


弱り切った姿なんてきっとリラも見たくないだろうけど。


変な感覚だな…。


体の表面は熱いのに、寒い。


震えるほど寒い事なんてあまり経験したことがない。



情けない姿は見せたくないのに、どうして僕はリラに会いたいんだろう。



会いたくて会いたくてたまらない。



声が聞きたい。


頭も割れそうな程痛い。


この頭痛だけでもどうにかならないかな。


「ライアス?」


僕の幻聴かな。


いよいよ頭までやられたね。



「大丈夫?」



小さくて冷たい手が僕の頬を優しく撫でた。



これはまたいい夢だ。


リラが僕に会いにきてくれたなんて。



「うん……大丈夫だよ。」



真っ暗な部屋の中、僕を見下ろす愛しいリラ。



リラの姿が霞んで見える。


これも、幻影かな。



やけに手だけはリアルだけど。



僕の頬を撫でる手を握り返したいけど、リラの幻影が消えるのが嫌でそれができない。


この都合の良い夢に浸っていたい。



本当に、僕はどうしようもないくらい情けないね。




「リラ……側にいて。…眠るまででいいから…。」



ここにいてよ。


リラは人気者だからすぐにどこかへ行っちゃうでしょ?



今くらいは独り占めしたい。



「うん……いいよ。」



リラはそう言って僕の額を撫でた。



冷たくて気持ちいい。



「ゆっくり休んで、ライアス。」



安心する。


この声も手も僕は好きで好きでたまらない。


僕のものになってしまえばいいのに。




僕だけのものになればいいのに。




「愛してるよ、リラ。」

「ほら、眠って。」



幻影まで僕の気持ちには応えてくれないんだね。


これは手厳しいな。



まぁいいか。


側にいられたらそれで。



*********************

sideリラ


立ち上がれるようになり、ルシアスの元へ行こうとしたら隣の部屋からうめき声が聞こえた。


ライアスの部屋だ。


勝手に入ってみれば、ライアスは完全に弱り切っていた。



心も体も、見ていられないくらいボロボロだ。



少しでも楽になってほしくて頭を撫でればライアスはすぐに眠りについた。



安心してくれたのなら嬉しい。



「リラ。」



ライアスが眠った瞬間、ルシアスが現れた。


背後からガッチリ抱きしめられてる。



「ルシアス…」

「優しいな…本当に。たまに憎らしくなる。」



嫉妬させてしまった。



「ただの看病ですよ。」


ルシアスを怒らせたくない。


「私が愛しているのはルシアスです。」



だからあまり怒らないで。



私はルシアスの腕を解き、ルシアスに向き合う。



今さっき愛を囁いた男に背を向けて、私は背伸びをして最愛の人にキスをした。
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